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新たな名物として注目!「淡路島サクラマス」が華麗にデビュー

南文枝ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者
淡路島の春のイチオシ3魚(サクラマス、シラス、サワラ)を使った「春☆スター丼」

 富山の名物「ますずし」のネタにも使われるサクラマス。身はほどよい柔らかさで、上品な甘みが特徴です。この魚を兵庫・淡路島で養殖し、新たな味覚「淡路島サクラマス」として売り出そうという試みが、島内の自治体や漁業者、飲食店などによって進められています。

「KUMI'S KITCHEN」(淡路市)の「サクラマスポキプレート」。レモン塩やごま油、しょうゆとシンプルに味付けしたポキ(ハワイの魚料理)に、エディブルフラワーを散らして華やかに
「KUMI'S KITCHEN」(淡路市)の「サクラマスポキプレート」。レモン塩やごま油、しょうゆとシンプルに味付けしたポキ(ハワイの魚料理)に、エディブルフラワーを散らして華やかに

 これまでは、島内3自治体の一つ、南あわじ市内の店舗でサクラマス料理やお土産を展開していましたが、2019年は全島“デビュー”。島内40店が3月から、サクラマスの丼ぶりや鍋、おしゃれプレートなど創意工夫を凝らした76メニューを提供しています。2月28日には、市内のホテルでメニューのお披露目会が開かれました。

 サクラマスは、川に生息するヤマメが、海へ下って銀化(体色が銀色になること)した魚のことです。近年は漁獲量が激減し、富山県では準絶滅危惧種に指定されています。東北や北陸地方などで水揚げされる冷水性のサクラマスが、なぜ温暖な淡路島で養殖されることになったのでしょうか。

淡路島で養殖されたサクラマス。今シーズンは比較的大きく育っているそう
淡路島で養殖されたサクラマス。今シーズンは比較的大きく育っているそう

 それは、ある漁業者の挑戦から始まりました。福良漁業協同組合の前田若男組合長(49)です。今や島の代表的な高級グルメ「淡路島3年とらふぐ」を開発した人でもあります。

 豊かな海の幸が味わえる淡路島。冬は淡路島3年とらふぐ、夏は「べっぴん鱧(はも)」と、それぞれアピール力が強い魚がありますが、それらの間、3月から5月に出せる、新たな特産品が求められていました。また、サワラやシラス、ハモなど白身の魚介がほとんどでした。

 そこで、前田さんが目をつけたのがサクラマス。南あわじ市の福良湾は、鳴門海峡の潮流の影響で水温が低めです。冷水性のサクラマスなら養殖できるのではないかと考えました。

2015年から、淡路島でのサクラマス養殖に取り組んできた福良漁業協同組合の前田若男組合長
2015年から、淡路島でのサクラマス養殖に取り組んできた福良漁業協同組合の前田若男組合長

 そして、2015年に試験養殖を行ったところ、3300匹のうち半数が死んでしまいました。しかし、あきらめず翌16年、7000匹の養殖にチャレンジ。成長の度合いで飼育場所を分けたり、ハーブやタマネギの皮などを混ぜたえさを与えたりと、工夫しながら育てたところ、見事養殖に成功。年を追うごとに養殖に取り組む事業者も増え、今シーズンは、前田さんが営む「若男水産」など3業者が、2万3500匹を育てています。

今シーズンは、島のイチオシ3魚を使った「春☆スター丼」が登場

 2年目の16年度からは、前田さんの取り組みを市などがバックアップし、地域の飲食店を巻き込んだキャンペーンが始まりました。市内の20店が、サクラマスを使った鍋や丼23メニューを開発し、全体で8200食、5000万円を販売しました。17年度は、市内の32店が参加し、44メニューで1万8581食、9040万円を売り上げています。

 18年8月には、兵庫県や市、島内の事業者らが「淡路島サクラマスプロモーション実行委員会」を設立。島全体で、淡路島サクラマスの特産品化を進めていくことになりました。

「ウェルネスパーク五色浜千鳥」(洲本市)の「春の3色丼」。(左から)サワラ、サクラマス、シラスをそれぞれに合わせた特製だれで味わえる
「ウェルネスパーク五色浜千鳥」(洲本市)の「春の3色丼」。(左から)サワラ、サクラマス、シラスをそれぞれに合わせた特製だれで味わえる

 2月28日のお披露目会には、今年度のキャンペーンの参加店舗40店のうち、22店が出席。新たな取り組みで、サクラマス、シラス、サワラという島の春のイチオシ3魚を使った、5月限定の「春☆スター丼」が披露されたほか、市場にほとんど出回らない特産の「淡路島なるとオレンジ」をサクラマスとコラボレーションさせたメニューも登場。メニューの試食も行われ、出席者は、3月からの“解禁”に先駆けて味わっていました。

 筆者も試食してみました。「絶景レストラン うずの丘」(南あわじ市)が提供する春☆スター丼「島の宝石丼」は、さいの目に切ったサクラマスとサワラ、キュウリに、シラスをふんだんに盛りつけ、ウニも添えたぜいたくなひと品。ウニ醤油をかけて食べると、口の中にふっくらとしたサクラマスの甘みと、ウニの濃厚な味わいが広がりました。幸せな気分になります。

「洋風創作うどんKEKKOI」(南あわじ市)の「なるとオレンジとさくらますのサラダうどん」。サクラマスの甘みを「淡路島なるとオレンジ」のほろ苦さが締める
「洋風創作うどんKEKKOI」(南あわじ市)の「なるとオレンジとさくらますのサラダうどん」。サクラマスの甘みを「淡路島なるとオレンジ」のほろ苦さが締める

 前田さんによると、今シーズンのサクラマスは、昨シーズンと比べると、やや大きく育っているそうです。「どんどん大きく成長させて、おいしい状態で皆さんのところに届けたい」と意気込みます。プロモーション実行委員会の喜田憲和委員長も「北海道、沖縄(と並ぶ)、淡路島というイメージ戦略の一つ。様々な事業者と連携して、食材も自然もいっぱいある淡路島を、全国に売り出していきたい」とやる気です。

気軽につまめるスナックメニューも。「オキフーズ直営店 練物屋」(南あわじ市)の「春るんるん♪ 淡路島サクラマス&新たまタルタルナゲット」
気軽につまめるスナックメニューも。「オキフーズ直営店 練物屋」(南あわじ市)の「春るんるん♪ 淡路島サクラマス&新たまタルタルナゲット」

 サクラマスメニューの提供は5月まで。春の魚のとろりと甘い味わいを堪能しに、淡路島を訪れてみてはいかがでしょうか。

2月28日のお披露目会には、キャンペーンに参加する40店中22店が出席。自慢のメニューを披露した
2月28日のお披露目会には、キャンペーンに参加する40店中22店が出席。自慢のメニューを披露した

撮影=筆者

ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者

1979年、石川県生まれ。同志社大学経済学部卒業後、北國新聞記者や毎日新聞記者、IT企業広報を経て、2013年からフリーライターとして書籍や雑誌、インターネットメディアなどで執筆。現在は兵庫県小野市在住。これまで当ページやニュースサイト「AERAdot.(アエラドット)」などで大阪、神戸、四国の行政や企業、地元の話題など「地方発」の記事を執筆。最近は医療関係者向けウェブメディア「m3.com(エムスリーコム)」で地域医療の話題にも取り組む。地方で面白いことをしている人に興味があります。

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