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那須川天心の次の対戦相手は? 3戦目での世界王座挑戦はあるのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
プロボクシングデビュー戦で圧勝した那須川天心(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

2戦目は8回戦での闘い

矢沢永吉の『止まらないHa~Ha』が大音量で流れる中、那須川天心(帝拳)が瞳を輝かせながらゆっくりとリングに向かう。4月8日、その入場シーンを見ながら不思議な気持ちになった。大観衆の有明アリーナにボクシングではなく『RIZIN』の雰囲気が漂ったからだ。

「よそ者が来た時って面白いでしょ。一番盛り上がるんですよ」

デビュー戦の前に、那須川はそう話していた。

ボクシング界に新たな風が吹いている。神童が、総合格闘技&キックボクシングファンをボクシングに引き寄せたから生じたのだろう。

試合は圧勝に終わった。

KO勝ちではなかったが、日本バンタム級2位の与那覇勇気(真正)をスピードと動体視力の良さを活かしたデイフェンスで完封したのである。上々のデビュー戦。本人は「まだこれからです」と余裕の笑みを浮かべていた。

今月は休養し5月に入ってから走り込み合宿、その後にジムワークを再開する予定で、2戦目は8月になりそうだ。

気になるのは次の対戦相手─。

「2戦目は8回戦を用意し、1年以内には日本タイトルに挑戦させたい」

帝拳ジムの本田明彦会長は、そう話していた。

ならば次戦も、国内上位ランカーと闘うことになるのか。

候補を探ってみよう。那須川が今後、スーパーバンタム級、バンタム級のいずれで闘うかは未定だが、両階級の国内上位ランカー(2023年4月度)は次の通りだ。

石井渡士也(RE:BOOT、22歳/日本スーパーバンタム級1位)

下町俊貴(グリーンツダ、26歳/同2位)

中川麦茶(一力、34歳/同3位)

田村亮一(JB SPORTS、35歳/同4位)

大湾硫斗(志成、25歳/同5位)

比嘉大吾(志成、27歳/日本バンタム級1位、元WBC世界フライ級王者)

富施郁哉(ワタナベ、24歳/同3位)

千葉 開(横浜光、30歳/同4位)

南出 仁(セレス、28歳/同5位)

中川麦茶の対戦アピール

この中に一人、那須川との対戦を猛アピールしている男がいる、中川麦茶だ。型破りなキャラクターで人気の彼は、4月16日、東京・代々木『3150 FIGHT vol.5』のリングでロビン・ラングレス(フィリピン)から5ラウンドKO勝利を収めた。よって、さらに上位にランクされる可能性が高い。そんな中川は言う。

「次は天心選手とやりたい。あの歳であれだけのファンがいて多くのことを背負って表舞台でやってるのは凄いこと、尊敬している。でも僕と闘ったら実力がどの程度なのか本当のところが分かると思う。勝つ自信はあります」

これは単なる売名アピールではないだろう。175センチと長身の中川は、試合前の記者会見で乱闘を繰り広げるなど派手さを装うも、ボクシングスタイルは堅実で頭脳的。27勝(17KO)9敗2分けの戦績を誇り、OPBF(東洋太平洋)スーパーバンタム級6位にもランクされている。那須川もデビュー戦後に8位に名を連ねているが、それより2つ上位となる。

闘えば面白いと思うが、帝拳サイドが描くプランに彼が沿っているかどうかは分からない。

国内ランカー以外に、日本人世界ランカーもいる。

石田 匠(井岡、31歳/WBA世界バンタム級4位)、亀田和毅(TMK、31歳 /元WBO世界バンタム級王者、元WBC世界スーパーバンタム級暫定王者)らだ。

また、外国人選手との対戦となる可能性もある。その場合、世界及びOPBF、WBO AP(アジアパシフィック)のランカーが対象となろう。

そして3戦目か4戦目での王座挑戦。この場合、日本王座とは限らず、OPBF、WBO APのチャンピオンに挑むことになるかもしれない。現在、アジア圏のタイトルは日本が独占している。スーパーバンタム級、バンタム級のベルトを腰に巻いているのは次の5選手だ。

日本バンタム級王者/堤 聖也(27歳、角海老宝石)

OPBFスーパーバンタム級王者/武居由樹(26歳、大橋)

OPBFバンタム級王者/栗原慶太(30歳、一力)

WBO APスーパーバンタム級王者/中嶋一輝(29歳、大橋)

WBO APバンタム級王者/西田凌佑(26歳、六島)

日本スーパーバンタム級王座は空位。

順調に勝ち進めば、那須川はいずれかの王者に挑む可能性が高い。これが現時点での帝拳サイドが敷く路線と見られている。

デビュー戦翌日の4月9日、東京・辰巳での一夜明け会見で「強い相手と闘っていきたい」と話した那須川天心(写真:藤村ノゾミ)
デビュー戦翌日の4月9日、東京・辰巳での一夜明け会見で「強い相手と闘っていきたい」と話した那須川天心(写真:藤村ノゾミ)

常識の物差しでは測りたくない

3戦目、もしくは4戦目での日本及びアジア圏王座への挑戦。かなりのハイスピードである。しかし、那須川が「キックボクシング42戦全勝」の"神童"であることを考えれば、もっと高いハードルを設け観る者にスリルを与えてくれてもいい。

那須川天心は、ボクシング界に変革をもたらそうとしている男。セオリーなどにとらわれてはいけない。「世界王座奪取最短記録」に挑んでも良いのではないか。

デビューから世界王座獲得までの日本人最速記録は田中恒成(畑中)が、2015年 5月にWBO世界ミニマム級王座奪取で達成した5戦目。これは井上尚弥(大橋)の6戦目を塗り替えたもの。

世界に目を向けると48年前、1975年7月にタイのセンサク・ムアンスリンがWBC世界スーパーライト級王座を獲得した3戦目となる。センサクはムエタイで王者になった後にボクシングに転向、フットワークの軽快さはなく独自スタイルながらも驚異のパンチ力で王者ぺリコ・フェルナンデス(スペイン)をKOし世界のベルトを手にした。その後、一度は王座から陥落するもすぐに奪回、通算8度の王座防衛を果たし伝説のチャンピオンとなった。

同じキックボクシング出身の那須川にも、ぜひこの大記録に肩を並べて欲しい。デビュー戦での彼の佇まいから、スリリングな挑戦をしてもらいたいとの想いを強く抱いた。

「ボクシングは甘くない、いい加減なことを言っちゃいけない」

「リスクが大きすぎる。将来性のある選手を潰すよ」

そんな風に言う人もいるだろう。

だが誰が、大谷翔平の”二刀流”がメジャーリーグで通用することを予想できただろうか?

那須川を常識の物差しで測りたくない。彼もまた「道なき道」を往く男なのだ。3戦目での世界王座挑戦も視野に入れて欲しい。

いや、もしかすると大記録に挑むプランが水面下で動いているのかもしれない。次戦で亀田和毅、もしくは武居由樹と対峙、ここで勝利しWBA世界バンタム級王者の井上拓真(大橋)に挑むストーリーが描かれれば、観る者にとってこれほど熱くなれることはない。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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