Yahoo!ニュース

「少年ジャンプ」と集英社が世界に拡げる、日本の「マンガ」文化の可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
2006年にはジャンプの人気キャラのゲームが発売(出典:任天堂ウェブサイト)

「鬼滅の刃」に「呪術廻戦」、そして「スパイファミリー」と次々とアニメの大ヒットが生まれています。

そんな大ヒットしたアニメの原作を生み出し続けているのが、集英社の「少年ジャンプ」のマンガであるのは有名な話ですが、そんな「少年ジャンプ」が着々と海外展開を強化しているのをご存じでしょうか。

「少年ジャンプ」が海外展開をしている拠点となっているのが「MANGA Plus by SHUEISHA(以下 MANGA Plus)」というアプリです。

海外でも「少年ジャンプ」を読める「MANGA Plus」

この「MANGA Plus」が開始したのは、3年以上前の2019年1月のこと。

「ONE PIECE」や「僕のヒーローアカデミア」の最新作などが、「英語とスペイン語」ですべて無料で読める仕組みとして開始されました。

(出典:App Store )
(出典:App Store )

参考:集英社の海外向けWeb版ジャンプ、英語とスペイン語で無料配信

残念ながら日本からはアクセスできませんので、その具体的な中身を観ることはできないのですが、このアプリが徐々に海外でも認知を増しているのです。

現在の月間アクティブユーザー数は600万超と発表されており、現在では英語とスペイン語だけでなく、ポルトガル語、タイ語、インドネシア語、ロシア語まで最大7言語の多言語展開している模様。

海外での「MANGA」検索数も増加

実際にGoogleトレンドで、世界での「MANGA Plus」の検索数をみてみると、着実に右肩上がりで増加しているのが分かります。

(出典:Googleトレンド 「MANGA Plus」検索数推移)
(出典:Googleトレンド 「MANGA Plus」検索数推移)

もちろん、グローバルのマンガ市場でいうと韓国発の「Webtoon」が注目されていると言われており、その検索数を単純比較すると、「Webtoon」と「MANGA Plus」の検索数には大きな違いがあります。

(出典:Googleトレンド検索数推移 青「MANGA Plus」 赤「Webtoon」)
(出典:Googleトレンド検索数推移 青「MANGA Plus」 赤「Webtoon」)

ただ、実は「MANGA」という単語自体の検索数も、2009年から2018年ぐらいまで、右肩下がりで推移していたのが、2019年に「MANGA Plus」がサービスを開始してから、明らかに右肩上がりの増加傾向になっているのです。

(出典:Googleトレンド検索数推移 青「MANGA Plus」 赤「Webtoon」 黄「MANGA」)
(出典:Googleトレンド検索数推移 青「MANGA Plus」 赤「Webtoon」 黄「MANGA」)

こうした取り組みの成果か、日本のマンガの北米市場における2020年の売上は約2億4000万ドルと、前年の約1億6000万ドルから急増しているのだそうです。

参考:「MANGA Plus」は日本の切り札になるのか?   「少年ジャンプ+」編集部の挑戦

集英社は投稿サービスなど海外展開を加速

そうした成功に手応えを感じているのか、集英社ではこうした海外展開のアクセルを更に加速しています。

2023年からは、Web媒体のマンガ連載誌「少年ジャンプ+」における新連載はすべて英訳して、「MANGA Plus」を通じて全世界へ配信すると発表しました。

参考:「ジャンプ+」新連載は英訳して世界同時配信。「世界規模のヒット創出」

また、8月30日には「MANGA Plus Creators by SHUEISHA」という新しい投稿サービスを公開。

なんと、これは世界中のマンガを描くクリエイターが自身の作品を自由に投稿・公開でき、世界中の読者に読んでもらうことができるサービスとなっているのです。

参考:ジャンプに集う世界の漫画家たちの才能 海外向け漫画投稿サービス『MANGA Plus Creators』はカオスな”インターネット”だった

さらには、このサービスの中で「Monthly Awards」という企画も毎月開催。

金賞作品は賞金100万円に加え、「MANGA Plus by SHUEISHA」と「少年ジャンプ+」に掲載される仕組みを提供。

早速9月の受賞作品が発表されていましたが、注目すべきはその応募数でしょう。

少年ジャンプ+編集のモミーこと籾山副編集長によると、その応募数はなんと1ヶ月で2000作品5000話以上。

国内で同様の仕組みとして実施している「ジャンプルーキー!」の応募数を上回っているのだそうです。

つまり、世界中のマンガ家の卵が、今、集英社のマンガコンテストに大量に集結しつつあるわけです。

「少年ジャンプ」の黄金期と言えば90年代を想像する方も多いと思います。

当時の人気キャラクターを軸に2006年には「ジャンプアルティメットスターズ」というゲームが発売されたりもしていました。

現在の「少年ジャンプ」は、世界のマンガ家を集めて新しい世界での黄金期に突入しようとしていると言ったら大袈裟に聞こえるでしょうか。

10年後には海外のマンガ売上が国内と同じ規模に?

従来、日本のマンガを海外で読むためには、海賊版経由で読むしかないという時代がありました。

そのため、どちらかというと海外の方は、アニメで初めて日本のマンガ作品を知るというケースが多かったようです。

これは、私たち日本人が「マーベル」や「DC」などの海外の出版社の作品であるスパイダーマンやスーパーマンを、書籍ではなく映画経由で知ることが多いのと同じと言えます。

それが現在では、こうした集英社をはじめとした日本の出版社の努力の成果もあり、海外で日本と同時に日本のマンガが楽しめるようになり、海外でのマンガの売上も着実に上がっているそうです。

今年の6月に開催された「ジャンプのミライ」というイベントでは、籾山副編集長が「ONE PIECEの累計発行部数は昨年のデータですと国内で4億以上、海外では9千万部で、約2割の比率です。ここ数年、海外でのマンガの単行本の売上が全体的に増えていて、私の予想では10年後には5対5くらいになるのではないかなと思っています。」と発言されていたそうです。

参考:ジャンプの現在位置 ~少年ジャンプ+を核とした取り組みの最新報告~

「ONE PIECE」といえば、現在映画「ONE PIECE FILM RED」が日本で大ヒット中ですが、アメリカでの公開にむけてニューヨークのタイムズスクエアをジャックしたことが話題になっていました。

こういう海外での大きなプロモーションの取り組みをできるようになったのも、海外に「ONE PIECE」ファンが着実に増えているからと言えるのでしょう。

現在、Netflixなどの動画配信サービスの影響もあり、日本のマンガとアニメは海外に着実にファンを増やしつつあります。

そこにこうした集英社のマンガの世界展開の取り組みが連動すれば、間違いなく日本のマンガとアニメは、今まで以上に海外にファンを拡げてくれるに違いありません。

現在は世界中にファンをもつ「マーベル」や「DC」も、元々はアメコミと呼ばれるマンガの出版社でした。

集英社や「少年ジャンプ」が、海外でも「マーベル」や「DC」に匹敵するブランドに育つことを期待してしまうのは、私だけではないはずです。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事