eスポーツのアジア大会・公式種目化は未確定
先週よりインドネシア・ジャカルタでアジア競技大会が開幕し、本大会で参考種目として実施が行なわれているeスポーツの報道が増えてきました。
光、音の演出…アジア大会公開競技「eスポーツ」観客熱狂
ジャカルタ・アジア大会の公開競技で、コンピューターゲーム対戦競技「eスポーツ」が26日、ジャカルタ北部の会場で始まった。大音量の実況や光の演出に若者中心の観衆が熱狂し、初日から盛り上がりを見せた。赤や青のカクテル光線に照らされ、さながらライブ会場のような雰囲気だ。普段はバスケットボール場という試合会場はeスポーツ仕立てに生まれ変わっていた。
ただ、その中に誤報が含まれる記事も散見されており、その点、訂正しておきたいと思います。例えば、上記記事の中だと以下の部分。
eスポーツは4年後のアジア大会(中国・広州)で正式種目に“格上げ”されることが決まっている。
これまで、国際的にも2022年の中国・杭州大会からeスポーツが公式のメダル競技化するのだとする報道がなされてきたのは事実ですが、先週、これまでとは全く違った状況が報道されております。以下、8月21日報道のeSports Observerよりの転載。
eスポーツの2022年アジア大会のメダル競技化に「待った」
Esports Medal Inclusion for 2022 Asian Games Put on Hold
https://esportsobserver.com/esports-asian-games-medals-on-hold/
・The inclusion of esports as a medal sport in the 2022 Asian Games is uncertain.
・The Olympic Council of Asia states that esports requires one governing body before it can be recognized as a medal event.
・Esports has been incorporated as a demonstration sport in the Jakarta Palembang 2018 Asian Games.
・eスポーツの2022年のアジア大会メダル競技化は不確定
・アジア・オリンピック評議会は「eスポーツがメダル競技とされるには、統一統制組織の組成が必要」とコメント
・2018年ジャカルタ大会では「参考」競技としての採用
eスポーツへの公式種目化に関しては、先月、国際オリンピック委員会と国際スポーツ連盟機構が主催するフォーラムも開催され、論議が行なわれているわけでありますが、必ずしも全体の論調は前向きな「だけ」ではないのも事実であります。
このeスポーツの公式種目化に関しては、一方で進んでいるマインドスポーツの公式競技化論議と合わせて考えると非常に整理が付きやすいと思います。マインドスポーツとは、我が国では「頭脳スポーツ」などとも呼称されている、ボードゲーム・カードゲームなどの知的競技をスポーツ化したものの総称であります。
近年のeスポーツの興隆もあって、現在ジャカルタで行なわれているアジア大会ではeスポーツばかりにスポットライトが当てられている感もありますが、先述のとおりこれはあくまで参考種目としての採用であり、公式のメダル競技としての採用は未だ確定したものではありません。それに対して、実はマインドスポーツは、その中からコントラクト・ブリッジが今回のジャカルタ大会で公式種目として採用されている他、2010年の広州大会では囲碁、2006年のカタール大会ではチェスが公式種目として採用されてきた歴史があり、少なくとも公式種目化に関してはeスポーツよりも先を走っているのが現状。オリンピック競技化に関しても、eスポーツは2024年のパリ五輪の開催に向けてやっとeスポーツに関する論議が始まった段階でありますが、マインドスポーツは2022年に北京で行なわれる冬季五輪での公式種目化を目指して既に競技としての正式申請が行なわれているところであります。
Efforts underway to include mind sports at Beijing Winter Olympics
http://en.people.cn/n3/2017/0803/c90000-9250574.html
Mahjong Proposed to be Part of 2022 Beijing Winter Olympic Games
この両者は「肉体を動かさない競技がスポーツと言えるのか」という非常に根源的な部分では同質のものでありながら、一方で
1)ビデオゲームに含まれがちな暴力表現・性表現などがオリンピック競技として相応しいか否か
2)国際的な統一ルールが定まっているか否か(それらを管理監督する統一機関があるか否か)
3)そして、あくまで事業者の商業コンテンツを競技の対象とすべきか否か
の3点において、eスポーツとマインドスポーツの両者の論議において決定的な性質差があるという前提で検討が進んでいるものであります。
いずれにせよ、現在国際的に論議が行なわれているeスポーツの公式種目化は、一方で先行しているマインドスポーツの公式種目化と併走する形で論議が行なわれているものであり、各メディアの皆様はその2つを合わせて追いかけて頂くとより実態が掴みやすくなるかと。また、最後に改めて確認しておくと「eスポーツが2022年のアジア大会で公式種目化する」という報道は、最新の報道では否定されているものですので、その点は改めてご確認をお願い頂ければ幸いです。