台風10号の接近するいま。行うべきこと、やってはいけないこと
ダムの事前放流がはじまっている。見に行ってはいけない
気象庁の発表によると、台風10号は今後猛烈な勢力に発達し、
6日未明から明け方 沖縄県の南大東島に接近
6日午後 奄美大島に接近
7日午後 九州西方沖を朝鮮半島に向かって北上するか、九州に接近、上陸する見込み
だ。国土交通省によれば、台風10号による大雨に備え、4日午後3時の時点ですでにダムの「事前放流」を行っている。事前放流を行っているのは、
鹿児島県 川内川流域の11ダム
長崎県 江川流域の8ダム
愛媛県 肱川流域の野村ダム
熊本県 球磨川流域の市房ダム
宮崎県 岩瀬川流域の浜ノ瀬ダム
である(今後変更する可能性あり)。
事前に放流することで、ダムの治水能力を高めるが、放流すれば河川の水位を上昇させる。ネット上には、事前放流を「珍しいこと」として「見に行きたい」「見に行こう」という声が見られるが、台風接近時に「やってはいけないこと」の筆頭が水に近づくことだ。
台風接近時にやると命を落としてしまうこと
いま、守るべきことをまとめると、以下になる。
□外出しない
車で移動中に亡くなるケースが多い
□水のあるところに行かない
田んぼ、用水路、河川、海岸。気になっても我慢する。亡くなるケースが多い
□低いところに行かない
低地、地下街、アンダーパスなど
□土砂災害が起こりそうな場所に行かない
山や丘を切り開いて作られた造形地、河川が山地から平野や盆地に移る扇状地に行かない
台風接近前にも豪雨は来るから早めの避難を
ウェザーニュースの予報画像を見ると、すでに今晩、九州地方で線状降水帯が発生する。
積乱雲1つ1つの大きさは10キロ四方程度で、寿命は約1時間。発達した積乱雲が発生しても、1つでは豪雨になることは少ない。しかし、たくさんの積乱雲が同じ場所で連続して発生すると、線状降水帯として強靭で巨大な積乱雲の組織が結成され、同じ場所に居座り続けると豪雨が発生する。
令和2年7月豪雨では球磨川は線状降水帯発生から4、5時間で氾濫した。
7月3日 午後9時39分 人吉市、球磨村に大雨洪水警報
※未明に線状降水帯が発生。人吉市で1時間100ミリを超える雨
7月4日 午前4時32分 16市町村に大雨特別警報
午前4時50分 熊本県に大雨特別警報
午前5時15分 人吉市が「避難指示」
午前5時55分 国土交通省「球磨川氾濫」を発表
これと同じことが今回も発生する可能性がある。早めの避難を心がけて欲しい。未明になると情報が伝達しにくくなり、判断も遅れる。
自分の住まい近くの川の様子を確認することも重要だ。
満潮時刻も知る必要がある。
潮位が高い時間帯は川の水が海に流れにくくなるから、河川があふれやすくなる。
今後、各河川の計画降雨量を上回る降水量が予想されており、多くの河川が氾濫危険水位を超過するだろう。「命を守ること」をシンプルに考えるべきだ。
水のあるところ、低いところには近づくべきではないし、近くにいたら離れるべきである。離れ方は「遠くへ」ではなくても、建物が頑丈であれば「高くへ」でもよい。
同時に重要なのは、自分の住む近くだけでなく上流域と地形に注意を向けることだ。降った雨は、止まっているわけではない。地形の傾斜にしたがって、高いところから低いところへと流れる。上流域から次第に下流域に水が集まってくる。
自分の住む場所が以下に該当したら早めに避難を
とりわけ自分の住む場所が以下に該当する場合は、早めに避難すべきだ。
低い土地
水は低い場所に集まるのだから言わずもがな、と思うかもしれないが、実際には低い土地に住んでいる人は多い。山梨大学地域防災・マネジメント研究センターの秦康範准教授らの調査「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」によると、浸水想定区域内の世帯数は、2015年の時点で1527万6302世帯ある。治水事業が行われても洪水が減らないのは、土地利用のあり方に問題の一因がある。都市部の地価上昇に伴い、宅地には不適とされてきた川沿いの低湿地で宅地造成が進み、新興住宅地を襲う水害は全国的に増えていった。
昨年の台風19号で、冠水した北陸新幹線、長野新幹線車輌センターは、長野市穂保にある。ここは千曲川の支流である浅川のほとり。千曲川の河岸段丘を浅川が削り周囲より土地が低い。地元の人は「水害常襲地」と言い、ハザードマップでも4メートル以上の浸水が想定されている。
川越市にある障害者施設「初雁の家」や特別養護老人ホーム「川越キングス・ガーデン」の一帯が水没し、200人以上が救出された。ここは入間川と越辺川の合流地点で、川越市のハザードマップでは4メートル以上の浸水が想定されていた。全国的に見ても、福祉施設は元田んぼなどの低地や後背低地(自然堤防の背後にある湿地)に建設されることがある。だから早めに避難すべきだ。
扇状地
扇状地とは、狭い山間地を流れる川が平坦な土地に出た時、その流れが弱まることにより、運ばれてきた土砂が扇状に堆積してできた土地のこと。土砂災害が発生しやすい。
川のカーブする近く
川はカーブで決壊しやすい。昨年の台風19号の際は、特別養護老人ホームがある川越市では越辺川の堤防が決壊した。ここで川はカーブしており、カーブの出口で曲がりきれなかった水が堤防と勢いよくぶつかった。千曲川でも上流部で大量の雨が降り、急激に水位が上昇した。水の勢いで堤防が削られる。水圧が高まって堤防内部に水が浸透する。水位が上がり越水する。越水すると堤防は外側からも削られる。こうして川が決壊した。
川の支流と本線で合流する場所
合流地点も氾濫が起こりやすい。昨年の台風19号で被災した宮城県丸森町役場の周辺は、阿武隈川に近く、流れ込む五福谷川との合流部の低地だった。しかもすぐ先で阿武隈川がカーブしており、水は流れにくい。令和2年7月豪雨の被災地を考えると、人吉盆地を流れる球磨川の河床勾配は小さい。さらに、人吉盆地を抜けると狭窄部といって川幅が極端に細くなる。狭窄部では川の流れが滞りやすく、水害が起きやすい。
昨年の台風15号の教訓
今回の台風10号は昨年の台風15号よりも被害が大きくなるだろうとされている。
昨年の台風15号のことを思い出してみよう。9月9日に東京湾を北上し、関東地方に上陸した台風は、千葉市付近に上陸したときの勢力が、中心気圧960ヘクトパスカル、最大風速40メートル/秒の「強い」勢力だった。日本近海に広がっていた、30度以上の海水温の高い海域から、エネルギーを吸い上げて勢力を強めた。
台風に吹き込む風は反時計回りで、進行方向の右側で強くなる。結果として千葉に風による甚大な被害をもたらした。今回、九州の西側を北上することも考えられ、その場合、台風よりも東側の九州全域に千葉と同じようなことが起こる可能性がある。千葉では何が起きたか。倒れた送電塔2本、電柱84本、電線約2000本。これによって長期間にわたり電気が失われた。千葉県東部の山武市では一時、総戸数の約6割が電気を失った。
電気はあらゆるインフラを下支えしている。浄水場を動かすのも、ポンプで水を送るのも電気である。電気を失い、断水は長期化した。自前の井戸をもつ家庭でも、汲み上げポンプが動かなくなった。
風の備えと同時に、停電と断水に対する備えが必要ということだ。
停電と断水に備える
電力への備えは、懐中電灯とボンベ式コンロで行う。
断水への備えは、水道水での備蓄は、比較的簡単で確実な方法だ。ポリタンクなど密閉できる容器に入れて水道水を保存しておく。
1人が、1日に必要な飲み水は約2リットルとされるが、被災するとビスケットや乾パンなど乾燥した食べものが中心になり、水分が不足しがちになる(普段は食べものに含まれる水分を1リットル程度吸収している)。だから1日に3リットル程度の飲み水が必要だ。
そして、必要なのは飲み水だけではない。手や顔を洗う、トイレを流すなど、衛生を保つための水が1日に10~15リットル必要になる。ペットボトルでの備蓄をしている人は、この衛生を保つ水のことを忘れているケースがある。
仮に5日分を備蓄するとなると、
飲用 15リットル
衛生用 50~75リットル
が必要になる。これを水道水のくみおきと、風呂の残り湯などで備えて欲しい。