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アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか

田中淳夫森林ジャーナリスト
アマゾンでは史上最悪と言われるほどの森林火災が広がっている。(写真:ロイター/アフロ)

 今年に入り、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林で森林火災が相次ぎ、記録的なペースで焼失していることが世界的な問題になっている。森が燃えた煙は大西洋上まで広がってきた。昨年の同時期と比べて85%増加したという報告も出された(ブラジル国立宇宙研究所)。

 その原因として、木材収奪や農園開発のための伐採から焼畑、自然発火でさまざまな指摘がなされている。なかにはジャイル・ポルソナロ・ブラジル新大統領が森林に火をつけることを奨励したという声まで出てきた。

アマゾンだけではない森林火災の増加

 もちろん重大事だ。アマゾンの熱帯雨林は、約549万km2に及び、地球上でもっとも生物多様性が高いエリアの一つである。また先住民も約100万人は暮らしている。煙による健康や農業への影響も深刻だろう。彼らに甚大な被害が出かねない。

 ただ正確でない情報も出回っているようだ。ネットに飛び交う火災の写真・動画の中には、アマゾンでもなければ今年のものでもないものも多いようだし、火災はブラジルだけでなくベネズエラやボリビアなど周辺国でも発生しているほか、シベリアなどまったく別の地域でも森林火災は増大している。

酸素を出さず二酸化炭素も吸収しない

 情報が錯綜しているので、あまり推測の上に推測を重ねることを論じたくない。ただ一つ気になるのは、「アマゾンは地球の肺」「森林は酸素供給場であり、二酸化炭素の吸収源」といった指摘だ。

 森林の大切さを訴えるためによく使われる言説だが、これは科学的にはおかしい。なぜなら成熟した森林は、酸素を供給しないし、二酸化炭素も排出しないからだ。いや、酸素は供給しているが、二酸化炭素も排出するというべきか。

 簡単に説明すると、森林の大部分を占める植物は、たしかに二酸化炭素を吸収して光合成を行うが、同時に呼吸もして二酸化炭素を排出しているからだ。植物単体として見ると光合成の方が大きいこともある(その分、植物は生長する)が、森林全体としてみるとそうはいかない。

 なぜなら森林には動物も棲んでいるから……ではない。たしかに森林にいるサルやシカやネズミ、あるいは昆虫も呼吸して二酸化炭素を出すが、全体としては微々たるものだろう。もっとも大きいのは菌類だ。いわゆるキノコやカビなどは、枯れた植物などを分解するが、その過程で呼吸して二酸化炭素を排出する。

 地上に落ちた落葉や倒木なども熱帯ではあっと言う間に分解されるが、それは菌類の力だ。目に見えない菌糸が森林の土壌や樹木中に伸ばされており、菌が排出する二酸化炭素量は光合成で吸収する分に匹敵する。つまり二酸化炭素の増減はプラスマイナスゼロ。

 だから森林を全体で見ると、酸素も二酸化炭素も出さない・吸収しないのだ。酸素を供給し二酸化炭素を吸収する森は、成長している森だ。面積を増やす、あるいは植物が太りバイオマスを増加させている森だけである。アマゾンは森林としては数千万年前に成立しており、面積を増やすどころか減少気味で、バイオマスも上限まで蓄積している。一部の二次林を除いて、二酸化炭素を吸収していないだろう。

 そのため今回の森林火災の頻発は地球温暖化に影響ない、と楽観視するつもりはない。地中に埋もれていた有機物を燃やして二酸化炭素を増加させているかもしれないし、何より生物多様性の危機だ。そこには有用な遺伝子資源も多くあるだろうから、人間にとっても損失だろう。また森で暮らす先住民のことを考えると心配でならない。

焼け跡に人は手を出すな

今後、人間が取れる手としては、まず鎮火を望みたいが、これはなかなか難儀である。雨期を待つしかないかもしれない。ただ森林火災というのは表面上の草木だけが燃える場合が多く、意外と燃え残りが多いし、植物も生き残る。そしてすぐ次世代の植物が生えてくる。大木の枝葉が焼け失われることで地表に光が射し込みやすくなることも影響するのだろう。

 だから、焼けた土地に手を付けないことが肝心だ。熱帯地域は基本的に植物の生育が良好なのだから、おそらく次々と草木が生えてくる。植林を考える必要もあまりない。人が選んだ植物を植えても、必ずしも育つとは限らず、また本来そこに生えていなかった種類を移植することで生態系を乱しかねない。ただし、間違っても「焼け跡を農園に」とか考えないことだ。(もっとも、それを目的に火をつけた可能性も強いのだが。)

 自然の回復力に期待したい。

 なお、以前にも森林火災について執筆しているから、参考にされたい。

大規模火災にあっても、森林はよみがえる!

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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