本質を見極めるには、新聞を毎日読むのが効果的
新聞はインターネットに敵わないのか?
残念なことに、昨今は若い世代を中心に、新聞を読まない人が増え続けています。ニュースそのものに関心を示さないばかりか、ニュースに関心がある場合でも、インターネットから簡単に情報を拾うことができるからでしょう。
それぞれの新聞社によってインターネット上に配信される記事は、紙面に掲載されるものよりも省略された内容になっていることが多いのですが、大まかな情報を押さえるだけであれば、これでも十分であると思います。
しかも、ニュースの情報がリアルタイムに近い状況で読者に伝えられるという点では、新聞はインターネットにまったく敵いません。今日のグローバルな情報化社会では、情報の鮮度が重視されるケースが増えているので、インターネットの優位性が日に日に高まっているようにも思われます。
しかしそれでも、自らの知識力を高めたいと考えている人には、あるいは、俯瞰力や大局観を養いたいと考えている人には、毎日欠かさずに新聞を読むことが、読書に没頭するのと同じくらい必要不可欠であると私は考えています。
新聞を読むことで、なぜ世の中の流れがわかるのか
新聞紙面を読むことには、インターネットに勝る非常に大きいメリットがふたつあります。ひとつめは、読む人が新聞を通して、政治、経済、社会、文化などのそれぞれの分野で起きた出来事を、自ら俯瞰して見ることができるという点です。要するに、国内外の出来事にかかわらず、世の中の大きな流れを大まかに把握するには、新聞の一覧性が適しているというわけです。
これに対してインターネットでは、情報を収集しようとしても、新聞に比べてあまりにも情報が氾濫しているのが問題点です。情報量があまりにも多すぎるために、世の中の大きな流れが把握しづらいばかりか、何が重要な情報であるのかもわかりづらくなってしまっているのです。
新聞紙面においては、記者の目を通してあらかじめ重要な情報と重要でない情報が選別され、重要であると思われる記事だけが掲載されています。ですから、新聞を毎日のように読むようになれば、見出しと本文の要約文章をざっと読むだけでも、世の中の大きな流れがつかみやすくなるというわけです。
新聞を読むことで、なぜ視野が広がるのか
ふたつめは、関心のなかった記事にもひと通り目を通すことができるということです。多くの人々がインターネットでニュースを見る場合、関心のある分野の出来事ばかりを探しながら読んでしまう傾向があります。これでは、せっかく吸収できる知識や情報が自分の興味のあるジャンルに偏ってしまい、自らの視野が広がらなくなるのです。
新聞をめくりながら読んでいくと、関心のある記事は思いのほか少なく、むしろまったく興味のなかった分野に関する記事が数多く目に飛び込んでくるのがわかります。実は、ここが新聞を読むことの肝なのです。
自分の興味の赴くままに情報に接していると、多くの貴重な情報を遮断してしまうのに対して、新聞に目を通していると、一生知ることができなかったかもしれない重要な情報に巡り合うことができるのです。このような体験の積み重ねが、新しい視点から物事を見る目を育てることになり、知識や思考の幅、そして本質を見極める力をつけていくことにつながるというわけです。
たとえば、日本経済新聞をひと通り眺めてみると、「一面、総合、政治、経済、国際、消費、企業、投資情報、マーケット、証券、経済教室、キャリアアップ、地方経済、スポーツ、社会、文化」など、多岐なジャンルに分かれて記事が掲載されています。毎日のように読んでいると、偏りのないバランスのとれた知識や情報を取り入れることができるのです。
どのように新聞を読んだらいいのか
私は経営アドバイザーという仕事柄もあり、どんなにスケジュールがきつくても、日本経済新聞は毎日必ず読むようにしています。私が日々、日本経済新聞を読むのにとっている時間は30~40分くらいですが、もっと時間に余裕のあるときは、読売新聞や産経新聞など、なるべく複数の新聞に目を通すように心がけています。
そこでここからは、私がどのように新聞を読んでいるのか、簡単にご紹介していきましょう。
新聞記事のひとつひとつは、見出しと本文で成り立っています。これは、大きい記事でも小さい記事でも例外がありません。本文の構成においても通常は、最初の段落で記事全体の要約をして、その後の段落から内容を詳しく説明しています。ただし、記事全体が一段落か二段落しかない小さい記事では、初めの一文で要約をして、残りの文章で内容を説明している場合があります。
私はそのような新聞のつくりを踏まえて、基本的には見出しと要約だけを読んでいきます。さらに理解を深めたい記事については、本文全体まで目を通すようにしています。もちろん、見出しだけしか見ない記事もたくさんありますが、それらの記事は見出しだけで内容が理解できるか、読まなくても支障がないか、いずれかになります。
このようにして私は、読まなければならないところ、読まなくても問題がないところを自らの知識と経験に基づいてフィルタリングしているのです。ですから、新聞紙面全体に目を通しても、比較的短い時間で、効率よく読むことができるというわけです。
継続に勝るものはない
そうはいっても、私が学生時代に新聞を毎日読もうと決意して以来、これまで新聞を読み続けてくるのは、まさに努力の連続であったと思います。日本経済新聞を読みはじめたころは、今のように読むコツなどまったくわかっていなかったので、全体に目を通すのに3時間もかかっていたのを、今でもよく覚えています。
ところが、根気強く読むことを継続していくうちに、だんだんと読むコツがわかってきて、読むスピードも少しずつ速くなっていったのです。
すでに今の私には、そのころよりも十分な知識力と幅広い視野が備わっているので、ひとつひとつの見出しを見るだけでも、その記事の内容を瞬間的に推測しながら読み進めていくということもできるようになりました。さらに、新聞を俯瞰して世の中の大きな流れをつかむと同時に、多くの記事のなかでどの記事の情報が重要であるかを見極めることもできるようになりました。
「継続は力なり」という言葉は、日本人ならば誰でも知っているでしょう。ひとつひとつの成果は微々たるものであっても、地道な努力を続けていけば、やがて大きな目標を達成できる。私は自らの経験を通して、この言葉のすばらしさを深く重く実感している次第です。
有名なIT企業の経営者が新聞を重宝するわけとは
IT企業の経営者のなかにも、新聞の重要性を主張する人が意外に多いのには驚かされます。事実、IT企業の著名な経営者ほど、インターネットからではなく新聞から日々の情報を得ている人が多いのです。
その代表的な人物が、サイバーエージェントの藤田晋氏です。藤田氏は毎朝、複数の新聞を読んでいるといいます。「新聞を読まない人とはビジネスをしたくない」といったことを公言しているほどなのです。
おそらく、藤田氏が新聞を重視する理由は、新聞を俯瞰すると、関心の有無に関係なく、さまざまな記事が自然と目に飛び込んでくるからなのでしょう。先ほど申し上げたように、インターネットでニュースを読もうとすると、読み手が興味のある分野のニュースを選びがちになってしまいます。これでは、どうしても得られる情報が偏ってしまいます。
これに対して新聞であれば、個人の興味の有無に関係なく、さまざまなニュースを目にすることができます。それを契機にして自らの知識の幅を広げれば、俯瞰力、大局観、洞察力などを深めることができると、藤田氏は考えているのではないでしょうか。
このように新聞を重視しているのは、何も藤田氏の話に限ったことではありません。GMOの熊谷正寿氏やグリーの田中良和氏など、名だたるIT企業の経営者が口をそろえて、新聞を読むことの重要性を唱えているのです。彼らはIT企業の優秀な経営者だからこそ、インターネットの欠点、インターネットに過度に依存する怖さといったものを熟知しているのでしょう。