小面積皆伐で里山を守れ!
皆伐とは、ある一定面積に生える樹木を全部伐ってしまう伐採方法である。
これは、一般的には森林破壊の最たるものとして嫌われている。
当たり前だ。森林を森林でなくしてしまう作業だから、動植物の住処を奪って生態系を狂わし、裸地になることで土壌の保全を危うくし、水源涵養などにも悪影響を及ぼす。
もともと日本では、木は一本も伐るな的自然保護意識が強かった。しかし最近は、密生した森林は木が健全に育たず、また林内が暗くなって地面に草も生えなくなることが知られ、ある程度の間伐は必要であることが知られるようになった。ようは抜き伐りである。混んだ森を透かすことで草木を育てようという手法だ。
だが、そんな手ぬるい方法では守れない森があると、一気に切り開く皆伐を見直す声が改めて登場している。
その対象となる森の一つが里山の雑木林(里山林)である。その研究は独立行政法人森林総合研究所関西支所で行われた。
雑木林は、カシやナラが主に生えていることが多いが、近年、カシノナガキクイムシが媒介するナラ菌によってナラ枯れを引き起こしている。とくに太い木が枯れることが多い。伝染が広がると、ときに壊滅的な状況になる。またナラやカシが大木に生長しすぎたため、林床は暗く草木が生えにくくなってきた。すると次世代の樹木は育たないし、雨滴が直接地面をたたき土壌を流してしまう現象も見られる。
かつての雑木林は、人が定期的にカシやナラの木を伐採して薪や炭にしたり、シイタケ栽培のほだ木にするなど利用した。それが森の若返りを促進して、ナラ枯れも起こりにくくしていたのである。しかし、今や雑木林の利用は減り、伐採も行われなくなった。
そこで、最近は森林ボランティアなども参加して雑木林を間伐することが行われている。密生した木々を抜き伐りすることで、若返りを進めようというのだ。
ところが、調査によると、そうした間伐を行った雑木林でも、次世代は育たないという結果が出たのだ。当初は明るくなったように見える林内も、すぐに周辺の木々が枝葉を広げ暗くなる。切株からの萌芽や種子から発芽した稚樹は、十分に育たず数年後に枯れてしまうのだ。
そこで解決法として提案しているのが皆伐だ。ある程度の面積から現在生えている木々を全部伐採して、完全に除去することで雑木林を蘇らせようという。
ただし、ここで行う皆伐とは、小面積皆伐である。
小面積というのは、狭いものは一辺20メートル(約4アール)くらいで、広くても0,1ヘクタール(10アール)程度である。これくらい伐ることで、萌芽や稚樹に十分な光が当たるようにすると、再びカシやナラの若木が育つという。
一見、木がなくなって広場のようになるが、すぐに草が茂り、たいてい数年後には再び木に覆われるのである。それは若く生命力あふれる雑木林だ。
若く細い木はナラ枯れも起きにくく、草も生え地面を覆うから土壌も保全される。昆虫や鳥獣も寄ってきて生物多様性が増す。見通しがよくなれば景観も美しくなるだろう。
また小面積だから、隣の林地から草木の種子が容易に供給されるし、昆虫や鳥獣もすぐに姿を見せる。回復は早いのである。
考えてみれば、皆伐した跡地は一時的に草原状になるわけだが、そこにはそこに適応した動植物がいる。すべて同じような森林に覆われるのではなく、草原と若い森林、大木の多い森林などがモザイク状に配置されることは、生物多様性にも有効だ。
私は、この小面積皆伐は、人工林にも有効ではないかと思っている。
現在の林業地には、一か所で20ヘクタール、30ヘクタール程度の皆伐地が多く見られる。ときに100ヘクタール以上にもなる大面積皆伐が行われている。これを見て、自然破壊的な気持ちにならないというのは嘘だろう。
一方で、まとまった面積を伐採しないとコストを抑えられないうえ、出荷する木材の量を十分に確保できなくなり、事業体の経営も成り立たないという現実もある。また日本の多くの林業地は、これまで皆伐と一斉造林のサイクルで行ってきた。これをいきなり変えるのは難しい。
しかし、小面積皆伐なら伐採も植林もしやすい。そして草原環境を部分的に作り出すことで生物多様性も保てる。つまりコストを抑えながら森林環境を守ることも可能にならないだろうか。
もちろん、単に小面積なら雑木林も人工林も大丈夫というのではない。伐る木の選び方や伐採方法、跡地の処理方法など、おそらく緻密な技術が必要になるだろう。だからこそ、皆伐という森林育成法も、改めて注目して研究すべきではないか。