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全額補助? CLTのイノベーション潰す補助金が誕生

田中淳夫森林ジャーナリスト
CLTで建設中のオフィスビル。CLTの壁がそのまま構造材となる (筆者撮影)

 日本経済新聞3月29日夕刊の記事を読んで驚いた。

'''高強度の建材 政府が助成金'''

 一見、地味な記事だが、ようするにCLT(直交集成板)と呼ばれる木造建材を使うと補助金を出すというものだ。予算に6億円計上したという。その出だしは

「政府は建設会社が木材を使った新建材を購入する費用を補助する制度を5月にも始める。対象は強度が高い「直交集成板」(CLT)と呼ばれる建材で、平均価格にあたる1立方メートルあたり15万円を上限に全額補助する。」

 そして記事の最後の方にあるのは、

「(CLTの)価格は現在は1 立方メートルあたり15万円で、政府は林業や木材加工会社の生産性を高めることで、欧米並みの7万~8万円に引き下げる目標を掲げている。」

 日本でつくられるCLTは1立方メートル15万円するので、15万円全額補助する……差額を出すのではなくて全額?

 こんな助成ってありなのか。7万円台まで引き下げようと目標を掲げておきながら、15万円全額の補助が出るなんて。ちなみに欧米では、すでにCLT価格は6万円台に下がっていると聞く。企業努力をしているのだろう。

 少しCLTについて説明しておこう。これはラミナと呼ばれる厚さ数センチの木材の板を木繊維の方向を直交させながら3枚、5枚、7枚……と重ねて接着したパネルだ。すると、強度が非常に強くなり耐震性も増す。そのまま構造材にできるので高層の木造ビルも可能になる。ほかにも工期を短縮できるなど利点が多い。

CLTは可能性のある建材だが……
CLTは可能性のある建材だが……

 欧米では実用化し普及も進んでいるが、日本では建築基準法の改正を行って使えるようにしたばかりだ。国としては、国産材によるCLTの生産が増えたら、非住宅建築物に使えて国産材需要がのびると期待しているようだが、今のところ国産は高すぎるうえ建設技術のノウハウが少ないので施工例は少ない。

 だからこそ、今回のような補助金を設けようというのだろうが……建設資材の購入費を直接助成する制度は初めてであるうえに、果たして国産材のCLTだけに限ることができるのだろうか。それとも外国産材による国内製造のCLTにも適用するのか。後者でもよければ日本の林業には貢献しない。一方で、もし輸入CLTを排除する規定だったらWTOの違反になる恐れがある。

 何より15万円のものを購入するのに15万円の補助とは……あまりと言えばあまりの愚策である。これまで日本の林業政策は、補助金ありきで進んできた。結果、業者側のイノベーション意識が希薄になり、常に行政の後押しを待つ体質が濃厚だ。今回も、まさに国におんぶに抱っこではないか。

 国は需要を補助金でつくったら生産効率が高まって低コストになると判断しているようだが、おそらく逆効果だろう。助成が出るのに値を下げる努力はしない。一方で助成を受け取れない林業側には、コスト削減のため原木の買取価格を下げる圧力とならないか。それでは林業側からすれば、木材需要が増えても利益は出なくなり意欲を失うだろう。

 そして補助金が打ち切られた時、国産材のCLTは消えていくのではないか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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