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賞味期限の意味「知っている」と答えた人の55%は説明できず 米国の最新論文

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:PantherMedia/イメージマート)

2021年5月、学術誌に掲載された論文によれば、米国の2,607人を対象とした調査で、賞味期限の意味を「知っている」と答えた消費者のうち、その意味を正しく説明できたのは55%しかいなかった。

賞味期限「知っている」と答えたうち55%は正しく説明できず

論文が掲載された学術誌は、Journal of Nutrition Education and Behavior誌。論文の第一著者はワシントン大学所属の研究者。そのほかの著者としては、新型コロナウイルス感染症の世界の患者数データを公表しているジョンズ・ホプキンス大学の研究者も名を連ねている。

この研究は、米国の成人2,607名を対象としたオンライン調査を基としている。

「賞味期限(Best If Used By)」の意味を「理解している」のは64%だった。

「消費期限(Used By)」の意味を「理解している」のは44.8%だった。

しかし、名称や一般的な意味は知っていても、はたして具体的に理解しているかは別問題となる。賞味期限表示の意味を「理解している」と答えた消費者のうち、55%近くは、その意味を正しく説明することができなかった。

消費者教育により理解度は82%以上に向上

論文では、「賞味期限」の正しい意味を教育することによって、一般的な理解度が82%に向上し、消費期限についても82.4%に増加した、としており、結論として、

賞味期限表示制度の理解を深め、最終的に食品の安全性を向上させ、食品の無駄を減らすためには、消費者教育が必要である。本研究は、効果的な教育的コミュニケーションの可能性を明らかにした。

と述べている。

英国では家庭の食品ロスの30%は期限表示の混同による

英国では、家庭の食品ロスのうち、30%が、消費者の期限表示の混同に起因していると推定されている。

米国のReFED(リフェッド)は、米国内でさまざまな種類の期限表示が乱立している中、標準化した日付表示を開発することは、消費者の混乱をなくし、毎年38万9,000トン発生している食品廃棄を防ぐための「費用対効果の高い戦略である」としている。

日本で賞味期限と消費期限の違いを知っているのは「87.5%」?

では、日本ではどうだろうか。

内閣府が実施した、令和二年度の世論調査によれば、賞味期限と消費期限の意味の違いを「知っていた」と答えた者の割合が87.5%という結果になっている。

しかし、本当に知っているといえるのだろうか。

同じ世論調査の中で、日常の買い物で賞味期限や消費期限を意識しているものとして、26.2%が「加工食品(レトルト食品・冷凍食品・清涼飲料水など日持ちするもの)」と答えている。これらはすべて、5日以内の日持ちのものにつけられる「消費期限」ではなく、年単位で日持ちする賞味期限表示の食品のものばかりであり、賞味期限は「おいしさのめやす」にすぎない。

食品を「商品棚の奥から購入する」のが68.9%

世論調査の同じ設問で「商品棚の奥から購入している」と答えた者の割合が68.9%もいる。そもそも消費期限と賞味期限は全く異なるのに、いっしょくたに質問しているので、消費期限表示のものだけを奥から購入しているのか、賞味期限表示のものも奥から購入しているのか、この結果からだけではわからない。だが、過半数が、店の手前に期限接近のものを残して買うというのでは、本当に賞味期限の意味を理解しているといえるだろうか。

49.4%が「鮮度が落ちていそう」だから賞味期限・消費期限の迫ったものは買わない

賞味期限や消費期限が迫ったものは、よく値引きされている。だが、値引きしてあっても買わないという人もいる。その買わない人に、なぜ買わないのかを聞いてみたところ、49.4%が「鮮度が落ちていそうだから」と答えている。「安全面に不安があるから」が40.7%、「味が落ちていそうだから」が23.8%。これも賞味期限と消費期限が一緒に質問されているので、どちらの話なのかはわからないが、少なくとも賞味期限に関しては、迫っているものすべて鮮度が落ちているわけではないし、きちんと保管されていれば安全面にも問題はない。

賞味期限=「おいしいめやす」コンスタントな啓発が必要

米国の調査結果では、賞味期限と消費期限の理解度は高いかのように見えたが、細かく分析してみると、決して理解度が高いわけではないことが判明した。

日本の消費者の87.5%が賞味期限と消費期限の違いを正しく理解しているとは思えない。もし真に理解していれば、今のような「奥から取る」といった購買行動には至らないからだ。筆者が行った2,411名対象の調査でも、88%が「買い物のとき、日付の新しいものを奥から取る」と答えている。

折しも、日本のワクチン接種の遅れが途上国並みの世界110位レベルと共同通信が報じていた。実態はないのに形だけとりつくろって見栄を張る日本の特徴をよく表しているようだ。

今回、論文を発表した研究者らは、米国では回答者の98%が、食品の購入や食べる際に期限表示を参考にしているとし、

食品の日付表示は、消費者が、食品の購入や消費について十分な情報を得た上で判断し、不必要な廃棄を防ぎ、安全でない消費を避ける上で重要な役割を果たす。

と書いている。不必要な廃棄を防ぐには「賞味期限」の理解が必要だし、安全でない消費を避けるためには「消費期限」の理解が必要だ。

そして、著者らは、次のような言葉で論文を結んでいる。

食品表示システムが広く採用されるようになると、消費者が食品の廃棄を防ぎ、お金を節約し、食品の安全性を促進する目標を達成するためには、消費者に効果的な教育メッセージを開発することが極めて重要になる。

日本も、消費者庁が行った賞味期限の愛称・通称コンテストで大臣賞に選ばれた「おいしいめやす」の啓発を根気強く行い、食品の廃棄を防ぐこと、消費期限は安全性を担保する期限であり、賞味期限とは違うということを伝え、一般消費者に浸透させていく必要がある。

参考情報

Impact of Messaging Strategy on Consumer Understanding of Food Date Labels Catherine Turvey et al., Journal of Nutrition Education and Behaviour

Many consumers don't know what 'Best If Used By' and 'Use By' dates mean, study finds (Food Dive, 2021.5.10)

「食生活に関する世論調査」(内閣府) より「食品ロスについて」(2021年5月17日にアクセス)

米国で発表「賞味期限・消費期限の混同による食品ロス」SDGs世界レポ(59)(井出留美、2021.2.22)

賞味期限の愛称「おいしいめやす」に 環境先進国スウェーデンのいう「安売りより10倍価値ある」こととは(井出留美、2020.11.2)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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