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開幕から14試合連続無失点。前DeNA田中健二朗は高校時代を過ごした静岡でNPB復帰を目指す

菊田康彦フリーランスライター
高校時代を過ごした静岡に誕生した新球団、くふうハヤテでプレーする田中(筆者撮影)

 今シーズンからプロ野球(NPB)の二軍、ウエスタン・リーグに参加している新球団、くふうハヤテベンチャーズ静岡。5月14日からはホームグラウンドのちゅ~るスタジアム清水ではなく、同じ静岡市内にある草薙球場にイースタン・リーグの東京ヤクルトスワローズを迎えて初のファーム交流戦3連戦を行い、2勝1敗と勝ち越した。

 くふうハヤテにとっては初めてのナイターとして開催されたその初戦。7回裏に3対2と逆転に成功し、1点リードの9回表に登板したのが昨年まで横浜DeNAベイスターズでプレーしていたサウスポーの田中健二朗(34歳)である。

無死三塁の絶体絶命も「あまりピンチと考えず冷静に」

 チームは4月29日の中日ドラゴンズ戦(ナゴヤ)を最後に白星から遠ざかっており、田中もこの日が5月3日の阪神タイガース戦(甲子園)以来のマウンド。試合後に「少しゲーム間隔も空いていたので、そういうところの詰めが甘いなっていうのは自分で感じてました」と振り返ったように、先頭打者に二塁打を打たれると次打者への初球が暴投となって無死三塁という絶体絶命のピンチを招くが、そこからが真骨頂だった。

「よくランナーが出ることはあるんで、それは頭に置いていつもマウンドに上がってるんで、あまりピンチと考えず冷静になって」と、落ち着いたピッチングで後続をファーストフライ、空振り三振に抑えてツーアウト。最後は途中出場の三ツ俣大樹にカウント1-1からカーブでセカンドゴロを打たせて試合を締めくくり、この時点でリーグ3位タイとなる今季3つ目のセーブを挙げた。

 愛知県出身の田中は静岡・常葉菊川高で2007年春夏の甲子園に連続出場し、春は優勝投手になった。その年の高校生ドラフトで、横浜(現横浜DeNA)ベイスターズから1巡目指名を受けてプロ入り。2010年に初めて一軍のマウンドに上がると、2015年には61試合の登板でセ・リーグ5位タイの28ホールドポイントをマークするなど、左のセットアッパーとして活躍した。

 2019年に左ヒジのトミー・ジョン手術を受けて翌年は育成選手になるも、2021年のシーズン途中で支配下に復帰。2022年は47試合に登板して3勝0敗13ホールド、防御率2.63と復活を印象付けた。ところが昨年は11試合の登板に終わって戦力外通告を受け、既存のNPB球団への返り咲きを期して今シーズンは新たに誕生したくふうハヤテの一員となった。

開幕から14試合、15回1/3を投げて無失点

「(調子が)いい日もあるだろうし悪い日もあるだろうし、その中でも悪いなりにピッチングをする、ゼロで抑えるためにどうできるかっていうところがすごく大事だと思う。やっぱり『こいつは毎日ゼロで抑えてるな』、『いいときも悪いときも頑張って抑える確率が高いな』っていうふうな目で(既存のNPB球団に)見てもらわないと、なかなか(契約する)チャンスがないと思うんで」

 一軍よりも一足先にファームがシーズン開幕を迎えた今年3月、田中はそんなふうに話していたのだが、その言葉どおりここまではしっかりと「ゼロで抑えて」いる。今季開幕から、ヤクルトの小川淳司GMも視察に訪れていたこの5月14日のゲームまで14試合の登板で、計15回1/3を投げて無失点。要因はどこにあるのか?

「まあ中には運が良かったみたいな打球もたくさんありましたし、今日みたいなノーアウト三塁とか、ランナーがたまってっていう場面もたくさんあったんですけども。振り返ってみると、冷静に1人ひとり何をしなきゃいけないのか、このボールで何をしたいのかっていうのを考えながら投げてきたので、その結果がたまたまではありますけど、ゼロになってるんじゃないかなっていうふうに思います」

 くふうハヤテの赤堀元之監督も「ピンチにはなりましたけども、冷静にしっかりと投球できているってことが勝利につながったんじゃないかなと思います」と評した田中の「冷静さ」。それは横浜(DeNA)で16年間にわたって通算274試合に登板し、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験によって培われたものだという。

「健二朗さんはピンチでも冷静に観察している」

「若いときはよくランナーが出ると慌ててたんですけど、今はそういうことがなく、しっかりと気持ちをバッターに向けていけるので、経験はすごく大事かなっていうふうに思います」

 その田中のスゴさは「観察眼」にあるというのは、この試合でチームが逆転した直後の8回に登板し、無失点に抑えて田中にバトンをつないだ平間凜太郎(前メキシカン・リーグ)だ。

「健二朗さんはピンチの場面でも冷静に観察して、その場の状況や相手打者を分析されています。だから絶体絶命のピンチでもゼロで抑えられているんだと思います」

 もっとも田中の価値はそれだけにとどまらない。開幕の頃に「僕が若い子たちを見て感じたことは伝えていきたいなっていうふうに思うし、技術的なものがどうのこうのってよりも気持ち的な部分だったりとか、そういうところがすごく大事だと思うんで、そういったところもアドバイスできたらなっていうふうに思います」と話していたように、この3月で18歳になったばかりの大生虎史(おおばえ・こうし、柳ヶ浦高卒)ら若手主体の選手たちにとっての良きメンターとなっている。

「しっかりとやることに集中していければ可能性はある」

「いつも冗談とかくだらない話をして、自分たちのやりやすいようにしてくれてますけど、他人のことをよく見られていて、普段との違いに気付いたらすぐアドバイスをしていただいています」(平間)

 プレーヤーとしてだけでなく、選手たちのメンターとしても、田中はチームにとって欠かせない存在と言っていい。だが、くふうハヤテは二軍のみの球団である以上、目指す先に「既存のNPB球団との契約」があるのは変わらない。

「そうですね。もちろんそこは目標にはしてますけれども、まずは自分がしっかりとできていないとそこはないと思います。あまり上を見ずに、その日その日でしっかりとやることに集中してやっていければ、可能性はあるんじゃないかなっていうふうに思います」(田中)

 NPB在籍経験のある田中は、7月末の登録期限まではシーズン途中でも既存のNPB球団との契約が可能。そのためにも、これからも相手を「ゼロで抑える」ことに集中する。もう一度、あの華やかな舞台に上がることを目指して──。

(文中の今季成績等は5月17日現在)

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フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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