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横暴な男たちと闘い、自給自足生活を送るヒロインを演じて。セリフのない表現を経験して考えたこと

水上賢治映画ライター
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

 異例のロングランヒットとなった「岬の兄妹」の自閉症のヒロイン、真理子をはじめ、素人目で見てもそう容易くない、ある意味、賛否を呼ぶような役に、怯むことなく果敢に挑んでいる印象のある女優、和田光沙。

 新たな主演作となる長尾元監督の「映画(窒息)」で臨んだ役もまたチャレンジング。なんと原始人のような恰好をして、人気のない山奥で、自給自足で生きる女性を演じている。

 おおよそ見本のないような特異なヒロインなのだが、和田はここでも一切セリフがない中、表情やしぐさを駆使して、この女性を確かにそこに存在する人物へとして輝かせる。

 24歳で運送業のドライバーから俳優業へと転身し、独自の役者道を歩む和田光沙に訊く。全五回。

「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

セリフのない表現へのチャレンジについて

 前回(第四回はこちら)まで、作品についてあれこれ訊いてきた。

 では、「チャレンジしてみたかった」というセリフのないところでの表現に取り組んでみてどんな感覚を得ただろうか?

「いや役者として、すごく鍛えられた気がします。

 実りの多いチャレンジができたと思います。

 言葉がない中で、体のアクションだけでどうすれば伝えたいことが伝わるのか。

 その試行錯誤だったんですけど、考えの行きついた先は、お芝居の原点というか。

 お芝居って、もちろんセリフ=言葉も大切なのだけれど、どういう表情をしてどういう動きをするのかが基本ではないかと。

 アクションの言葉通り、自分の肉体をもってどう動くかがお芝居のベースにある。

 だから、そこをおろそかにしてはいけないし、逆にそのアクションを磨けば磨くほどいろいろな表現が可能になる。

 余計な虚飾をすべてとっぱらって、自分の体ひとつでいま自分はどれぐらい表現ができるのかを知る時間でもありました。

 そこでまだまだ自分は言葉に頼っていて、足りないことがあることがわかったところがありました。

 一方で、ここを磨けばこういう表現ができるかもしれないと演技の可能性を感じる瞬間もありました。

 いずれにしても自分の糧になったと思います。

 たぶん、通常のセリフのある作品だと、こういうことに気づかないままでいっていたような気がします。

 そういう意味では、いまここでセリフのないお芝居に挑戦できてよかった。

 長尾監督には感謝しないといけないなと思います」

「映画(窒息)」より
「映画(窒息)」より

またチャンスがあったら取り組んでみたい

 あと、こんなことも感じたという。

「言葉がないと、たとえば相手がいると、その人という人間に集中するんですよ。

 言葉があると、その人の顔を見ているんですけど、意識は言葉の方に向いている。

 でも、言葉がないと、その人の顔色や行動を見ることに集中して、そこから何かを察して、考えていることはこちらに伝えたいことを読み取ろうとする。

 それを繰り返していると、どこか精神的に研ぎ澄まされるところがあって、以心伝心じゃないですけど、なにを言わんんとしているのか、どういう気持ちでいるのかが、なんとなく表情やしぐさでわかってくるところがある。

 それはちょっと面白かったですね。

 通常のお芝居は言葉のやりとりで、間が悪かったり、逆に良かったり、呼吸が合っているか、合っていないのかがわかるところがある。

 言葉のないやりとりだと、なんか体でわかるというか。

 体でなんかいま波長があってないなとか、ちょっとうまく自分の言いたいことが伝わらなかったなとか、わかるんですよね。

 その感性をもっと鍛えたら、もっといいお芝居ができるのではないかと思いました。

 そういう意味で言うと、自分の動きということも深く考える機会にもなりました。

 お恥ずかしい話ですが、これまであまり自分の体の動きということに無頓着だった気がします。

 セリフがあるとどうしてもセリフの方に集中して、セリフをいかに説得力のあるものにすればいいか、どれぐらいの感情をこめればいいかということに集中してしまうところがある。

 この言葉を言うとき、どういう表情をすればより何かを感じてもらえるものになるのかとか、これを言うとき、どういった体の動きをするのがベストの形になるのかとか、そういった肉体的な動きにまで気が回らないでいました。

 でも、今回の経験で、こういうセリフを言う場合は、こういう動きがいいかなとか考えるようになりました。

 このようなセリフのときは、このような呼吸で言うのがいいのではないかと考えるようにもなって。

 もっと言うと、呼吸ひとつとってもいろいろな表現ができる、感情によって呼吸も変化するなと思うようになりました。

 それともうひとつ、言葉がないお芝居というのはごまかしがきかない。

 もう体ひとつで伝わるか伝わらないか、感じてもらえるかもらえないかの勝負になる。

 それは役者としての度量を試されるところがあって、わたしはいい経験になりました。

 またチャンスがあったら取り組んでみたいですね」

(※本インタビュー終了)

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第一回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第二回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第三回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第四回はこちら】

「映画(窒息)」メインビジュアル
「映画(窒息)」メインビジュアル

「映画(窒息)」

監督:長尾元

出演:和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、寺田農ほか

全国順次公開中

公式サイト:http://www.tissoku.com/#home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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