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「園バス置き去り」を予防するために その2

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

 今回の園バス置き去りによる死亡事故は大きな反響を呼んでいる。特にわが子を園バスで保育所や幼稚園に通わせている保護者にとっては「他人事ではない」大問題だろう。実際に各地で行われているさまざまな取り組みが報道されている。

何が行われているのか

 一部の園では、バスに閉じ込められた時の対応訓練を実施した、と報じられている。「安全に生活するために日ごろから心がけること」や、「助けて!と叫ぶこと」を園児に教えた後、園児がバスに閉じ込められた事態を想定して、実際に普段の通園で使用するバスを使って、園児らにクラクションを鳴らして助けを求める指導や訓練が行われたという。

 このニュースを読んで、違和感を覚えた。このような訓練は、「閉じ込められた」状況が発生した後の対策である。本来、3歳児がクラクションを鳴らさなければならないような状況は決して発生してはならないものだ。園長は、園児たちに「助けて」と叫べる人になってほしいと述べたとされているが、そもそも3歳児にそのようなことを要求すること自体が間違っている。今回、「とにかく急いで何かしなければ!」と考えて訓練を行ったものと思われるが、重要なのは置き去りが発生した後の対策ではなく、置き去りが発生する前の対策を早急に検討し、実施することだ。

国に要望書を提出した

 2022年9月12日、私が理事長を務めるNPO法人Safe Kids Japanと子どもの事故予防地方議員連盟は、内閣府特命担当大臣(こども政策担当)である小倉 將信大臣に対して要望書を提出し、これまでの「人」に依存した予防策だけではなく、テクノロジーを活用した予防策を早急に検討していただきたい、とお願いした。近々、東京都の小池 百合子知事にも要望書を提出する予定だ。東京都に対しては、置き去り予防だけでなく、園バスに関する包括的な安全対策をお願いしたいと考えている。

Safe Kids Japanのウェブサイトより(筆者抜粋)
Safe Kids Japanのウェブサイトより(筆者抜粋)

今、何をすべきなのか

 今回、園バスの置き去りに対して、「何かしなければならない」という緊迫感があり、さまざまな取り組みが行われているものと思うが、その予防対策を保育者や子ども自身に求めるのではなく、今こそ「保育者や子どもが気をつけなくてもいい」環境や製品を作り活用することを最優先に考える時だ。「注意すれば予防できる」という考え方は有効ではない。「人は誰でも間違える」ことを謙虚に認め、それを前提とした予防策を考えていく必要がある。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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