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「自分を開放できるようになった」安達祐実の大きな目標は「おばあちゃん役」

田幸和歌子エンタメライター/編集者
画像提供/NHK 土曜ドラマ『3000万』

クライムサスペンスでありながら、クスッと笑えて我がことのように共感できる、今を生きる人達の悩みや空気感を生々しく取り込んだ没入感あるNHK土曜ドラマ『3000万』が放送されている。

同作は、複数脚本家による共同執筆という海外ドラマの手法をもとにNHKが2022年に新たに立ち上げた “脚本開発に特化したチーム”「WDR(Writers’ Development Room)プロジェクト」から生まれた異色のドラマだ。脚本を手掛けるのは、「WDR」への2000人以上の応募者から選出された10名の中で、さらに第一弾のドラマに選ばれた4名(弥重早希子、名嘉友美、山口智之、松井周)。

その中で主人公・佐々木祐子を演じているのは、NHKドラマ初主演という安達祐実だ。初めてづくしの本作の中で安達祐実が初めて経験したこととは? 安達祐実にインタビューした。

【あらすじ】

コールセンターの派遣社員として働く佐々木祐子(安達祐実)は、家のローンや子育ての悩みを抱えつつ、高圧的な上司に耐え、楽観的な夫・義光(青木崇高)に苛立ちを感じつつ、息子・純一(味元耀大)を生きがいとして日々を懸命に生きている。そんな中、佐々木家をある不幸が襲う。このとき、ちょっとした出来心で選択を誤ったことから、祐子たちの生活は一変。目の前に次々に現われるクセ者たちにより、平穏な日常が狂わされていく……。

画像提供/NHK 土曜ドラマ『3000万』
画像提供/NHK 土曜ドラマ『3000万』

「役作りってどうやるんだろうと思っています(笑)」

――『3000万』は初のNHK主演ドラマだそうですが、『家なき子』(1994年・1995年/日本テレビ)放送時から30年で再びお金にまつわる作品がやってきましたね。

安達祐実(以下 安達) そうなんですよ! 言われてみればすごく面白い巡り合わせですよね。でも、取材などでご指摘いただくまで気づいていなかったから、そのことに気づかないぐらいに自分は大人になったんだなと改めて思いました。

――第1話で平凡な主婦・祐子が「3000万」を前に、モラルを踏み外した瞬間からのはじけ具合が最高でした。

安達 やっぱりお金の物語って面白いですよね(笑)。人間性が見えますから。あのはじけ具合はどのくらいが良いものかと思いましたが、(WDR発起人でチーフ演出の)保坂慶太監督が「存分にいってしまって良い」とおっしゃるので、高揚感を加減なしに表現しました(笑)。

――全体のプロットと台本も3話まで進んだ中で、役柄に合わせてオファーされたそうですが、安達さんが普通の主婦を演じるのは珍しいですよね。

安達 そうですね。とがった部分があるような、わかりやすい役のほうが演じやすく、観ている方にとってもキャッチーで入りやすいのに対し、実は普通の人を演じるのが1番難しいのかもしれないなと思っていて。ただ、自分自身が実際に母親でもありますし、役作りなどの必要はありませんでした。そもそも特に役作りというものをしないタイプなので(笑)。

――役作りは普段からされないのですか。

安達 役作りってどうやってやるんだろうと思っています(笑)。今回気をつけるべきことは、そのときどきで祐子が置かれている状況と、祐子の心を何が占めているのか、パーセンテージはどれくらいかといった細かい微調整だったので、それは監督とディスカッションをしながら作っていった感じでした。

――「ライターズルーム」という、複数脚本家による海外ドラマの手法で作られていますが、通常のドラマと違うと感じる点はありましたか。

安達 そうですね。「5分先も読めない」というのを謳い文句にしているように、次の瞬間にどこに向かうかわからないハラハラ感は、複数の脚本家さんが手掛けていることが良い作用になっているのかもしれません。撮影自体の手法が違うわけではありませんが、保坂監督が理論を組み立ててくれる人だから、私が感情で動いている部分について「まだこういう段階だから、焦りのパーセンテージを減らして」「ここは◯◯を増やそう」といった細かいコントロールをやってくださって。そこまで感情の表出を綿密に計算して演じ分けたことはなかったので、新鮮でした。

画像提供/NHK 土曜ドラマ『3000万』
画像提供/NHK 土曜ドラマ『3000万』

技術を取っ払い、気持ちを優先させる楽しさ

――この『3000万』が新しい手法であるように、安達さんご自身も、近年は加藤拓也さんが脚本・演出を務める「劇団た組」への参加が続くなど、新たな挑戦となるお芝居が多い印象です。ご自身の中で新しい挑戦への意欲が高まっていらっしゃるのでしょうか。

安達 そうですね。大きくジャンルで言うと、演劇はこれまであまりやってこなかったのですが、加藤さんと一緒にやらせていただくようになって、“演劇やりたい欲”がすごく強くなっています。

――どんなところに面白さを感じるのでしょう。

安達 自分が知らないことや分からないことを分かっていく感じが、すごく楽しくて。長く続けていると「前もこんなことあった」みたいな経験もどんどん増え、全然わからないということにあまり出会わないんですが、演劇をやっているとそういうことに直面するのがすごく面白くて。そういった新鮮な感覚は、次に映像に戻ったときにも生きてきているなと実感します。どんどん自由度が上がっている気がするんです。

――長いキャリアの中で経験済みのことが多いために、お仕事に対するモチベーションを保ちにくい時期もありましたか。

安達 本当に楽しいと思ってやっているかどうかが分からなくなるみたいな時期はありました。でも、また楽しい時期が来て。見方を変えたり、お芝居の手法を取っ払うみたいなことをしたりすると、また新鮮に感じて。「ああ、技術に頼っている部分があったのかな」と思ったり、「技術って、そんなに人の心を動かさないな」と感じることもあったりして。

――技術や理論を入れていく作業ばかりでなく、取っ払うことが大切なときもあるんですね。

安達 やっぱり長くこの仕事をしていると、このときはこの位置にいた方がいいなとか、撮影の都合や合理性を考え、無意識に計算してしまうところがあるんです。でも、そういうことではなく、いかに気持ちに正直に動くか。気持ちを優先させることへの恐れは、最近になって減ってきたかなと思います。

――そういう心境になれた転機やきっかけはあったんでしょうか。

安達 明確なきっかけがあったわけではないですが。そこは長く続けてきて良かったと思うところで、信頼してお芝居を任せてくれる人も増えましたし、長くやっていることでの説得力みたいなものが持てるようになってきたので、自由にやらせてもらうことが多くなったんですね。私がどういうお芝居をする人かわからないと、もっと説明などもお互い必要になってくると思うんですが、だいたい皆さんがわかってくれている上で、それを取っ払って自由にやっていいよと言ってくれる人が増えてきました。だんだん自分を開放できている感じですね。

――まだ経験していない、チャレンジしてみたいこともありますか。

安達 いろいろありますよ。知らないこともいっぱいあるし、出会ったことのないタイプの人にもまだまだ出会える可能性があって、そこに希望を感じますし、生きる力になります。私の大きな目標は、いかにおばあちゃん役をやれるようになっていくかなんですね。今はその途中。今はおばさんの時期で、そこからおばあちゃんになるまでの間をどう生きるのかが自分の楽しみでもあるし、おばあちゃんになって何を演じていくかもすごく面白そうだなと思っています。

――お芝居で、あるいはプライベートで、どんなおばあちゃんになりたいですか。

安達 プライベートでは、個人的にはめちゃくちゃ派手なおばあちゃんになろうと思っています(笑)。また、お芝居の部分では、良いおばあちゃんもできるし、すごく嫌な性根が腐っているおばあちゃんなんかもできるようになりたいですね。おばあちゃんとひとくくりに言っても、いろいろ幅があると思うので、そこに向けて常にどんな役でもやれる自分でいたいなと思います。

(田幸和歌子)

[放送情報]

土曜ドラマ「3000万」(全8回)

NHK総合 毎週土曜 午後10:00~/BSP4K 毎週土曜 午前9:25~

NHKプラスにて、放送後1週間配信

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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