『カムカム』の“シスターフッド”的魅力を振り返る
3世代ヒロインの100年の人生を描いたNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『カムカムエヴリバディ』の中心軸は、安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)のファミリーヒストリーだった。
しかし、その傍らで大きな魅力を放っていたのが、ヒロインと友人たちの、広い意味で“シスターフッド”とも言える物語である。
親友の恋をアシストし、商売もサポートした“きぬちゃん”
まずは、安子の親友“きぬちゃん”こと水田きぬ(小野花梨)。幼少期は、安子を「あんこ」と呼んでからかったり、ラジオを聞かせてやると言ったり、野球仲間を引き連れて安子の実家「たちばな」にやって来ては、気前の良いところを見せようとする勇の気持ちを敏感に察知しつつ、それに全く気付かない安子の傍らで二人を微笑ましく見守っていた。そこで安子と勇のどちらにも余計なことを言わないのが、きぬの素敵なところ。
成長してからは、稔と安子の微妙な空気に気づき、毎年一緒に行っていた夏祭りについて、用事があるからいけないと嘘をつき、二人の仲をアシストする。一時は疎開し、離れ離れになったものの、戦後は岡山に戻って実家の豆腐屋を継ぎ、おはぎを売る安子に豆腐屋の軒先を貸してくれるサポートもあった。
きぬが無事出産した頃、安子は誤解から、るいに「I hate you.」の言葉を投げつけられ、渡米していくという、親友同士の人生が大きく乖離していく対比も切なかった。
しかし、最終週では、ハリウッド映画のキャスティングディレクター、アニー・ヒラカワとしてラジオ番組に出演した安子の話を聞いたと言い、きぬの孫・花菜(小野花梨の二役)が登場。ひなたの弟・桃太郎が一目惚れして即告白、まもなく結婚。二人で回転焼き屋を営むことで、かつてきぬが店先に置いていた親友・安子の実家「たちばな」のあんこを、その孫たちが受け継ぐことになるのだから、人生何があるかわからない。
冷静で理知的なるいが弱音を吐ける頼もしき親友・ベリー
シスターフッド的な最大の功労者と言えば、るいの親友“ベリー”こと一子(市川実日子)だろう。
出会いは、“ジョー”こと錠一郎のファンとしてだった。当初、錠一郎がるいを気にかけていることに嫉妬し、るいを敵対視し、「田舎者」などと罵っていた。
「どないしたらデートしてくれんの? ジョーは!」と苛立ちを見せ、ジャズ喫茶「ナイト&デイ」のマスター・木暮に「押しが強すぎるんとちゃう?」「控えめな態度とってみるとかやな」と言われると、「そういう女、一番嫌い! 私は興味ありませーん。ほしい思うてませーん。そんな顔した女に限って、気ついたら何もかも手に入れてんねん」と毒づく。そして、配達でやって来たるいが飲み物を勧められ、遠慮すると、すかさず言う。
「それ~! それや! それや! その態度や! 『いえ、結構です』そない言うたら、相手がもう一押しくるのがわかってんねん。わかったうえで、断んねん。控えめの皮をかぶった強欲のかたまりや。けどな、そんなしたたかな女に私は負けへん。命短し恋せよ乙女や。じっと待っとる暇なんか私にはないねん!」
「田舎者!」などの悪口も、陰口でなく、あくまで本人の前でストレートに言ってのけるところも、ぶっきらぼうに呼び捨てしつつも、ジョーが名付けた、るいの愛称「サッチモちゃん」にのっかり、「サッチモ!」と愛称で呼ぶところも、るいが店にやって来ると、不機嫌そうにしながらも、無視せずに「はい、こんにちは~」と挨拶はちゃんとするところも、“良い家の子”ならではの伸びやかさと愛らしさに満ちている。
しかも、錠一郎がるいに思いを伝えたものの、るいが返事をしていないらしいことを知ると、るいを訪ねて、気持ちを確認。
何も言わず、震えながら額の傷に触れるるいの様子を見ると、「なんや、やっぱり好きなんや。ちゃんと返事はしてあげて。このままやったらジョー、コンテストで負けてしまう」と背中を押すのだった。
さらに、トランペットが吹けなくなり、絶望のどん底に落ちた錠一郎をるいが救いだし、結婚した二人は、大阪を出る。二人が向かったのは、短大卒業と同時に地元に帰る際、「何かあったら、いつでも連絡してきよし」と電話番号を渡してくれた、一子の住む京都だった。
まだ住む場所も仕事も決まっていないというるいと錠一郎に呆れ、心配する一子だが、るいの度胸の良さには「あんた、意外とギャンブラーやなぁ」と驚く。最初はるいを「強欲でしたたか」認定していた一子が、認め、応援するに至ったのは、るいが傷を抱えつつも何も語らず必死で生きてきた芯の強さを知ったこと、さらにるいの度胸の良さに対するリスペクトもあったろう。
るいたちの回転焼き屋が売れないことも心配しつつ、回転焼きを勧められても「いらん。私は日頃からお茶席でええ和菓子食べてんねん」と即拒否するのに、実際に味を認めると、店にたくさんの客を呼び込んでくれたのも、一子だ。地元の名家で、家業を継いでお茶の師匠をする一子が認めた味として、評判になったのだ。
また、自分の披露宴のデザートにと、回転焼きを200個注文してくれたこともあった。
岡山の「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」で母に向けて歌を歌うつもりだったるいが、準備中に聞いたラジオで、アニーが安子だと知ったことから、ひどく動揺する。すると、「お母さん自身がもう私に会わへんって決めてるんやったら、歌う意味あるんやろか」とつぶやくるいに、一子は茶を立てながら「私にもわからんわ、そのお茶に意味があんのかどうか」「意味があんのかないんか、わからんことをやる。誰かのことを思てやる。それだけでええんとちゃう?」と言うのだった。
基本的に冷静で理知的で度胸のあるるいが、一子の前ではオロオロしたり、弱音を吐いたりする関係性も愛おしい。
ひなたのツッコミ&フォロー役、“アホな愛おしさ”を解する一恵
ひなたの場合は、小学生の頃から夏休みの宿題を手伝ってくれていた一恵(三浦透子)、小夜子(新川優愛)という友人に恵まれていた。ひなたの熱烈なプレゼンに押され、モモケンのサイン会に行くという“推し活”にも付き合う二人。
それでいて、どちらもひなたのイエスマンではない。特にるい&一子に続く2代にわたる“親友”の一恵は、母譲りの率直な物言いで、『妖術七変化!隠れ里の決闘』のリバイバル上映に誘われても、興味がないからと断り、結果的にひなたと五十嵐との“映画デート”のきっかけを作ることになった。
また、ひなたの口の悪さに即座にツッコミを入れたり、注意を促したりすることも多い。小夜子が結婚報告した際には、のけぞって盛大にビックリしたにもかかわらず、「問題は、(相手が)吉之丞やということや」というひなたに、「“問題”はあかん」とピシャリ。言いたいこと、聞きたいことはたくさんあっても、それよりまず「おめでとう」と祝福するところも、母親譲りに見える。
そんな一恵が、自身の恋になると、案外ダメダメで、すみれの失恋で傷ついた榊原に茶を振る舞い、榊原の思いがバレバレだったと笑うと、「みんなアホですよね。人を好きになるなんて、アホやからやと思います。傷ついたり、傷つけたりしながら、それでも人を好きになるんやから」とつぶやく。これは自身への言葉であり、時代劇を深く愛し、他のことは何をやってもダメダメなひなたと懲りず付き合ってきた親友ならではの言葉でもあったろう。
さらに、日頃はひなたのツッコミ役を担いがちだった一恵が、酔ったすみれを背負った榊原に、ひなたの家でプロポーズされるというツッコミどころだらけの展開を迎えるのも、「親友」ならではのアホらしいエピソードで微笑ましい。
3世代をつなぐ小川家、トミー北沢のブロマンスも
ちなみに、「安子編」の小川澄子と、「ひなた編」最終週に登場した、おそらくその孫・小川未来も、3世代をつなぐシスターフッドだ。
小川澄子は、るいを背負い、軒先で「カムカム英語」を聴いていた安子が倒れたとき、介抱し、家の中で一緒にラジオを聴くよう勧めてくれたり、繕い物などの内職を紹介してくれたりした人。そして、未来は、おそらく幼いるいが一緒に「カムカム英語」を聴いていた男の子の娘で、ひなたにラジオ英語番組の講師を依頼する人。
さらに、錠一郎のトランペットの才能を認め、錠一郎を表舞台に誘い出し、錠一郎がトランペットを吹けなくなった後も復帰を信じ続け、鍵盤という別の道で開花するまでも支え続けてきたトミー北沢の、シスターフッドならぬ“ブロマンス”的関係性が最も好きだという視聴者も実は多いだろう。
半年間の物語は終了したが、ぜひとも3世代ヒロインを支えた友人たちのスピンオフを観てみたいものだ。
(田幸和歌子)