『ブギウギ』で厳しい後輩役の伊原六花がホラーに初主演 「観るのはエンタメでも出るとビクビクでした」
朝ドラ『ブギウギ』で趣里が演じるヒロインの歌劇団の後輩で、当たりが強い秋山美月を演じている伊原六花。ホラー映画で初主演した『リゾートバイト』が公開された。島の民宿でバイトをしている女子大生が恐怖体験をしていく物語に、リアルな戦慄を醸し出している。登美丘高校ダンス部のキャプテンから「バブリーダンス」で注目されて女優デビュー。多彩な役で着実にキャリアを重ねて、また新たな扉を開けたようだ。
タップは少し体勢が違うと音が変わって
――朝ドラの『ブギウギ』に『マイ・セカンド・アオハル』、そして、主演映画の『リゾートバイト』と出演作が続いています。
伊原 『ブギウギ』の撮影は7月末でひと段落しました。それまではずっと入っていて、合間に『リゾートバイト』の撮影。また『ブギウギ』に戻って、そのあとに『マイ・セカンド・アオハル』に入りました。
――『ブギウギ』ではタップダンスを披露しますが、六花さんはダンスなら何でもできる感じですか?
伊原 タップダンスは初めてで、全然違いました。足の音のリズムの踊りなので、使う筋肉も違いますし、ちょっと体勢が違うだけで音が鳴るタイミングも変わるんです。かなり繊細で、事前に何ヵ月かレッスンをして、撮影が始まってからも、合間に先生に教わっていました。膝と腰に来ます。
――演じる秋山美月は男役のスターになるんですよね。
伊原 私は童顔なので、最初は男役をやるイメージがありませんでした。衣装やメイクの力で、何とかできたかなと思います。
順調と思ったことはありません
――朝ドラでいうと、4年前に『なつぞら』に出演されたときに比べると、だいぶ余裕があるのでは?
伊原 余裕は全然ないです。当たり前のことですけど、同じような役が来ることはなくて、毎回がチャレンジ。悩みながらやっています。ただ、考え方の幅は増えました。デビューした頃は「明るい女の子だからこう」という感じだったのが、明るくても「この台詞があるのは、こんな部分もあるから?」みたいに考えられるようになりました。
――ドラマデビューから5年で、順調に来てます。
伊原 とりあえず目の前のいただいた役を、大切にしてきました。焦ったりもしますし、うまくいかなくてもどかしくなるときもあるので、順調と思ったことはないです。
――演技に自信は付いてきてませんか?
伊原 自信もないです。正解はないので、監督のビジョンと自分が思ったことを合わせて、一番マッチするものをどれだけ表現できるか。一方面からだとわからないこともあるので、自分の見方は客観的にはどうなのか教えてもらいながら、作り上げていってます。
台本を100回読んだら見えてくるものがあるなと
――今までで特に悩んだ役というと?
伊原 ちゃんと役に向き合いたいと思ったきっかけは、おととしの『友達』という舞台でした。そうそうたるキャストの方が出演されていて、皆さん自由なんです。自分が持っているものを出すことに躊躇しない。それが違うと言われても、すぐ別のアイデアが出てくる。ポンポン出す方もいれば、演出家さんと話し合って練り上げていく方もいる。でも、出てきたものはどちらもプロフェッショナル。行きつく先が素敵なら、決まった方法はないんだなと思いました。それからは「自由でいいんだ」とちょっと気が楽になりつつ、より悩むようにもなりました。選択肢が増えて、どれがベストなのか、自分で選ばないといけないので。
――女優としてのポリシーみたいなものもできました?
伊原 事務所の社長づてに聞いた話に、すごく共感した言葉があります。ある女優さんが新人さんに役作りをどうしているか聞かれて、「あなた、台本を100回読んだ?」と言われたというお話があって。100回は例えかもしれませんけど、それくらい読んで読んで読み込んだら見えてくるものはあるなと。私もわからないことは毎回ありますけど、とりあえず台本を読み続けることは忘れないようにしています。
――最近はもう「バブリーダンスのキャプテン」という経歴なしでも、認知されてきてますか?
伊原 バブリーダンスに触れていただくことは全然あります。自分にとっても大切な作品ですし、それで知ってくださったのは嬉しいです。誇っていいことかなと今も思っています。
ホラーのDVDがあるだけで呪われそうで(笑)
『真・鮫島事件』、『きさらぎ駅』に続き、ネット上で語り継がれる都市伝説を永江二朗監督が映画化した『リゾートバイト』。引っ込み思案な大学生・内田桜(伊原)は、幼なじみの真中聡(藤原大祐)、華村希美(秋田汐梨)と共に、島の旅館でバイト生活を楽しんでいた。ある日、使われていないはずの2階に、女将の八代真樹子(佐伯日菜子)が食事を運ぶ姿を目撃して、事態は急変していく。
――ホラー映画に馴染みはありました?
伊原 おばけ屋敷とか心霊スポットとか自分が怖いことを体験するのは苦手で、怖い映画や本なら好きです(笑)。『チャイルド・プレイ』、『アナベル 死霊館の人形』、『ドント・ブリーズ』、『呪怨』とか観ました。
――怖いことは苦手というと、ホラーはどんな感情で観ているんですか?
伊原 友だちと観るとエンタメとして面白いなと。音だったり空間だったり、ちょっとアトラクションっぽいというか。「怖い思いをしにいこう」みたいな感じで観るのは好きです。映画館で「怖かった。もう観たくない……」と思うんですけど、また行ってるということは、クセになっているんでしょうね(笑)。
――家で1人でDVDで観たりは?
伊原 1人では絶対観ません。家にそういうDVDが置いてあったら、呪われそうだと思うので(笑)。
普段から驚かされると叫んだり腰を抜かしたり
――普段はそんなに怖がりなんですか?
伊原 そうですね。おばけ屋敷に入ったことはあって、そこのスタッフさんに「すいません。進んでください」と言われたくらい、動けませんでした(笑)。大きい音も苦手で、普段からホラー映画くらいのリアクションを取っています(笑)。「キャーッ!!」と叫んだり、腰が抜けたり。
――たとえば、どんな状況でそうなるんですか?
伊原 曲がり角で待ち伏せされてワッという、かわいいいたずらをされただけで、腰が抜けました(笑)。
――それならホラーの演技はやりやすかったかもしれませんが(笑)、『リゾートバイト』の出演に当たり、何かを参考に観たりは?
伊原 今回出てくるひとつの描写の参考に、『エミリー・ローズ』という作品を教えてもらって観ました。
――それは1人で?
伊原 勉強だと思って、家で頑張って観ました(笑)。
――演技に役立つことはありました?
伊原 体の動きだったり「こうしたら怖いように見える」というものは、ある場面で参考にさせてもらいました。
無理に演技をしなくても怖かったので
――劇中で旅館の隠し階段を上っていくところとか、怯えた表情で息が荒くなって、リアルに怖そうでした。
伊原 怖かったです(笑)。本当に夜だったし、カメラが背中から撮っていると、誰もいない方向に歩いていくので、ドキドキしてしまって。
――演技としては、何テイクか撮っても、慣れないようにしていたり?
伊原 何回も撮るから慣れていく、ということは全然なかったです。ちょっと人がいないと怖くなるし、暗くて煙たいだけで不気味だし……。エネルギーを使いました(笑)。
――普段も暗い道を1人で歩いたりはしませんか?
伊原 そういう道では絶対、大阪にいる親に電話します。話しながら歩いて気を紛らわします。
――除霊のために寺の本堂でひと晩過ごすところも、耳をふさいだり目を見開いたり、かなりの怯えっぷりでした。
伊原 あんなの絶対無理です(笑)。撮影したお寺が山の上にあって、外に出ても暗い森の中で怖くて。本堂も狭くて本当にビクビクしてました。音は現場ではないので「ここで来る」というのは想像でしたけど、空間だけで怖くて。無理に演技を頑張らなくても、怖がっていた感じです(笑)。
気配を感じても振り向く前に引っ張って
――そうした現場のリアルな怖さもありつつ、ホラーならではの演技を心掛けたりもしました?
伊原 ホラーが初めてでわからないことばかりで、「こうしたほうが怖く見える」というのは、監督に全部教えてもらいました。感覚よりも計算をしっかりして作り上げていくんだと、勉強になりました。
――計算とは、たとえばどんなことですか?
伊原 後ろに気配を感じたり、大きい音がしたら、パッと振り向くのが自然ですけど、ホラー的にはそれだと間が短いみたいです。気配を感じたら一回目線を固めて、体を起き上がらせてから、ゆっくり振り向く。そういうほうが観る側はドキドキする。ちょっとジラすとホラー的になる、ということでした。
――反射神経に引きずられないわけですね。
伊原 気持ち的には「何だろう?」とすぐ振り向くのが正しくても、「何? 何? 何?」と引っ張ったほうが、現場で映像をチェックしても確かに怖く感じました。そういう見え方はすごく大事だと思います。
――六花さんは目が大きいので、見開いたときに恐怖感がより出てました。
伊原 目が大きくて得したことはあまりなかったんです。自転車をこいでいて虫が入ってきたりするし(笑)。でも、今回の試写を客観的に観て、初めて目が大きくて良かったと思いました。
現場の隣りの宿に泊まって役が抜けませんでした
――撮影期間中、役を引きずることはありました?
伊原 引きずるタイプではないと思っています。でも、今回は島での撮影で、現場の隣りが泊まった民宿だったんです。いい意味で役が抜けず、2~3週間ずっと、本当にリゾートにバイトに来た感じでいられて。演じるには良い環境でした。
――寝るときも物音が気になったりは?
伊原 それが、私が泊まらせてもらったところが、すごく居心地が良かったんです。オシャレできれいで、ホッとする家みたいな感じ。プライベートでも来たいくらいで、怖いことは全然ありませんでした。
――ホラー映画ですけど、点描では釣りや花火のシーンもあって。そういう撮影は楽しかったですか?
伊原 そうですね。撮影で余った花火を海辺でやったり、合間にビーチでバレーボールをしたり。時間があれば、おのおの自由に過ごしていて、私はカヤックに乗せてもらったりもしました。あと、島の人が夜光虫を取ってきてくれて、海辺がワーッと青く光るのも見られて、すごくきれいでした。
バイトは近所のうどん屋でしていました
――実際にバイトをしたことはあるんですか?
伊原 あります。高校時代に近所にかすうどんのお店があって、そこで働いていました。
――『夕暮れに、手をつなぐ』みたいな感じで?
伊原 そうです。あれはちょっと高級なおそば屋さんでしたけど、もっと地元感のあるお店でした。うどんも作るし、レジや接客もしていて。一緒にシフトに入った人と「今日はホールとキッチン、どっちをやる?」と決めていました。
――リゾートでのバイトに惹かれるものもありますか?
伊原 リゾートバイトって響きが最高ですよね。怖いことがなければ(笑)。
自分が出演しても観るとビクンとしました
――この映画に出て、ホラーに対する考え方は変わりました?
伊原 ホラー映画は現場も怖いのかと思っていたら、和気あいあいとしていました。監督やスタッフさんのホラー愛がすごくて、その気持ちに後押しされた感じで、良いチームでやらせていただきました。
――ホラー愛はどんなところで感じました?
伊原 一番はこだわりですね。ビクッとして振り向くシーンひとつでも、「今の間でなくて、もう少し遅く」「もう少し早く」と何テイクか撮ったり。
――時間にすれば数秒の違いなんでしょうけど。
伊原 0.何秒の差だと思いますけど、感覚的に「これがいい」というところまで撮るのが熱かったです。お芝居はわりと自由にやらせていただきながら、ホラーカットに関しては、こだわりが光っていて、こちらの感覚も変わりました。でも、出来上がった作品は、観れば怖いだろうなと今でも思っています。自分が出演したから慣れるということは、なさそうです(笑)。
――試写を観たら、どうでした?
伊原 編集前のバージョンを観たときは、後半の構成がこう繋がったんだと、ワクワクしました。スピード感があるなと思って。でも、2回目に音が入ったのを観ると、やっぱり怖かったです。ドキッ、ビクンとしました(笑)。
自分が1ミリも見えないように演じられたら
――先ほどホラー映画で観た作品を挙げていただきましたが、他にも映画はよく観るんですか?
伊原 映画は好きです。最近だと、鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんの『エゴイスト』を少し遅れて観ました。ダンスっぽいシーンが感情の表現として入っているのが、日本映画にあまりなくて新しいなと。洋画も好きで、「こんなオシャレな作品にも出てみたいな」と思ったりします。
――どんな映画を観て、やりたいと思ったんですか?
伊原 『わたしは最悪。』です。何気ない日常の描写がオシャレで自由。スカッとするハッピーエンドではないですけど、観終わるとタイトルの意味がめちゃめちゃわかるんです。それもまたシャレていて良いなと思いました。
――六花さん自身が、これから伸ばしていきたいこともありますか?
伊原 俳優さんがその人っぽくない役で、歩き方や言葉づかいから目線の動かし方まで、本人が1ミリも見えないように演じられていることがあって。そうであるほど観る側は作品に没頭できるので、自分でも細やかなところまで作り込むことを目指します。何かの訓練が必要な作品にもチャレンジしていきたいです。
Profile
伊原六花(いはら・りっか)
1999年6月2日生まれ、大阪府出身。
2017年に出場した日本高校ダンス部選手権での「バブリーダンス」で注目。2018年にドラマ『チア☆ダン』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『明治東亰恋伽』、『なつぞら』、『どんぶり委員長』、『シコふんじゃった!』、舞台『ロミオ&ジュリエット』など。ドラマ『ブギウギ』(NHK)、『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)に出演中。公開中の映画『リゾートバイト』に主演。
『リゾートバイト』
監督/永江二朗 脚本/宮本武史
出演/伊原六花、藤原大祐、秋田汐梨、佐伯日菜子、梶原善ほか
グランドシネマサンシャイン池袋、イオンシネマほか全国公開中
『リゾートバイト』秋田汐梨インタビューはこちら