原始人風(?)の自給自足の女役に果敢に挑んだ和田光沙。「セリフが一切ない」脚本の印象は?
異例のロングランヒットとなった「岬の兄妹」の自閉症のヒロイン、真理子をはじめ、素人目で見てもそう容易くない、ある意味、賛否を呼ぶような役に、怯むことなく果敢に挑んでいる印象のある女優、和田光沙。
新たな主演作となる長尾元監督の「映画(窒息)」で臨んだ役もまたチャレンジング。なんと原始人のような恰好をして、人気のない山奥で、自給自足をしながら生きる女性を演じている。
おおよそ見本のないような特異なヒロインなのだが、和田はここでも一切セリフがない中、表情やしぐさを駆使して、この女性を確かにそこに存在する人物へとして輝かせる。
24歳で運送業のドライバーから俳優業へと転身し、独自の役者道を歩む和田光沙に訊く。全五回。
長尾監督の前作を見ての印象は?
前回(第一回はこちら)、セリフが一切ないことを含め、どんな演技が求められるのか、どんな作品になるのか、まったく想像できない、そのことが自身のチャレンジ精神に火をつけて出演を決めたことを明かしてくれた和田。
さらに、長尾監督の前作に触れて、ますますどんな作品になるのか想像がつかず、参加してみたいと思ったそうだ。
「長尾監督の前作に当たる長編デビュー作の『いつかのふたり』をみさせていただいたら、ちょっと想像と違ったんです。
前にお話ししたように、今回の作品のプロットには監督のいまの社会への怒りが書き連ねてあった。
だから、てっきり尖った、エッジのきいた社会派の作品ではないかと、予想していたんです。
そうしたら、『いつかのふたり』はどちらかというとひじょうにヒューマンないいお話だったんです。
だから、エモーショナルな感情が詰まっていた熱いプロットとは似ても似つかないというか。
まったくつながらなくて(笑)、そこで『どんな作品になるんだろう』と期待が高まりました」
脚本の第一印象は?
その後、脚本が出来上がって目を通したときの第一印象をこう明かす。
「当然なんですけど、セリフは一切ないんです。
だから、登場する人物がなにをいわんとしているのかはさっぱりわからない(苦笑)。
通常は、人物の会話から、相手がどんなことを感じているのかとか、どんなことを思っているのかとか、察することになる。
でも、会話がないから、その人の感情をつかめないところがある。
じゃあ、物語がまったくわからない、理解できないかというとそんなことなくて。むしろ、よくわかるんです。
その人物がどういう場所にいて、どういう行動、アクションをするのかは、事細かく書かれている。
たとえば、その人物がここでため息をつく、とかまで書かれている。
だから、ひとつの読み物としては面白くて、装飾が一切ないからストレートにこちらに入ってくる。
でも、これを映像にしたときのことがイメージできない。
物語としては、ひとつの文明が終わったあとの時代、女がひとり狩猟生活を送っている。
そこに他者が加わってきて、出会い、対立、闘いといった感じになって、関係におけるパワーバランスの変化が起きる。
このように至ってシンプルな物語なんです。
でも、シンプルであるからこそ、これをどう表現したら面白いものにできるのか、長編映画にしたときにこれだけの素材で面白いものになるのか、わたしはまったくイメージできなかったですね。
だから、わたしはこれだけで面白くなる、大丈夫なの?と正直思いました。
でも、脚本を読むにつれて、すべてに説明が行きとどいていて、このシーンではどんな音楽かまで書かれている。
そこで気づきました。『あっ、もう長尾監督の頭の中で理想のシーンがすべて出来上がっているんだな』と。
としたら、わたしとしては長尾監督を信じてついていけばいい。
共演者の方々と呼吸を合わせて、演じていけばいいのかなと思いました。
そんな感じで、これまでにない不思議な印象を残す脚本でしたね」
(※第三回に続く)
「映画(窒息)」
監督:長尾元
出演:和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、寺田農ほか
全国順次公開中