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自給自足生活の異色ヒロインに挑んだ和田光沙。横暴な男に虐げられる彼女から考えたこと

水上賢治映画ライター
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

 異例のロングランヒットとなった「岬の兄妹」の自閉症のヒロイン、真理子をはじめ、素人目で見てもそう容易くない、ある意味、賛否を呼ぶような役に、怯むことなく果敢に挑んでいる印象のある女優、和田光沙。

 新たな主演作となる長尾元監督の「映画(窒息)」で臨んだ役もまたチャレンジング。なんと原始人のような恰好をして、人気のない山奥で、自給自足で生きる女性を演じている。

 おおよそ見本のないような特異なヒロインなのだが、和田はここでも一切セリフがない中、表情やしぐさを駆使して、この女性を確かにそこに存在する人物へとして輝かせる。

 24歳で運送業のドライバーから俳優業へと転身し、独自の役者道を歩む和田光沙に訊く。全五回。

「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

ひとつの文明の終わりを感じさせるあの場所は?

 前回(第三回はこちら)に引き続き、作品についての話を。

 本作でひとつ気になるのが撮影地だ。

 長尾監督から「ひとつの文明が終わった後の世界」という説明がなされていたことが前回触れられたが、まさにそう思える、山奥でありながらなぜかコンクリートの建物が立つ不思議な場所で撮影されている。

「あの場所は、長尾監督がほんとうに自分の足で探し出してきた場所です。

 山の中にあるんですけど、昔は一面がテーマパークだったそうです。

 いつごろかはわからないのですが、かなり前に閉園していて、いまは私有地になっている。

 それでああいう不思議な建物がそのまま残っていて、月日が経ったこともあって、あのように草木に覆われたような状態になっている。

 いまはもう完全に立入禁止になったみたいなんですけど、撮影のときはぎりぎり許可が下りて撮影することができたんです。

 ほとんど人もこないところなんですけど、たまにハイキングしにきた方が現れたりということがありましたね。

 実際に撮影で使ったあの建物以外にも、ゴーカート用の舗装された道路コースがあったり、謎の塔が建っていたり、職員の宿舎があったりと、いろいろありましたがいずれももう緑に侵食されている感じで、ほんとうに不思議な場所でした。

 長尾監督が言うように、あるとき、ひとつの文明が終わりを告げて、人がいなくなって……。

 少ししたら新たな人が現れて、住み始める。

 そんな感じ雰囲気が漂っているというか。

 もう誰も住んでおらず朽ち果てているのだけれど、過去の住人の気配がほのかに残っているような場所でしたね。

 で、撮影はすべて同じところで撮っています。

 女が水浴びをする川も、狩猟する山林も、メインの舞台となる建物からさほど離れていない場所でした」

「映画(窒息)」より
「映画(窒息)」より

撮影していると、すぐ近くに、ふつうにシカやサルが出没

 裏話としては、あの場所で、演じた女と同じような生活をしているようだったという。

「女は、日が出てきて朝がくると起きて、日が暮れると真っ暗になるので寝る。

 住んでいる建物は森の中で、常に野生動物の気配が漂っている。

 わたしも撮影の現場で体感していたのはほぼ同じで。

 毎朝、決まった時間にあの建物に行って、日の出とともに撮影が始まって、日の入りとともに撮影が終わる。

 夜のシーンもありましたけど、それも1日だけ。

 で、撮影していると、すぐ近くに、ふつうにシカやサルが出没するんですよ。

 ほぼ女の暮らしとかわらない。

 だから、現場に入っている間は、女の生活を実際に経験しながら撮影している感覚がありました。

 野外で何もないところで大変だったんじゃないですかと、おっしゃる方もいらっしゃるんですけど、わたしは女の気持ちに近づけた気がしてすごくいい環境に置いてもらえたなと思っていました。

 女と同じように自然と大地とともに日々生きているような実感を毎朝得ていました」

女の立場から見えてくる社会的メッセージについて

 では、ここからは作品の内容について話を。

 本作は、和田が演じる山中で暮らす女が主人公。自給自足で穏やかな毎日を送る彼女だったが、ある日、その生活が踏みにじられる出来事が起こる。

 男三人組の山賊が出現。なすすべなく彼女は襲われ、力づくですべてを奪われる。

 その後、彼女の前に若い男が出現。次第に打ち解け、二人での幸せな日々が続くかと思われたが、それも支障をきたしていくことになる。

 さらに再び同じ山賊が襲ってくる事態にも見舞われる。

 その物語から垣間見えるのは、横暴な男たちに虐げられる女性の姿にほかならない。

 そこからは社会における女性の立ち位置や男性上位社会といったことが浮かびあがってくる。

「正直なことを言うと、最初、わたしは男女間や性差における社会問題をこの作品からが感じとっていなかったんです。

 ただ、演じていく中で感じとっていったというか。

 たとえば、女は若い男と暮らし始める。すると少ししてから、男が狩りにいって、女は家で待っていて、獲物を料理するという役割に自然となっていく。

 そこで違和感を覚えるわけです。『なんでわたしは奥ゆかしく家でごはん作ってまっているんだろう?』と。

 で、考えると、山賊も含めて男の出現によって、彼女は意にそわないところへと押し込められていくことになっていく。

 それに対して女は納得できなくなって抗っていくことになる。

 そこで気づいたんです。長尾監督のいまの日本社会に対するメッセージが入っているのではないかと。

 わたし自身が女を演じることで、いまの女性の立場について何か怒りに駆られたり、不条理を感じたりすることはなかった。

 ただ、そういう社会的側面があることは演じながら感じて、しっかり伝わるように女を演じないといけないと思いました」

(※第五回に続く)

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第一回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第二回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第三回はこちら】

「映画(窒息)」メインビジュアル
「映画(窒息)」メインビジュアル

「映画(窒息)」

監督:長尾元

出演:和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、寺田農ほか

全国順次公開中

公式サイト:http://www.tissoku.com/#home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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