Yahoo!ニュース

1泊7千円補助の「ミニGoToトラベル」が本日より順次開始

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「ミニGoToトラベル」と呼称すべきでしょうか、本日4月1日から5月31日までの2か月間、3,000億円の予算規模で実施される「地域観光事業支援」がスタート致します。以下、観光庁発表資料より。

(出所:観光庁発表資料より)

本事業は新型コロナウィルスの感染状況が「ステージ2」相当以下の地域において各都道府県の判断によって導入が決定される観光支出の補助事業です。同一都道府県内での旅行消費に対して、

  • 旅行代金の最大50%、
  • 上限1人1泊あたり最大5,000円まで

の補助が支給されます。また、これも各都道府県の判断となりますが、旅行クーポンなど旅行消費の増進策を合わせて行う場合には、

  • 1人1泊あたり最大2,000円

がそこに追加されるという大盤振る舞い。ちなみに、日帰り旅行も対象となっており、その場合には1人1回あたり最大5,000円の支給となります。

上記施策は順次各都道府県の計画に基づいて実施が始まるわけですが、要は昨年実施されたGoToトラベルが関東や関西などの大都市圏からその他地域への長距離かつ大量の旅客の移送を前提とした観光補助事業であったのに対し、今回の地域観光事業支援は各都道府県単位で短距離かつ小規模での旅客を域内でグルグルと回すことによって、コロナ禍にあえぐ地域の観光産業を底支えしてゆこうという施策となります。即ち、観光業界用語でいえば「マイクロツーリズム振興」であります。

このマイクロツーリズム振興にまつわる観光庁の失策に関して、私自身もこれまで幾度となく様々なメディアにおいて言及してきました。以下、昨年7月のGoToトラベル開始直前に私が書いたエントリから。

この国の観光政策には絶望しかないんだな、という話http://www.takashikiso.com/archives/10266631.html

近距離圏&小グループ観光に需要の軸足を移しましょうという話をすると、「俺達を一体どうしてくれんだ」と息巻く業者群が旅行代理業や公共交通業あたりにわんさか湧いてくるわけです。私はこういう業者群を、観光地側で営業を営む業者ではなく、そこに向かって旅客を「運ぶ」ことを生業としている業者群として「観光ロジスティクス」業者と呼んでいるワケですが、我が国の観光業界では伝統的にこの種のロジ側を担う業者の声が圧倒的に大きく、政府施策が常にそこに引っ張られるわけです。

結果、政府は本当はwithコロナ時代において一番論議が必要な近距離&小グループでの観光推進などというテーマには一切手を付けられず、結局、コロナ禍前に存在していた既存のビジネスモデルをそのまま公的資金で補助しますという戦略なきGoToトラベルと、その既存観光の上に「増築的に」新しい需要を発生させましょうという発想で出て来るワーケーション推進しかなかった

昨年夏に開始したGoToトラベルは、本来ならば今回始まった「地域観光事業支援」のように各地域単位で近距離圏&小グループ観光の振興を対象とするものでなければいけなかった。しかし観光庁は当時、各観光地で営業を営む各観光業者よりも、そこに向かって旅客を移送することを生業とする長距離交通業者や旅行代理店の声を重視するあまり、結局「大都市圏域から地方に向かって旅客を流す」という旧来型のビジネスモデルを前提としながらGoToトラベルを実施することしかできませんでした。しかし、その結果は皆さんがご存知の通りで、大都市圏域で感染症が再拡大したことで、そこからの送客に頼っていた全国の観光地が一斉に「共倒れする」という、観光業界にとっては地獄のような3ヶ月に亘る「冬の時代」が到来したわけであります。

これだけはハッキリ申し上げておかなければならないのは、一般によく言われている大都市圏での感染再拡大の主たる原因がGoToトラベルにあったかどうかに関しては未だその論証が必要ですが、一方でそこに巻き込まれる形で「感染拡大してない」全国観光地までもが経済的に一斉に沈んでしまった原因は、観光庁が「GoToトラベル」施策の舵取りを間違えたから。この点だけは観光業界関係者のみならず、全国民が共通認識として持っておかなければならないことであると思います。

とうことで1年遅れではありますが、やっと正しい形で施策がスタートした「ミニGoToトラベル」こと地域観光事業支援。感染拡大の少ない地域において徐々にその具体的内容が発表されてゆくことと思います。対象となる地域にお住まいの皆様におかれましては、ぜひ地域観光を支えるべく感染症対策に気をつけながらレジャーを満喫して頂ければ幸いです。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事