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ほとんどの勘違いは「選択的認知」が引き起こしている

横山信弘経営コラムニスト
やる気が上がらないのは職場に問題があるんじゃないの~?

なぜ人は勘違い・思い違いをするのか?

私は現場に入って目標を達成させるコンサルタントです。しかし、その手法、心構え等をお伝えしても、勘違い・思い違いをしている人からは、なかなか理解してもらえないことがあります。そこで今回は、勘違い・思い違いは、どのように引き起こされているのか。そして勘違いのレベルはどのように強化されていくのかについて考えてみます。

たとえば、「どうも最近、仕事にやる気がない」という人がいたとします。やる気がないが困っていない、というのであればいいのですが、困っているとしたら、何か方法はないか、と考えるのが普通です。そこで、自分の周りの人に尋ねたり、ネットや書籍で調べたりします。「どうすればやる気が起こるのか?」と。

すると、以下のような10種の情報が入手できたとします。

●「職場での待遇が悪いと、やる気が起きないよね」

●「やる気を起こすためには、ドーパミンを分泌させるために目標を持つ、そしてノルアドレナリンを分泌させるために正しい期限を持つこと」

●「意欲的になるには、まずは行動を起こす。そうすると自然と意欲がわいてくる」

●「成功する人ほどモチベーションに左右されないものです」

●「小さな成功体験を積み上げることで意欲的になっていくものだ」

●「仕事が楽しいかどうかでやる気スイッチが入るもの」

●「やる気がどうしても上がらないのであれば、外部からの強制力も必要あるのでは」

●「何をやってもやる気が持続しないのであれば、仕事にやりがいを感じるかどうかを疑うべきだと思います」

●「やる気が出ないのは、ほとんど上司のせいでしょ」

●「やらされ感を覚えると、モチベーションがダウンする」

……このような情報をアチコチから入手し、頭の整理ができなくなるなら正常です。これらの見解はそれぞれ異なっており、何が正しいのか判別がつかなくなります。ところが、上記10種類の見解を手に入れて、

「やっぱ、仕事にやりがいを感じないと、やる気って上がらないよな。上司の態度に問題ある気がするし、待遇もイマイチのような気がする」

と受け止める人がいます。「まずは行動を起こすべきだ」「強制力が必要だ」などの見解は頭に入らず、自分の都合のいい事柄にのみ焦点を合わせて優先的に評価してしまうのです。これを「選択的認知」と呼びます。認知するものを脳が自動的に選択してしまいます。

「選択的認知」が引き起こす残念な結果

このような人に、上司が「仕事にやる気を感じられないなら、ためになるセミナーがあるから受講してみろ」と言ったとします。そのセミナー講師は行動心理学や脳科学の権威。受講してみると、

「意識改革よりも、必ず行動改革のほうが先です。体の反応に、後から整合性を保とうとして感情が作り出されるからです。感情ではなく、まずは行動をコントロールしましょう」

と講師に言われました。しかしこの人は、「心理学や脳の世界の権威だか何だか知らないけど、当社のように中小企業で働いたことなんてないんじゃないか? なんか違う気がする」と言って話半分に聞いてしまいます。しかも、一緒に受講していた他社の人も、

「私は大企業で働いているけど、大企業も一緒。上司の態度がとても悪いのに、やる気を出せって言うのに無理がある」

こう言っていると、「やはり職場の問題だよな」という気分になってきます。セミナー受講後、同じ職場の人たちとランチをして、次のような会話をしたら、ますますその考え方は強固になっていきます。

「やる気って、上司の態度によって変わるみたいなこと、この前、セミナー受講している人から聞いたんだけど、そう思わない?」

「うーん。確かにあるかも」

「『やって当たり前』みたいな態度で接してくる上司っているだろ? アレ何とかならないのかな」

「ああ、いるいる。そういう人……」

「そういう上司に限って、まずは行動しろって言うよね。『行動できないですって、あなたの部下に対するそんな接し方では』って、言ってやりたいよ」

「俺も言ってやりたい」

「私も」

「利用可能性ヒューリスティック」に気を付けよう

利用しやすい人やコトにアクセスし、影響されることを、「利用可能性ヒューリスティック」と呼びます。悩みや問題を解決するために、身近な人に尋ねたり、ネットで検索して素人の意見を参考にすることです。ママ友に「うちの子供、全然言うこと聞かないんだけど、どうしたらいいんだろうね?」と尋ねることも、この範疇です。

悩んでいることがあり、それを解決したいと本気で思うなら、利用可能性は低くても、複数の専門家の意見を参考にしましょう。身近にその道のプロがいればいいですが、そうでなければお金を払って本を買ったり、セミナーなどに通って勉強しましょう。そうでないと、自分の都合の悪いことには焦点が合わず、自分の都合のいい考え方を引き寄せようとする罠にはまっていきます。こうして勘違い・思い違いが強固になってしまい、誰かに反論されると、

「やる気をアップさせるには、まずは行動から変えるべきだって? そんなこと聞いたこともない」

「目標を持ってやり切っていれば自然と意欲がアップするって? ですから、モチベーションが低いのでやり切れないと私は言ってるんです。意欲が下がってるのにもかかわらず目標に向かってる奴なんて見たこともない」

などと、「MKノー(見たことがない、聞いたことがない)」のフレーズを使って否定することになります。

(参考コラム:「MKノー」の口癖とは?

悩んでいるときは、身近にいる素人の意見ではなく、専門家、その道のプロの意見を参考にしましょう。1人だけではなく、複数の専門家の見解を調べることが重要です。

(※ちなみに、私の見解はこちらに書いてあります。 →やる気が出ない人の特徴と対策

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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