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新大陸を「最初に発見した」のは「コロンブス」ではなかった

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 西洋人の新大陸への最初の到達はいつだったのか。最新の研究から正確な年代がわかった。

コロンブスより先に到達していたのは誰か

 当然だが、南北アメリカ大陸には西洋人が「到達」する前から先住民がいた。彼らはユーラシア大陸からベーリング海峡(地峡)を渡って北米大陸から南米大陸へ至ったが、それは数万年前と考えられている。その後もユーラシア大陸と北米大陸との間でヒトの往き来が続く。

 西洋人の到達としては、イタリア人のクリストファー・コロンブスが大西洋を渡って現在の英連邦バハマにあるサン・サルバドル島に着いた1492年10月12日とされる。だが、コロンブスは当初ここをインドと思っていた。

 だが、実際に西洋人が北米大陸に到達したのは、コロンブスより500年ほど前だったことがわかっている。これは、カナダの東岸にあるニューファンドランド島にランス・オ・メドー(L'Anse aux Meadows)という考古学的な遺跡があり、12世紀頃にアイスランドで作られた物語『サガ(Saga)』の伝承をもとにノルウェーの探検家、ヘルゲ・イングスタッド(Helge Ingstad)と妻が1960年代にノース人(バイキングを含むスカンディナヴィア半島西部の人)の入植地を発見したことによる(※1)。

 イングスタッドがヒントにした『サガ』には、10世紀頃のグリーンランド出身のアイスランドの探検家、レイフ・エイリクソン(Leifr Eiriksson)が、グリーンランドから南西へ航海し、まず現在のカナダの北極圏にあるバフィン島へ到達、その後、ラブラドール半島へ至り、上陸してその地をヴィンランド(Vinland)と名付け、越冬キャンプを設営したとある。このキャンプがランス・オ・メドーかどうかは定かではないが、イングスタッドは『サガ』の記述からニューファンドランド島にバイキング、つまりノース人が定住した遺跡を発見したというわけだ。

年輪に残された炭素14の痕跡

 では、西洋人が北米大陸に定住した年代は、正確にわかるのだろうか。これまで放射性炭素14が半減期5730年で放射壊変することを利用した放射性炭素年代測定法(炭素14年代法)により、西暦793年から1066年の間という研究が出ていたが(※2)、少し前、英国の科学雑誌『nature』に、木材を使った年代測定によって、その年が西暦1021年、今から1001年前だったのではないかというオランダ・フローニンゲン大学などの研究グループによる論文が出た(※3)。

 10世紀頃の北米先住民はまだ鉄器を使用していなかったが、ランス・オ・メドーの遺跡に残された木材は鋭利な金属製の斧で切断されたことがわかっている。一方、西暦993年におそらく太陽フレアと考えられる非常に強力な宇宙線が地球上に降り注いだことがわかっており、大気中の炭素14に変化が生じ、その痕跡が光合成によって植物に取り込まれ、記録として残されている。

 樹齢1100年以上の長寿の樹木や当時の樹木の年輪を調べると、他の年輪より炭素14の値が高い年輪があり、年輪を調べるとその樹木がいつ生まれたのか、いつ切り倒されたのかがわかる。同研究グループは、ランス・オ・メドーの遺跡の木材を調べ、西暦993年からの年輪を数えたところ、28輪、28年後の1021年に切り倒されたことを突き止めたのだという。

 同じように、宇宙線による炭素14の高い値が記録された木材を調べた研究もある。例えば、西暦774年から775年にかけて大気中の炭素14濃度が約1.5%上昇したが、建築年代が不明だったスイス東部グラウビュンデン州にある聖ヨハネ・ベネディクト会修道院の礼拝堂の木材を調べたところ、西暦785年から786年にかけての冬に建てられことがわかったという研究だ(※4)。この手法で、歴史上の出来事がいつ起きたのか、より正確にわかるようになるかもしれない。

※1:Reidar Nydal, "A Critical Review of Radiocarbon Dating of a Norse Settlement at L'Anse aux Meadows, Newfoundland Canada" Radiocarbon, Vol.31, No.3, 976-985, 1989

※2:William W. Fitzhugh, "VIKINGS: THE NORTH ATLANTIC SAGA" ANTHRONOTES, Vol.22, No.1, 2000

※3:Margot Kuitems, et al., "Evidence for European presence in the Americas in AD 1021" nature, Vol.601, 388-391, 20, October, 2021

※4:L. Wacher, et al., "Radiocarbon Dating to a Single Year by Means of Rapid Atmospheric 14C Changes" Radiocarbon, Vol.56, Issue2, 9, February, 2016

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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