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保守系メディアがトランプ氏を説得か

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
FOXニュースのキャスター、ローラ・イングラハム氏(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選挙は、窮地に追い込まれたトランプ大統領が徹底抗戦の構えを見せる中、トランプ氏に近い保守系メディアが、それぞれの媒体を使って、トランプ氏に対し潔く敗北を認めるよう説得工作に乗り出したとの見方が広がり始めている。前代未聞の大統領選は、新たな展開に突入した。

メディア王・マードック氏の傘下

説得工作に乗り出したと見られる保守系メディアは、ケーブルテレビ・ネットワークのFOXテレビ、大衆紙のニューヨーク・ポスト、そして経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルの3媒体。いずれも、メディア王と呼ばれるルパート・マードック氏の会社が所有している。

米国の情勢に詳しい英紙ガーディアンは7日付の紙面(電子版)で、3媒体は、大統領選に関する報道内容のトーンが突然、明らかに変わったと指摘。その上で、トーンは事前に「綿密に調整したように見え」、かつ、いずれも「自身の“レガシー”を守るために潔く敗北を認めるよう、トランプ氏に訴えるメッセージを含んでいる」と報じている。

「レガシーがより意味を持つ」

具体例として、FOXニュースのキャスター、ローラ・イングラハム氏の直近の発言を、記事にツイッターの動画を貼り付けて紹介。その動画を見ると、イングラハム氏は次のように述べている。

「この選挙で自分に不利な結果を受け入れる時がもし来たら、そして現実に来た時、もちろん私たちはそうならないことを願っているが、もしそうなったら、トランプ大統領は、(10月15日にマイアミで開かれた)タウンホール・ミーティングで(司会者のNBCキャスター)サバンナ・ガスリー氏に対して見せたように、優雅にそして冷静沈着に振る舞うべきだ」

「敗北は不愉快なことだ。しかし、もしトランプ大統領がこの国を前進させることに集中するなら、彼のレガシーはより意味のあるものになるだろう」

FOXニュースは、他の主要メディアがトランプ氏の言動や政策を批判的に報道する中、主要メディアでは唯一、トランプ氏寄りの報道を続けてきた。トランプ氏の過激な発言も大抵はそのまま報道するため、トランプ氏の拡声器となって米社会の分断を煽る一翼を担ってきたとの批判も多い。

今回の大統領選でも、トランプ氏寄りの報道が目立っていたが、つい先日、接戦となっているアリゾナ州に関し、AP通信と共に一早くバイデン氏の当選確実を打ったため、トランプ陣営を大いに慌てさせた。

トランプ氏の主張を批判

一方、7日付のニューヨーク・ポストは1面で、笑顔のバイデン氏の写真を大きく掲載。写真の横には「READY, SET... JOE?」という大きな見出しが付いている。これは「よーいドン」(READY, SET, GO)をもじったものと見られるが、バイデン氏が当選確実であることを伝える意図だ。紙面の右下に小さく、渋い表情をしたトランプ氏の写真が「トランプ氏は戦い続けることを誓う」という見出しと一緒に、言い訳程度に出ている。

その前日には、バイデン陣営が票を盗もうとしているというトランプ氏の主張は根拠のない言いがかりだとして、トランプ氏を批判する記事も掲載した。

ニューヨーク・ポストは、10月14日に、バイデン氏とバイデン氏の二男ハンター・バイデン氏をめぐる「ウクライナ疑惑」を“スクープ”するなど、最近まで、FOXテレビと共にトランプ氏の再選を強烈に援護射撃してきた。

ニューヨーク・タイムズによると、ニューヨーク・ポストの編集幹部は、記者らに対して、もっとトランプ氏に批判的な記事を書くよう指示を出しているという。

大きな誤算に

ウォール・ストリート・ジャーナルは、FOXテレビやニューヨーク・ポストほど露骨ではないものの、もともと論調が保守的だけに、結果的にトランプ氏を支援するような記事が目立つ。しかし、そのウォール・ストリート・ジャーナルも、社説で、「トランプ氏は法廷闘争する権利はあるが、それには不正投票の証拠を示す必要がある」と述べ、根拠なく「不正」を口にするトランプ氏の姿勢を批判した。

3媒体の突然の変節がマードック氏の指示によるものかどうかなど、詳しい背景はわかっていない。今後、トランプ氏への圧力を一段と強めていくのかどうかも不明だ。ただ、これから世論を味方に付けながら法廷闘争を繰り広げようとしているトランプ氏にとって、同氏の味方となってきた3媒体に距離を置かれることは、大きな誤算に違いない。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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