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公安調査庁はトルコのクルディスタン労働者党、パレスチナのハマースを「世界のテロ・武装組織等」から削除

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:西村尚己/アフロ)

トルコのハベル7イェニ・ヤシャム、シリアのクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)などは11月28日、日本の公安調査庁が公式サイト内の「世界のテロ・武装組織等」欄から、クルディスタン労働者党(PKK)を削除したと一斉に伝えた。

PKKは、トルコが分離主義テロリストとみなす組織。シリアのPYDはこの組織の系譜を組む。

PKKは、トルコのほかにも、米国がFTO(外国テロ組織)に指定(1997年10月8日)している。米国はCIAが2018年1月24日に、公式サイト内の「ワールド・ファクトブック」(The World Factbook)を更新し、シリアのPYDをPKKと同一視して、同組織と当時の共同党首だったサーリフ・ムスリムをテロリストに指定したが、この記載はほどなく削除された(拙稿『膠着するシリア:トランプ政権は何をもたらしたか』東京外国語大学出版会、2021年)。

PYDが創設した武装組織の人民防衛隊(YPG)は、2015年10月にシリアで米国の肝いりで結成されたシリア民主軍の主力部隊を構成している。このシリア民主軍はイスラーム国に対する「テロとの戦い」を継続していると主張する米主導の有志連合(「生来の決意」作戦合同任務部隊(CJTF-OIR(Combined Joint Task Force – Operation Inherent Resolve))の「協力部隊」(partner forces)と位置づけられており、米国の全面支援を受けている。

一方、トルコは、PKK、PYD、YPG、シリア民主軍がテロリストによる「看板の架け替え」に過ぎないとの立場をとっており、PKKをFTOに指定する一方で、シリア民主軍を全面支援する米国を常に批判している。

日本の公安調査庁が公式サイトの「世界のテロ・武装組織等」欄からPKKを削除したのは11月27日。

これに関して、Haber 7は、PKK支持者らが最近になって、日本国内でPKKのプロパガンダ・ソングに合わせてクルド人の民俗舞踊を踊るなどしていたと伝えたうえで、その活動を批判する経済記者の石井孝明氏のX(旧ツイッター)のポスト(11月24日付)を転載した。

一方、ANHAは、公安調査庁が削除を発表したとしたうえで、トルコの圧力を受けて同庁がこれまでPKKをテロ組織として記載してきたと伝えた。だが、公安調査庁から削除についての発表はなく、トルコが圧力をかけてきたことも確認できない。

ハマースも削除

11月27日以前の日本の公安調査庁が公式サイトの「世界のテロ・武装組織等」欄(アーカイブはこちら)には231の組織が詳解されていた。だが、29日現在の「世界のテロ・武装組織等」欄は54組織が掲載されているのみである。

現在閲覧可能な54組織のなかには、以下の9組織が追加されている。

  • 「アデン・イスラム軍」(IAA)
  • 「アル・イッティハード・アル・イスラミア」(AIAI)
  • 「ターリク・ギダル・グループ」(TGG)
  • 「チェチェン殉教者リヤダス・サリヒン偵察破壊大隊」(RSRSBCM)
  • 「ハラカト・シャーム・アル・イスラム」(HSI)
  • 「ラハ・ソレイマン運動」(RSM)
  • 「血判部隊」
  • 「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)
  • 「イスラミック・ジハード・グループ/ユニオン」(IJG/IJU)

だが、10月7日に「アクサーの大洪水」作戦を開始し、イスラエル軍によるガザ攻撃を招いたパレスチナの「ハマス」(HAMAS)(ハマース)や「パレスチナ・イスラミック・ジハード」(PIJ)(イスラーム聖戦機構)、そしてパレスチナ・イスラエル、および周辺諸国で活動するパレスチナ諸派の「アル・アクサ殉教者旅団」(AAMB)、「イスラム軍」(AOI)、「エルサレム周辺のムジャヒディン・シューラ評議会」(MSC)、「人民抵抗委員会」(PRC)、「パレスチナ解放人民戦線」(PFLP)、「パレスチナ解放人民戦線総司令部派」(PFLP-GC)、「パレスチナ解放戦線アブ・アッバス派」(PLF)、レバノンの「ヒズボラ」(ヒズブッラー)は削除されている。またこれらを含む183組織も削除されている。

削除された183組織は以下の通り。

  • 「ISILチュニジア」
  • 「ISILベンガル」
  • 「ISIL大サハラ」(ISGS)
  • 「ISIL東アジア」(ISEA)
  • 「アイルランド民族解放軍」(INLA)
  • 「赤い手の防衛者」(RHD)
  • 「赤い旅団」(BR、RB)
  • 「アサイブ・アフル・ハック」(AAH)
  • 「アジュナド・ミスル」
  • 「アッサム統一解放戦線」(ULFA)
  • 「アトムヴァッフェン・ディビジョン」(AWD)
  • 「アハラール・アル・シャーム・イスラム運動」
  • 「アフル・スンナ・ワル・ジャマア」(ASWJ)
  • 「アフワーズ解放のためのアラブ闘争運動」(ASMLA)
  • 「アフワーズ解放機構」(ALO)
  • 「アフワーズ民主人民戦線」(ADPF)
  • 「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)
  • 「アル・アクサ殉教者旅団」(AAMB)
  • 「アル・アシュタル旅団」(AAB)
  • 「アル・ウマル・ムジャヒディン」
  • 「アル・バドル」
  • 「アル・ムラービトゥーン」
  • 「アルジェリアのカリフ国家の戦士」
  • 「アルスター義勇軍」(UVF)
  • 「アルスター防衛協会」(UDA)
  • 「アレックス・ボンカヤオ旅団-革命的プロレタリア軍」(ABB-RPA)
  • 「アンサール」
  • 「アンサール・アル・シャリーア」(シリア)
  • 「アンサール・アル・シャリーア」(AAS、イエメン)
  • 「アンサール・ウル・イスラム」(AI)
  • 「アンサール・ガズワトゥル・ヒンドゥ」(AGH)
  • 「アンサール・ディーン」(AD)
  • 「アンサール・バイト・アル・マクディス」(ABM)
  • 「アンサール・ヒラーファ・フィリピン」(AKP)
  • 「アンサールッラー・バングラ・チーム」(ABT)
  • 「イエメン州」
  • 「イスラミック・ジハード・ユニオン」(IJU)
  • 「イスラム・タリバン運動」(TTI)
  • 「イスラム4(フォー)UK」(Islam4UK)
  • 「イスラム軍」(AOI)
  • 「イスラム集団」(GI)
  • 「イスラム戦線」(IF)
  • 「イラク・イスラム軍」(IAI)
  • 「イラク革命者総軍事評議会」(GMCIR)
  • 「インディアン・ムジャヒディン」(IM)
  • 「インドネシア・ムジャヒディン評議会」(MMI)
  • 「インド亜大陸のアルカイダ」(AQIS)
  • 「インド学生イスラム運動」(SIMI)
  • 「インド共産党毛沢東主義派」(CPI-M)
  • 「エルサレム周辺のムジャヒディン・シューラ評議会」(MSC)
  • 「オガデン民族解放戦線」(ONLF)
  • 「オドゥーア人民会議」(OPC)
  • 「オロモ解放戦線」(OLF)
  • 「革命人民解放党・戦線」(DHKP/C)
  • 「革命的セクト」(SE)
  • 「革命的闘争」(RS、EA)
  • 「革命旅団」
  • 「カタイブ・ヒズボラ」(KH)
  • 「カチン独立機構」(KIO)
  • 「カハ」
  • 「カビンダ解放戦線」(FLEC)
  • 「カマタプル解放機構」(KLO)
  • 「神の抵抗軍」(LRA)
  • 「カリフ国家の軍」
  • 「カレン民族同盟」(KNU)
  • 「勧善懲悪」
  • 「カンレイ・ヤオル・カンナ・ラプ」(KYKL)
  • 「クルド労働者党」(PKK)
  • 「クンプラン・ムジャヒディン・マレーシア」(KMM)
  • 「継続IRA」(CIRA)
  • 「ケベック解放戦線」(FLQ)
  • 「コーカサス州」
  • 「国際シーク青年連盟」(ISYF)
  • 「国際主義者抵抗イニシアチブ」(IRI)
  • 「国民解放軍」(FNL)
  • 「国民行動」(NA)
  • 「コロンビア革命軍」(FARC)
  • 「コロンビア自警軍連合」(AUC)
  • 「サビリーズ・ジャマート」
  • 「ザ・ベース」
  • 「サラヤ・アル・ムフタール」(SM)
  • 「暫定アイルランド共和軍」(PIRA)
  • 「シパエ・サハバ・パキスタン」(SSP)
  • 「ジャイシュ・アル・アドル」(JAA)
  • 「ジャイシュ・アル・イスラム」
  • 「ジャイシュ・アル・ファテフ」
  • 「シャヒード・ハムザ旅団」
  • 「ジャマー・アンシャルシ・シャリーア」(JAS)
  • 「ジャマーアト・ハマート・ダウワ・サラフィーヤ」(DHDS)
  • 「ジャマート・アンサルッラー」
  • 「ジャマートゥル・フルカーン」(JUF)
  • 「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(JMB)
  • 「ジャミアトゥル・ムジャヒディン」(JUM)
  • 「ジャム・カシミール解放戦線」(JKLF)
  • 「シャリーア4(フォー)ベルギー」
  • 「シャン州軍」(SSA)
  • 「ジュヌード・アル・シャーム」
  • 「ジュンダラ」(中東・北アフリカ)
  • 「ジュンダラ」(南西・南アジア)
  • 「ジュンド・アル・ヒラファ」(JAK)
  • 「新赤い旅団・戦闘的共産主義者中核」(NBR-NCC、NCC)
  • 「シンド解放軍」(SLA)
  • 「シンド革命軍」(SRA)
  • 「真のIRA」(RIRA)
  • 「新パッタニ統一解放機構」(新PULO、New PULO)
  • 「人民解放軍」(EPL)
  • 「人民革命運動」(MRP)
  • 「人民抵抗委員会」(PRC)
  • 「スーダン人民解放運動北部」(SPLM-N)
  • 「スクール・アル・シャーム」
  • 「スリーパーセンターズ」
  • 「センデロ・ルミノソ」(SL)
  • 「戦闘的共産党創設のための反帝国主義領土中軸」(NTA-PCC)
  • 「ソマリア州」
  • 「ゾンネンクリーク・ディビジョン」(SKD)
  • 「タクフィール・ワル・ヒジュラ」
  • 「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)
  • 「タリバン」
  • 「ダルル・イスラム」(DI)
  • 「中央アフリカ州」
  • 「トリプラ民族解放戦線」(NLFT)
  • 「トルコ州」
  • 「ナガランド民族社会主義評議会」(NSCN)
  • 「ナクシュバンディア教団信者軍」(JRTN)
  • 「ナジュド州」
  • 「西アフリカ州」
  • 「ニジェール・デルタ解放運動」(MEND)
  • 「西パプア民族解放軍」(TPNPB)
  • 「ネオJMB」
  • 「パキスタン州」
  • 「バスク祖国と自由」(ETA)
  • 「ハスム」
  • 「パッタニ・イスラム・ムジャヒディン運動」(GMIP)
  • 「パッタニ・マレー民族革命戦線」(BRN)
  • 「パッタニ統一解放機構」(PULO)
  • 「ババル・カルサ・インターナショナル」(BKI)
  • 「ハマス」(HAMAS)
  • 「ハラカト・アンサール・イラン」(HAI)
  • 「パラグアイ人民軍」(EPP)
  • 「ハルカトゥル・ムジャヒディン・アルアラミ」(HUM-A)
  • 「バルチスタン解放軍」(BLA)
  • 「パレスチナ・イスラミック・ジハード」(PIJ)
  • 「パレスチナ解放人民戦線」(PFLP)
  • 「パレスチナ解放人民戦線総司令部派」(PFLP-GC)
  • 「パレスチナ解放戦線アブ・アッバス派」(PLF)
  • 「バンサモロ・イスラム自由戦士」(BIFF)
  • 「非公式アナキスト連盟」(FAI)
  • 「ヒズブル・ムジャヒディン」(HM)
  • 「ヒズボラ」
  • 「ヒニウトレプ民族解放評議会」(HNLC)
  • 「ヒンズー過激諸派」
  • 「ヒンド州」
  • 「フィリピン共産党」(CPP)/「新人民軍」(NPA)
  • 「フォイヤークリーク・ディビジョン」(FKD)
  • 「フォルサン・アリザ」
  • 「フッラース・アル・ディーン」(HAD)
  • 「プラウド・ボーイズ」
  • 「ペジャーク」(PJAK)
  • 「ボドランド民族民主戦線」(NDFB)
  • 「炎の陰謀中核」(SPF)
  • 「マイマイ」
  • 「マウテ・グループ」
  • 「南スーダン解放軍」(SSLA)
  • 「民主同盟軍」(ADF)
  • 「民族解放軍」(ELN)
  • 「ムジャヒディン軍」(JAM)
  • 「モジャヘディネ・ハルグ」(MKO)
  • 「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)
  • 「モロ民族解放戦線」(MNLF)
  • 「モンバサ共和評議会」(MRC)
  • 「預言者ムハンマドのイスラム法施行運動」(TNSM)
  • 「ラシュカレ・イスラム」(LI)
  • 「ラハ・ソレイマン・イスラム運動」(RSIM又はRSM)
  • 「リビア州」
  • 「リヤダス・サリヒン偵察破壊大隊」(RSRSB)
  • 「ルーベ団」
  • 「ルワンダ解放民主軍」(FDLR)
  • 「ロイヤリスト義勇軍」(LVF)
  • 「ロシア帝国運動」(RIM)
  • 「ワ州連合軍」(UWSA)
  • 「10月1日反ファシスト抵抗グループ」(GRAPO)
  • 「11月17日革命機構」(EO17N、17N)
  • 「3月23日運動」(M23)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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