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もっと本質的なGoToトラベル論議を

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:西村尚己/アフロ)

GoToトラベルの全国一斉停止が報じられてから1日が経ちました。観光業界では各所から悲痛な声が挙がっています。例えば以下。

私自身はGoToトラベルという施策は、観光業界を「死なせない」為の一時的なカンフル剤でしかなく、どこかで必ず停止するもの。それに頼り続ける事は出来ないし、withコロナ期に適応した形に観光業界が根源的なところから変わってゆかなければ、観光業界自体が生き残れない、と。その様に繰り返し発信して来ました。

その為に必要なことは;

①感染の拡大と抑制を繰り返すであろうwithコロナ期に適応する為、近距離小グループの旅客でベース需要を確保しながら、遠方都市部からの大規模送客は感染抑制期のボーナス的な需要として享受する営業スタイルへの改革

②三密を避ける為に必然的に低稼働営業とならざるを得ないwithコロナ期において、最低限の利益を確保できるコスト構造の改革

この2つ。そして政府はGoToトラベルによるカンフル剤注入以上に、そういう観光業界の変容を裏支えしてゆく施策を重視してゆかなければならない。以下は7月のGoToトラベル実施前の私のエントリですが、ここに書いたことがそのまま記載されています。

GoToトラベル:変わらなきゃいけないのは観光産業

http://www.takashikiso.com/archives/10261280.html

一方で本当に「絶望しかない」と思えるのは、肝心かなめの政策側がそういう観光業界の変容の必要性を「我がこと」として理解していなかったということ。以下は今月12月3日に発表されたばかりの「感染拡大防止と観光需要回復のための政策プラン」と銘打たれた政策集です。12月3日というと既に感染再拡大が始まり、札幌市と大阪市をGoToトラベルの対象外とすることが決定していた時期でありますがが、恐ろしいことに本政策プランには「感染再拡大」を前提とした施策が一つとして入ってないのです。以下、第41回観光戦略実行推進会議の資料から転載。

(出所:第41回観光戦略実行推進会議)

…でその後、感染再拡大は大阪・札幌に留まらず今回GoToトラベルが全国一斉停止したわけですが、観光業界が再び暗黒期に足を踏み入れることとなった現在地から、上記「感染拡大防止と観光需要回復のための政策プラン」を検証してみましょうよ。ハッキリ言って、上記政策集に記載された政策プランの中に、これから観光業界が再び直面する難局を救うものなんかビタイチありません。今年2月のコロナ禍発生から上記政策プランが発表される12月冒頭までの足掛け10カ月、観光業界が文字通り存亡の危機にある中でヒリ出された政策が、こんなクソの役にも立たない政策集であったという事実に、関係者はもっと怒りを持って臨まなくてはなりません。

世の中では現在、GoToトラベルの停止が遅すぎただとか、いや停めるべきではないとか、withコロナ期の観光施策の本質論とはかけ離れた角度からの論議が続いていますが、ことの問題は「そこ」にはありません。これまで何度も繰り返し申し上げ、そして何度でも繰り返しますが、感染症という疾病の性質上ワクチンが一般普及するまでの間、感染の拡大と縮小は必ず繰り返し起ります。即ち、GoToトラベルという観光業界を「死なせない」カンフル剤的な施策は「早い/遅い」の多少のタイミングの違いはあれど、必ずどこかで停止することが最初から前提の施策でありました。

重要なことは、そのGoToトラベルのブースト期間において、観光業界が次なる感染再拡大期に向けてどのような準備を積み重ねて来たのかであるわけです。業界がGoToトラベルによるブーストでお祭り騒ぎになっていたこの数ヶ月の間、政府すらも明後日の方向に向かって政策を切っていた中で、コツコツと準備を重ねて来た業者はこれからまた始まる観光業界の暗黒期を何とか乗り切ることは出来るかもしれませんが、GoToトラベルの注入でただ「ラリッてただけ」の多くの業者はこの冬を乗り切ることは難しいでしょう。皆さんの健闘を心から祈ります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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