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『光る君へ』の“ぷんぷん妍子様”で話題の倉沢杏菜 「いい子にならないように伸び伸びやろうと」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/角田航

大河ドラマ『光る君へ』で、藤原道長と倫子の次女・藤原妍子(きよこ)を演じている倉沢杏菜。遠慮のない物言いと自由きままな行動が目を引き、不満げに唇をとがらす姿が“ぷんぷん妍子様”と話題になった。今年、『VRおじさんの初恋』、『ビリオン×スクール』とレギュラー出演が続き、初の舞台『138億年未満』も控える19歳。その素顔と躍進の最中の心境は?

顔がよく動くのが良かったようです

――『光る君へ』の“ぷんぷん妍子様”の反響は感じましたか?

倉沢 マネージャーさんが「こんなふうに言われているよ」と記事を送ってくれて、「本当に!?」とネットで調べました。楽しんでいただけて嬉しいですけど、自分ではぷんぷん顔にそんな反響があるとは、思ってもいませんでした(笑)。

――鏡を見て練習したわけでもなくて?

倉沢 してないです。でも、私はお仕事を始める前から「顔がよく動く」と言われていたので、それが良いように作用した気がします。

――普段からぷんぷんしているわけでもないですか(笑)?

倉沢 してないと信じたいです(笑)。妍子みたいな感じではないですけど、考えごとをしているときに、ああいう口はしてしまうかもしれません。ちょっと気をつけてみようかなと思います(笑)。

「平安のパリピ」と言われて腑に落ちて

――妍子は入内した18歳年上の東宮(居貞親王/のちの三条天皇)について「年寄りは年寄りでございます」と言ったり、吉高由里子さんが演じるまひろ(紫式部)に諫められて「何かうるさい、この人」とぷんぷん顔を見せたりしていました。

倉沢 私自身、台本を読んで「おーっ、言うな~」と思いました(笑)。大河ドラマでそんな台詞を言ってしまって大丈夫なのかと。でも、妍子の人となりを掘り下げていけば、そういった言動も納得できますし、現場で監督さんや共演者の皆さんも「いいね」と言ってくださったので、ひと安心でした。

――時代劇っぽくないキャラクターですが、演じるうえでイメージしたことはありました?

倉沢 衣装合わせのとき、監督から「妍子は平安のパリピ」と言われたのが、すごく腑に落ちました。時代に関わらず、ああいう奔放な子はいたんだろうなと。大河のセットは作り込まれていて完成度が高くて、お着物やかつらの重さに背筋がピッと伸びて、お行儀よくなってしまいそうな自覚があったんです。状況に捉われず、伸び伸びと自由に妍子を演じることは、自分で立てた課題でした。

『光る君へ』より (C)NHK
『光る君へ』より (C)NHK

京都に行ってセットの外もイメージできました

――三条天皇の皇子の敦明親王に「す・き」と迫ったシーンは、試行錯誤はありました?

倉沢 どう言おうか考えて、躊躇してインパクトがないのはもったいないなと。せっかく大石(静)さんが書いてくださった妍子というキャラクターを、最大限活かせるように頑張りました。面白いのが、あそこは敦明様がうさぎ狩りの話をしていたとき、妍子自身がそんな狩りをしているという構図なんです(笑)。「風下から」と言っているところで、後ろから気づかれないように近づきました。「ここから来てここに」と位置関係は演出を付けていただいて、理解したうえで演じました。

――台本を読む込む以外に、妍子役を掘り下げるためにしたことも?

倉沢 歴史もので実在した人物を演じることが初めてで、妍子について書かれた本を読んだりしました。あと、京都に行って妍子様のお墓参りをして、住んでいたと言われる京都御所にも足を運びました。

――そこまでしたんですね。

倉沢 『ビリオン×スクール』の撮影期間中のお休みの日に行った、役作り旅です。妍子が生きた場所の空気感や建物の雰囲気に触れて、スタジオのセットの外側まで自分の中でイメージできたので、行って良かったです。

――妍子について「実は孤独感や満たされない気持ちを抱えながら生きている」ともコメントされています。

倉沢 どんな時代でも、悲しいことがあって「悲しい」と言う人もいれば、それを包み隠そうとする人もいますよね。妍子は悩みや孤独感を自分で認める前に、別の行動で紛らわせていて。「楽しく生きてやるからね」みたいな意志の強さは、台本を読んでいても感じました。

レプロエンタテインメント提供
レプロエンタテインメント提供

ただ自由気ままでない人間性も大切に

――実在の藤原妍子もそんな人だったんですか?

倉沢 派手好きで、ぜいたくな衣装もたくさん買い集めていました。ただ、ひとり占めしていたのでなく、女房たちのために買っていたそうです。重ね着させていたのも「寒かったら着ればいい」という。諸説ありますけど、ただ自由気ままで自分勝手な人には思えなくて、そこの人間性は大切にしていました。

――倉沢さん自身は派手好きですか?

倉沢 人並みだと思います。同世代の女の子が好きなものが私も好きな感じで、妍子のように「みな買い上げよ」まではしません(笑)。派手というか、海外の文化は好きだったりします。

――お父さんに「つまらぬことしか申されぬなら、もうお帰りください」的なことを言ったりは(笑)?

倉沢 言わないです(笑)。父とは仲が良くて、お仕事のことや将来のことも話しますし、くだらないことで笑ったりもします。冗談で「お帰りください」と言うことはあっても、本当はむしろ、出掛けていても早く帰ってきてほしい感じですね。

こんなに早く出させていただけるとは

――一昨年に事務所のオーディションに合格して、昨年デビュー。今年はドラマに立て続けに出演されました。人生が激変したでしょうね。

倉沢 そうですね。事務所に入ったときから目標はたくさんあって、大河ドラマもそのひとつで、こんなに早く出演させていただけて本当にビックリしました。まだまだ未熟で学ぶことばかりの私で大丈夫なのか、不安もありながら、現場では皆さんが温かくて、楽しんでお芝居することができました。

――『VRおじさんの初恋』などはオーディションで勝ち獲ったそうですが、『光る君へ』の妍子役も?

倉沢 この役はオーディションではなくて、今年4月の『VRおじさんの初恋』をスタッフさんが観てくださっていて、ご縁がありました。

――野間口徹さんが演じたおじさんのアバターの女子高生という役で、インパクトがありました。

倉沢 変わった物語ですが、皆さまに受け入れていただけて嬉しかったです。

青春キラキラ系やミステリーが好きです

――大河ドラマは自分でも観ていたんですか?

倉沢 『光る君へ』はお話をいただく前から、イチ視聴者として楽しんでいて。まひろと三郎のいる世界に自分が入っていくのは、嬉しさと驚きがありました。それ以前の大河は、よく母や祖母と一緒に観ていました。出演が決まって家族にも喜んでもらえて、祖母は「朝、昼、夜と観ている」と言ってくれています。

――幼稚園の頃に『ハイスクール・ミュージカル』を観て影響を受けたそうですが、中高生の頃にハマった映画やドラマはありますか?

倉沢 青春キラキラ系はたくさん観ていました。あと、『アンナチュラル』とかミステリー系も好きです。最近の『ラストマイル』も観ました。

――好きな女優さんもいたんですか?

倉沢 男女問わず、作品を観て「素敵だな」と思う俳優さんがいたら、その方の他の作品も観て好きになるパターンが多いです。『アンナチュラル』のあとで、石原さとみさんが過去に出演されたドラマを何本も続けて観たりしました。

撮影/角田航 ヘア&メイク/勝健太郎 スタイリング/法田一紗
撮影/角田航 ヘア&メイク/勝健太郎 スタイリング/法田一紗

会議が好きで生徒会をやりました

――そんな中で、高2のときにインスタでレプロエンタテインメント30周年企画の「主役オーディション」の広告を見て、受けたそうですね。

倉沢 今思うと、お芝居をしたこともないのに、よく応募したなと。もともと中学の授業参観で、教科書を読み合うくらいの英語劇をやったとき、母に「女優さんというお仕事もあるよね」と言われて、興味は持っていました。

――英語の弁論大会に出たりもしていたんですよね。

倉沢 市の大会で入賞しました。今も大学で英文学を専攻しています。

――生徒会もやっていたとか。

倉沢 先生から「やってみない?」と言われて、仲いい友だちと入って、会計をやっていました。数学は一番苦手だったんですけど(笑)。小学生のときは委員長をやっていて、たぶん会議が好きなんです。

――討論するのが?

倉沢 何か楽しくて。先生には、私がいると会議がユルむと言われました(笑)。ピリピリした空気が得意でなくて、そうなりそうだと場が和むようなことを言いたくなるんです。卒業生を送り出す「三送会」では企画を考えて、装飾や当日の案内もして、中学生ながら貴重な経験をさせてもらいました。

前髪は高3の夏休み以来ありません

――学校では『ビリオン×スクール』のように1軍だったわけですか?

倉沢 1軍ってドラマみたいに明確にあるわけでなくて、よくわからなかったです。私は学校でずっと、おいしい食べ物の話をしていました(笑)。

――妍子みたいなパリピ要素もありました?

倉沢 私は人混みがあまり得意でなくて。平安のあの感じは好きでも、宴に行ったら疲れそう。人見知りはしなくて誰とでも話せますけど、自分から「遊ぼう」と連絡するのは苦手です。

――おでこはその頃から出していたんですか?

倉沢 5歳から12歳までバレエをやっていたので、小学生の頃は前髪はなかったんですけど、中・高ではずっとありました。高校3年でお仕事を始めて、夏休みに一度髪をくくったら楽だと気づいて、「もうこれでいいか」となりました。以来、前髪はありません(笑)。おでこをチャームポイントと言っていただけるなら嬉しいです。

久しぶりのダンスはついていくのに必死

――本多劇場で上演の『138億年未満』は初舞台なんですよね。稽古で映像との違いは感じていますか?

倉沢 舞台では、どこに立っているのか、どう動くかが映像より明確で、すごく意味を持っています。ドラマだとシーンが変わるときに、カメラが切り替えてくれますけど、舞台は転換があるのが面白くて。何気なく観ていた舞台がこうやってできていたんだと、発見がありました。あと、声を大きく出すのも大事で、ちょっと気を抜くと小さくなってしまって、指摘されることもあります。

――演じる野沢真子はダンスの才能を持つ大学のスター。倉沢さんはクラシックバレエを習って、大学でもダンスサークルに入っているそうで、自信のあるところでした?

倉沢 大学のサークルは最近行けておらずで、ブランクがありました。オーディションでは当日に振りを入れていただいて、その場で踊ったり、前の日に教わって覚えてきたりしましたけど、そういう作業は久しぶりで、ついていくのに必死でした。周りに振り覚えが早い方もいた中で、アップアップしながら踊っていたのを覚えています。それでも久々のダンスを楽しんでいたのを、良しとしてくださったみたいです。

体の軸がブレないように筋トレも

――劇中ではどんなダンスを披露するんですか?

倉沢 大阪の芸大に通っている子なので、身体表現に近いアート的なダンスです。クラシックバレエではいかにきれいに踊るかを考えてきましたけど、芸大でのダンスはいかに崩すかということなので、苦戦している最中です。

――桜井日奈子さんが演じる高校のダンス部でアイドル的存在だったヒロインに、羨ましいと思われるダンスを見せないといけないんですよね。

倉沢 そこがプレッシャーなんです。桜井さんの踊りがとても魅力的で、キラキラしたエネルギーを感じるので。そんな人に羨んでもらえる才能が私にあるのか。振付の先生に助けていただいて試行錯誤しながら、本番までにしっかり持っていけるように頑張っています。

――家でも練習しているんですか?

倉沢 踊りますし、稽古で踊った動画も観ます。体の軸がブレている感じだとバタバタして見えるので、筋トレもしています。

――大阪弁の練習もしているそうですね。

倉沢 絶賛学び中です。大阪弁の音声をずーっと聴いていたり、大阪出身の演出助手の方に私が言ったのを修正してただいたり。イントネーションが難しいです。自分の感覚だけで言うと全然違っていて、エセ大阪弁とバレてしまうんです。今回は大阪公演もあるので気を引き締めて、しっかりやらなければと思っています。

落ち込んでも前向きに生きるしかないなと

――野沢真子はダンスの才能があるゆえの悩みも抱えているとか。

倉沢 才能があるか、ないかはあまり気にしていない感じがします。1周回って踊れればいいやと。うまくいかないことに悩みつつ、でも、踊りたいだけだし……みたいな。

――そこはわかる気持ちですか?

倉沢 生活していても、全部がうまくいくわけではないので。落ち込んだりもするけど、前向きに生きていくしかないよな……というのはわかります。

――倉沢さんも女優人生の滑り出しをトントン拍子で進んでいるように見えて、うまくいかないこともあるわけですか。

倉沢 全部にそれぞれ違う悩みと違う発見がある感じです。『VRおじさんの初恋』はあんなに長く出演させていただいた経験が初めてで、たくさんのことを教わりました。その分、3月に撮影が終わって、次に自分が新しくやらなければいけないことと合わせると、考える量が多くなって、少し頭が整理しきれなくなりました。

――初めての大役で、いきなり莫大な量の情報が流れ込んできたんでしょうね。

倉沢 そうですね。でも、その頃に受けた『ビリオン×スクール』と『138億年未満』のオーディションでは、久しぶりに楽しくお芝居ができたんです。そのおかげで、また頑張ろうと思えたし、合格という結果にも繋がって、嬉しかったのを覚えています。

考えていることを言語化できるように

――来年3月で20歳を迎えるのは意識しますか?

倉沢 あっという間に10代が終わるということで、ちょっと大人になってきたと自覚する瞬間はあります。ものごとを冷静に考えられるようになってきた、とか。お仕事を始めてから、自分の考えていることをより言語化できるようにもなりましたし、ポジティブにもなってきたと感じます。

――それは良いことですが、10代が終わるのが寂しい気持ちも?

倉沢 友だちと「寂しいね」と話しています。18歳で成人になっても、やっぱり20歳は節目なので。まだ実感はなくて、ずっと10代の気分で行っちゃいそうな気もします。私は同級生で最後に20代になるので、「おいしいお酒を探しておくね」と言われています(笑)。

――今の倉沢さんには明るい未来が見えるのでは?

倉沢 そうなりたいです。私は良いことも悪いことも、いろいろ考え込みやすくて、どちらかいうと心配になることのほうが多い性格なんです。

――大河ドラマに出演しても、浮かれるようなことはなく?

倉沢 その都度周りの方に助けてもらいながら、ちょっとずつ進めたらいいなと思います。人間性も磨きたいですし、いろいろな経験をして、いつかは海外にも行けたら。英語もずっと勉強しているので、胸を張って「話せます」と言えるようになりたいです。

Profile

倉沢杏菜(くらさわ・あんな)

2005年3月18日生まれ、神奈川県出身。2022年にレプロエンタテインメント30周年企画「主役オーディション」に合格。2023年にドラマ『パパとなっちゃんのお弁当』でデビュー。『君には届かない』、『先生さようなら』、『VRおじさんの初恋』、『ビリオン×スクール』などに出演。大河ドラマ『光る君へ』(NHK)に出演中。11月23日より舞台『138億年未満』に出演。

ニッポン放送開局70周年記念公演『138億年未満』

11月23日~12月8日・本多劇場 12月12日~12月16日・サンケイホールブリーゼ

作・演出/福原充則 出演/作間龍斗、桜井日奈子、若林時英、中野周平(蛙亭)、倉沢杏菜ほか

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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