日本政治はどうなる?政権交代、政治動画、フラット化、3つの観点から考える【2020年の展望】
2020年の日本政治はどうなるか。
個別の出来事に注目しながらも、今後重要になる3つの観点についてそれぞれ考えていきたい。
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政権交代は起きるのか?
2020年最も重要なのは野党の動きである。
秋頃に予想される衆院選の結果次第で、ポスト安倍の行く末も大きく左右されるからだ。
もちろん、政権交代が起きる可能性もある。
そうすれば、現職の政治家が数多く落選することになるため、政治分野でのジェンダーギャップは大きく改善されるであろう(野党が女性を多く出馬させるのが前提だが)。
これまで何度も見てきた通り、現政権の支持理由は、「他の内閣より良さそうだから」という、「消極的支持」であり、野党が体制を整えれば、十分に政権交代の可能性はある。
ただ、現状の動きを見ている限り、次の総選挙で「政権交代」が起きる可能性は低そうだ。
細かい理由は多くあるが、野党間で協力体制を明確にすること、オリジナルの政権構想を示すこと、最低限それらをしない限り、有権者が野党に政権を任せる可能性は低い。
現在、立憲民主党が国民民主党・社民党と合流の方向で調整を進めているが、枝野代表を中心にトップダウン型の立憲民主党と地方自治を重視する社民党では組織文化が異なり、上手くいかないのは目に見えているし、「対決」よりも「議論」を重視する国民民主党とも国会運営の考え方で反りが合わないであろう。
その意味では、合流よりも選挙協力で「連立政権」を目指すのが現実的なところである(そもそも、ここまで価値観が多様化していれば、連立政権の方がより多くの国民をカバーでき「不満」はたまりにくい)。
その上で、れいわ新選組と選挙協力をできるのか、共産党とどこまで協力するのかなど、乗り越えなければならないハードルは多い(各選挙区で共産党が持っている票数と協力によって離れる票数、どちらが多いかはデータがなく断ずることは難しいが、過去の首長選挙を見る限り、あまり期待はできないのではないだろうか)。
そして何より、民主党政権への「失望感」はいまだに根強く残っており、立憲民主党の枝野代表といった民主党時代にも「顔」になっていた人たちをまた野党の中心に据えて、国民からの期待を集めることができるのかは甚だ疑問である。
直近で「野党」に大きな期待が集まったのは、希望の党であるが、当時の顔は「小池百合子」という新しい「野党像」であったし、政権運営能力という意味でも、自民党の脱藩者(石破茂議員が有力候補になるだろう)を持ち上げるか、思い切って若手に任せるのが最も「政権交代」に近づく道ではないだろうか。
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政治動画の本格化
次に重要なのが、政治報道がどうなるかだ。
2019年の参院選では、選挙報道の量自体が約3割減り、質的にも、従来通り、各論点について専門家を交えて議論する機会が乏しく、各党の代表者が順に政策を説明するだけにとどまるなど、十分な判断材料を提供できていなかった。
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一方で、れいわ新選組やNHKから国民を守る党を中心に、政治側は動画を巧みに活用し始めている(N国はもう衰退の一途を辿るだろうが)。
ネット先進国である韓国では、政治家の7割以上が自身のYouTubeアカウントを持っており、衆院選に向けて日本でもますます活用が広がる一方だろう。
さらに、ドイツでは、2019年欧州議会選挙の時に26歳のYouTuberが「CDUの破壊」というタイトルの動画で与党CDUを糾弾、1500万回以上閲覧され、選挙結果に大きな影響を与えた。
当時15歳のスウェーデン人、グレタ・トゥーンベリさんが始めた「Fridays For Future」は世界的なムーブメントになっており、SNS上で動画が拡散されている。
日本ではまだ社会運動に動画はあまり活用されていないが、2019年振り返りの記事で見たように、若年層の運動が活発化してきており、動画の活用が広まるのも時間の問題であろう。
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問題は、政治をチェックし、適切な情報提供を行う役割を担う報道側だ。
政治家が発する情報は、どうしても自身に有利なポジショントークになりがちであり、ファクトチェックも含め、きちんと報道機関が同じくネット上で良質な情報を流さなければならないが、動画の分野では、テレビ局も含め、全く追いついていない。
日本の「報道番組」は、専門家ではない何人もの毎回お決まりのコメンテーターが順にコメントする構成が多く、トピック単位で少数の専門家同士が議論を深める番組はほとんどない。
BSフジの「プライムニュース」で、萩生田光一文部科学大臣が「身の丈に合わせてがんばって」と発言したように、生放送の番組は、つい「本音」が漏れる非常に重要な場である。
しかし、現状こうした緊張感の伴う番組は、「プライムニュース」ぐらいである。
「池上彰」以降、過度に「わかりやすさ」を求めたゆるい番組は存在するが、今求められるのは、少数の専門家、政治家で国家像や政策的課題を議論する緊張感の伴った番組だ(YouTube上に「身内」で議論する番組はよくあるが)。
「スキャンダル」や「不倫」、わかりやすい「対立構造」に比べれば、政策的課題は複雑であり難しいが、現実に社会は複雑なものであり、だからこそ専門知を活用して多面的に議論を深めていかなければならない。
そうした「努力」を放棄してきたのが、ここ10年、20年程度のマスコミ報道である。結果、きちんと学術論文を書いてるような本物の専門家でテレビに出たい人はほとんどいなくなっている(一方、テレビに出たい人はたくさんいるので、どんどん質の低い“専門家”の意見が広まる悪循環が続いているのだが)。
テキストメディアでは今や、ウェブメディア発の話題をマスコミが後追いする報道が増えてきており、期待できるのはネットであろう。
2019年末から、ハフポストとTwitterが、毎週生配信の就活生向けの番組を始めることになったが(初回は50万viewを超え好評であった)、政治の分野でも同様の番組が出てくることを期待したい。
若者と高齢者、男女はよりフラットに
最後に、政策についても触れておきたい。
今後の日本で重要な視点は、年齢や性別で区別しない、「フラット化」である。
これまでは年功序列、ジェンダー規範が強く社会を縛ってきたが、今後は、そうした属性に囚われず、専門性の評価や実態・能力に合った利益・負担の均等化、性別役割分業の解放(特にワンオペからの解放)が重要になってくる。
その一つの試金石となるのが、2020年6月頃に発表される「全世代型社会保障検討会議」の最終報告である。
社会保障では、急速に進む高齢化と少子化を背景に、保険料負担が現役世代に重くのしかかっており、余裕のある高齢者に負担を求めることはもはや避けられない(75歳以上の医療費は約16兆円に上り、このうちの4割は現役世代が支払う健康保険料からの支援金が占める。2022年からは団塊世代が75歳以上になり始めるためさらなる負担増が予測される)。
そこで今議論されているのが、75歳以上の後期高齢者が支払う医療費の窓口負担引き上げだ。
現状、現役並み所得(単身世帯で年収383万円以上)がある人は3割、その他の90%以上の人は1割負担となっているが、一定額以上の所得がある人も2割負担に変えようとしている。
12月19日に発表された中間報告では、「一定所得以上の方については、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方については1割」と、一定額の詳細は今後詰める形になったが、現役世代の生活は相当苦しくなっており、30・40代でも「貯金ゼロ」の人が23.1%(SMBCコンシューマーファイナンス調べ)になっていることを考えれば、よりフラットな形に変えていくべきであろう。
政権与党としては選挙への悪影響を懸念するだろうが、日経新聞が12月に行った世論調査を見ても、2割負担への引き上げに「賛成」と答えた人が過半数の52%に上り「反対」の41%を上回っており、現役・将来世代のことを考えて、余裕がある人には負担を求めていくべきだ。
年代別で見ると、若い世代の方が賛成が多く、39歳以下では賛成が61%で反対が35%、40〜59歳は賛成56%、反対38%。近い将来、負担が増えることになる60歳代でも賛成は52%に上り、反対の42%より多かった。
既に後期高齢者になった人も含む70歳以上では反対の方が多かったが、それでも賛成が45%に対し、反対が50%と、おおよそ拮抗しており、きちんと引き上げる理由を伝えれば、十分に理解を得られるのではないだろうか(野党は政局にしたがるだろうが、現役・将来世代のことを考えれば与野党で協力して国民に正しい現状を伝えるべきである)。
また、性別役割分業の解放(特にワンオペからの解放)に向けては、家族を支援するための家族関係社会支出の増加が欠かせないが、政府が2020年度から始める男性国家公務員の「1カ月以上の育休取得促進」が上手く機能するかも、注目される。
これまで育休を検討すると発言してきた小泉進次郎環境大臣が育休を取るか否かは、社会的な雰囲気を左右するものとして非常に重要だろう(別途記事にする)。
各国の家族関係社会支出の対GDP比の比較
同様に、経済界では、徐々に年功序列が崩れ、新卒採用時点で報酬の幅も広がりつつあり、最近だとA.T.カーニーの日本代表にまだ30代である1981年生まれの関灘茂氏が就任したことが話題になったが、政界においても、IT分野の大臣に若手起業家を民間大臣として登用するなど、当選回数順で短期に回すのではなく、専門性で大臣を選ぶ形に変えていくべきである。
そうでもしなければ、平成30年間ずっと続いた日本の衰退を止めることはできないであろう。