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山火事発見!その時どうする?年間発生件数は1000件以上

田中淳夫森林ジャーナリスト
火が斜面を駆け上ってきた。ここまで炎が大きくなると手を出せない。(筆者撮影)

 今月初め、山火事に遭遇した。すぐに消防に通報。さすがに人生で初めての経験だ。そこで、山火事とはいかなるものか、少し考えてみた。

 まず簡単に経緯を。

 私は日課的に近隣の山を歩いている。今回めざしたのは、奈良と大阪の間に横たわる生駒山の北辺だ。地理的には大阪側になるが、小さな峰があり山頂に戦国時代の三好長慶の飯盛山城跡がある。すぐ下に楠公寺という寺があり、そこまで車で入れるので、そこから登ってその周辺を歩く魂胆だったのだが……。

 最初に山頂の南側の尾根に登った。そこに城郭・南丸跡があり、平坦な土地が広がっている。また一角にNHKなどのFMラジオ送信所が建てられているのだが、そこへ向う途中に妙な音を耳にした。

 パチパチと爆ぜる音だ。すぐに連想したのは、草が燃える音。ただ見回しても、炎はもちろん煙も上がっていない。通りすぎようかと思ったが、どうも気になる。

 そこで音の方向を探って、郭跡の奥に進んだ。そこからは、城跡に多い人工的な急斜面だ。その下から音がする。うっすら煙も漂い、草が焼ける臭いもした。

 その時に考えたのは、山火事か、それとも野焼きか、という点だ。そこで斜面を下ってみた。下れば下るほど、煙は濃くなり、ついに炎が見えた。完全に斜面の草が燃えている。周りに人はいない。

 これは山火事だと判断して、すぐ上の郭跡まで引き返し、119番に電話した。幸い電波はかろうじて通じる。場所を伝えるが、ここがどこの市町村(四條畷市?大東市?)かわからない。ただFM送信所まで車の入れる道路がある。

 とにかく消防車を向かわせるというので、いったん電話を切った。話していたのは5分となかったはずだが、その間に煙と炎は郭まで上がってきた。地を這うように炎がササなどの草や落葉を焼いている。これはヤバい。

 私は足で踏んで燃える草を消して回ったが、そのうち樹木まで火がついた。こうなると私の手に負えないので、退散することにした。

 消防隊がやってくるまで30分くらいはかかっただろうか。ただFM送信所まで放水車は入れなかった。結局、数百メートルもホースを伸ばさなくてはならなかったようだ。

 その後、私は退散したが、後に消防と警察から事情聴取があった。まさか、私が放火したように疑われないだろうなと、ちょっと心配してしまった。

山火事跡を歩いて考える

 先日、ほとぼりがさめた(!)と犯行現場ならぬ火事の現場を訪ねてみた。どんな燃え方をしたのか、発火原因などを私なりに考えてみたくなったのだ。

 よく見ると、急斜面を下る細い山道があった。かなりマイナーなルートだが、その道沿いが焼けている。燃えたのは、主に地面の草と落葉落枝が中心だった。樹木も根っこ周辺が焦げているが、樹冠の枝葉まで燃えた木は少ないように見られた。立木が燃えたら大火事になる。その一歩手前で止められたようだ。

 鎮火してから約2週間後の山火事現場。樹木はあまり焼けていなかった。(筆者撮影)
 鎮火してから約2週間後の山火事現場。樹木はあまり焼けていなかった。(筆者撮影)

 焼け跡でもっとも下の地点までたどりつく。小さな草むらだが、わりとくっきり燃え始めの場所が残っている。ここから発火したとしたら、原因はタバコではなかろうか。この道を下ったハイカーが、ここで一服して吸殻を投げ捨てた……そんな状況を想像した。

日本では年間千数百件の山火事が発生

 おそらく、最初の小さな火元(タバコ?)が周辺に移って斜面上部へと燃え上がるまでそれなりの時間がかったはずだ。ところが、私が発見してから5分か10分程度で尾根の郭まで炎は駆け上った。その燃え広がるスピードはかなり早かった。これが山火事の特徴かもしれない。

 山火事は、年間約1100~1400件ほど発生していて、焼失面積は平均約700ヘクタールに達する。1件あたりにすると、約0.6ヘクタール。私の発見した火事で焼けた面積はそれよりずっと狭いから、ボヤ程度になるのかもしれない。

 ただ今年2月から3月に栃木県足利市の両崖山で山火事が起きたときは、鎮火まで8日間かかった(完全に鎮火したと発表したのは23日後)。焼失面積は100ヘクタールを超え、山麓の305世帯に避難勧告まで出されたほどだった。大きくなると、消火方法も限られて大被害につながりかねない。

 原因でもっとも多いのは、2015~19年の平均で見ると、焚き火の不始末が30.2%を占める。次に火入れ、つまり管理して焼くつもりが想定外に広がる状況が17.5%。そして放火、タバコ……と続く。

 戦後の山火事は、昭和40年代は非常に多く年間7000件以上もあった。その後減ってきたが、ここ数年若干増加傾向だ。おそらく昭和時代は林業が盛んで山に人が入ることが多かったから、そして昨今は登山やアウトドア人気が影響しているように思える。

世界には1ヶ所数千ヘクタールの火災も

 世界では、アマゾンからシベリアまで各地で森林火災(平地も多いので山火事と呼ばない)が頻発している。1ヶ所数千ヘクタール焼けることも珍しくなく、煙は海を越える。それが地球規模の気候変動を助長しているのではないか、と言われるほどだ。原因は、農園開発などの火入れのほか、意外と雷など自然発火も多い。

 日本の場合は、自然発火は少なくてほとんどが人為的な失火だ。また雨も多くて広がりにくいとされるが、初期消火に失敗すると、何百ヘクタールも焼けてしまう。

 山火事、森林火災と聞くと、すぐ生態系にどんな影響を与えるのか、といった声が聞かれる。もちろん重要な視点だが、私自身は、たいがいの火事は自然界の営みだと思っている。炎は意外と表面を焼くだけで、土壌温度も上がらず、根っこや埋没種子も生き残る。むしろ表面を焼くことで、植生遷移が進むこともある。そして動物は素早く逃げて行き、生息数に影響しない。焼け跡に生える新たな草が餌となって、数を増やす動物さえいる。

 この点に関しては、こんな記事も書いている。

アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか

 だが燃え方が一定規模を越えると、簡単に消せなくなり被害も大きくなる。森林が回復しないほど根っこも樹冠も焼けるし、動物も逃げ場を失う。人間社会の損害も大きくなるだろう。とくに林業に対するダメージは大きい。長い年月をかけて育ててきた森が壊滅し、木材としては利用しづらくなる。

 その分岐点がどこにあるのか見極めるのは難しいが、最初は小さかった火が徐々に広がり、あるところから加速度的に燃え上がって、手に負えなくなるのだ。

 何事も初期対応が大切だ。火事も、疫病も、気候変動も。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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