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2020年は新型コロナの影響で売上が激減!5年目の「淡路島サクラマス」にかける島の人々の意気込み

南文枝ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者
兵庫・淡路島の新名物「淡路島サクラマス」を使ったメニューの数々

 兵庫・淡路島の新たな名物として、養殖やメニュー開発が進む「淡路島サクラマス」。本格的に売り出して4年目となる2020年シーズンは、新型コロナウイルスの影響をもろに受け、売上は前年の約半分に落ち込みました。3月からのシーズンを前に、一丸となって奮起する島の漁業者や飲食店関係者、行政の取り組みを取材しました。

 ほどよい柔らかさと上品な甘みが特徴のサクラマス。川で生息するヤマメが、海へ下り銀化(体が銀色になること)した魚のことで、桜の咲く季節に漁の最盛期を迎えます。天然物は北陸から東北地方で獲れ、富山の名物「ますずし」のネタとしても有名です。

美しい銀色をした「淡路島サクラマス」
美しい銀色をした「淡路島サクラマス」

 近年は漁獲量が激減し、天然物は「幻の魚」と言われるように。警戒心が強く、環境が少し変わっただけでもえさを食べなくなってしまう繊細な性格から、養殖も難しいとされています。

 淡路島は冬の「淡路島3年とらふぐ」、夏の「べっぴん鱧(はも)」をはじめとした海の幸が味わえますが、いずれも白身魚。漁業者たちが春の名物として、何か彩りも添えられる魚はないかと目を付けたのが、食味も良く、ピンク色が美しいサクラマスでした。島でサクラマスの養殖を始めた経緯については、以前書きました。

(新たな名物として注目!「淡路島サクラマス」が華麗にデビュー)

 紆余曲折あって養殖に成功し、2016年度からは養殖場がある兵庫県南あわじ市など行政がバックアップし、地域の飲食店を巻き込んだキャンペーンを開始。2018年度からは島全体で特産品化を進めていくことになりました。しかし、2019年度は新型コロナの影響を受けました。

 島内の42店舗が82メニューを開発し、新たに淡路島3年とらふぐとコラボレーションした「3月限定スター丼」も登場したのですが、シーズンの2020年3~5月は国の緊急事態宣言の期間(兵庫県は4月7日に宣言。5月21日に解除が決定)と重なってしまいました。外出自粛でPRがしにくいばかりか、島を訪れる観光客も激減。前年度までは販売食数、売上金額ともに順調に伸びていましたが、2019年度は販売食数は1万5904食(前年度比約39%減)、売上金額は4842万円(同約47%減)と大幅に落ち込みました。

今シーズン、「魚繁」(淡路市)が提供する「3月限定スター丼」
今シーズン、「魚繁」(淡路市)が提供する「3月限定スター丼」

「島内で全然売れず、冷凍加工するしかありませんでした。原価割れしてしまう状況でしたが、地元のホテルに協力してもらい、朝食で出してもらうことでなんとか乗り切りました」。淡路島サクラマスの養殖の第一人者で、福良漁業協同組合の前田若男組合長は振り返ります。

 厳しい状況の中、関係者の結束は強まりました。淡路島サクラマスプロモーション実行委員会の企画部長で「洋風創作うどんKEKKOI」(南あわじ市)のオーナー、藤江明美さんは生産者を支えようと、他の飲食店と連携してサクラマス弁当の販売を企画。生産者から逆に寄付されたサクラマスで弁当を作り、5月上旬に価格を抑えて販売しました。すると、これまでサクラマスを食べたことがなかった島内の人々から「おいしい」と言ってもらえ、島内での認知度を高めるきっかけとなりました。

 支援の輪は島外にも広がりました。神戸市などの飲食店もサクラマスを仕入れて弁当を作り、ひとり親の家庭に無料提供したのです。

 そして2020年度は、島内の2業者が1万7500匹、5トンの稚魚を導入。成長の過程で小さいサクラマスがえさを食べられずに死んでしまうのを防ぐため、1匹ずつ体の大きさで選別していけすを分ける▽臆病なサクラマスにえさを食べてもらうため、イサザアミから取ったエキスをえさにかけ、エビの香りづけをして与えるなど、大切に育てて大きくしていきました。

 島の飲食店や行政も、生産者の頑張りに応えます。2021年のシーズンは、島内の39店舗が83メニューを提供することになりました。これまでの丼や鍋、SNS映えする「春咲く*dish」などに加え、新カテゴリーとして「こだわりの逸品」を追加。その店ならではの調理方法や調味料、盛り付けなどにこだわるのがルールです。新型コロナの影響が残ることも考慮し、参加店舗のインターネット販売も後押しすることとしました。

「練物屋」がインターネット販売している「淡路島のっけかまぼこサクラマス」
「練物屋」がインターネット販売している「淡路島のっけかまぼこサクラマス」

 2021年3月1日の解禁を前に、2月26日に南あわじ市で開かれた新ご当地グルメのお披露目会には15店舗が参加。新型コロナ対策で試食は行わず、各店舗のスタッフが今シーズンのメニューを紹介しました。春に旬を迎える「桜鯛」とサクラマスの両方が楽しめる会席、3年とらふぐとサクラマスをてんぷらにした3月限定スター丼、ぜいたくなサクラマスのうにしゃぶ、サクラマスのクリームグラタンといったバラエティーに富んだ料理の紹介からは、スタッフの「コロナに負けない」という熱い思いが伝わってきました。

新ご当地グルメのお披露目会でメニューについて説明する参加店舗のスタッフ
新ご当地グルメのお披露目会でメニューについて説明する参加店舗のスタッフ

 福良漁業協同組合の前田組合長は、今年のサクラマスについて「例年通りにいいものができています。試しに一口食べると『春が来た』と感じるおいしさでした」と話します。「新しいメニューも増えていてうれしい。これからも頑張ってえさをやり、サクラマスを目当てに淡路島に来てもらえるようなPRをしたい」と意気込みます。

 政府はこの日、10都府県に出していた緊急事態宣言を、大阪府や兵庫県、京都府など6府県については2月末で解除することを決定。暖かくなり、人の往来も増えていくでしょう。淡路島を訪れることがあれば、ぜひ島の人々の思いがこもったサクラマス料理を堪能してほしいです。

2021年3月1日の解禁を前に意気込む「淡路島サクラマス」の生産者、飲食店、行政関係者ら
2021年3月1日の解禁を前に意気込む「淡路島サクラマス」の生産者、飲食店、行政関係者ら

撮影=筆者

ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者

1979年、石川県生まれ。同志社大学経済学部卒業後、北國新聞記者や毎日新聞記者、IT企業広報を経て、2013年からフリーライターとして書籍や雑誌、インターネットメディアなどで執筆。現在は兵庫県小野市在住。これまで当ページやニュースサイト「AERAdot.(アエラドット)」などで大阪、神戸、四国の行政や企業、地元の話題など「地方発」の記事を執筆。最近は医療関係者向けウェブメディア「m3.com(エムスリーコム)」で地域医療の話題にも取り組む。地方で面白いことをしている人に興味があります。

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