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ますます権威主義的・不透明な隣国――自由・民主主義の国が結束して中国に思考の転換を促す時

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
習主席のポスター近くで行進する中国の警官隊=今年5月(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大と香港での国家安全維持法(国安法)施行が引き金となって、中国と関係各国の摩擦が過去になく強まっている。中国はますます権威主義的で透明性を欠く傾向を示し、それに対する不信感が各地で「中国離れ」を引き起こしている。米中対立も出口が見通せないなかで、こうした摩擦が国際社会のさらなる不安定化を誘発している。

◇「真相究明」の声に圧力

 新型コロナをめぐり、中国と真っ先に対峙したのがオーストラリアだ。

 4月の段階で豪州は中国に、発生源と事後対応、世界保健機関(WHO)とのやり取りなど、中国にとって敏感な情報の提供を正面から求めた。(参考資料:「新型コロナの真相調査を!」叫ぶオーストラリアに中国がちらつかせる“制裁”)

 予想通り中国は強く反発し、翌月には豪州産牛肉の一部輸入停止や豪州産大麦に対する高率の追加関税適用を発表した。沖縄県・尖閣諸島沖の漁船衝突事件における日本へのレアアース禁輸(2010年)▽地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備に伴う韓国製品の不買運動(2017年)――などと同じ論理の、事実上の経済制裁だ。(参考資料:新型コロナ調査要求の“報復” 中国が取った「オーストラリア大麦制裁」で自国の「青島ビール」は大丈夫か)

 それでも追及の手を緩めない豪州に対し、中国はさらに圧力を加える恐れがある。米国発で「中国在住の豪国民が“中国の国家安全を危険にさらす”などの口実で拘束される可能性」が報じられ、緊張が走っている。

 最近の中国外交には強硬さが目立つ。

「他者をいじめることはない。だが我々には原則と気骨がある。意図的な誹謗中傷があれば必ず反撃し、国の名誉と尊厳を堅持する。根拠のない中傷には真相を示して反論する」

 王毅外相は5月の記者会見でこう主張した。強硬外交を象徴する言葉に「戦狼」が使われるようになり、その概念を王外相も裏付けた。「戦狼外交」の担い手はSNSを駆使して自国への批判に挑発的な表現で反撃する。ツイッターに「米軍が新型コロナを武漢に持ち込んだ」と書き込んだ趙立堅・外務省副報道局長が典型的な例だ。ただこの時、趙氏は「真相を提示」したわけではなく、国際社会の強い批判を受けた。(参考資料:外交官に「戦う精神」/政治広告「爆買い」――新型コロナ対策 恐るべき中国的SNS外交)

◇欧州でも対中路線に変化

 欧州でも中国とのスタンスに変化が生じている。過去10年、欧州は対中関係を適度に制御し、経済発展の糧としてきた。英国やドイツ、フランスにとって中国は魅力ある市場であり、東・中欧諸国にとっても潤沢な「資金源」だった。このため中国が南シナ海などで強圧的な態度に出ても反応は抑制的だった。

 だが、新型コロナと香港は、人権・民主主義・法の支配という基本的価値観にかかわる問題であり、「見て見ぬふり」はできなかった。

 中でも発言が目立つのが英国だ。豪州と同様、新型コロナに関連した検証を中国に求め、対中関係の将来について「危機が去っても、すべてが元に戻るわけではない」(ラーブ外相)という覚悟まで表明していた。

 これに香港問題が拍車をかけた。英国は香港の旧宗主国であり、香港返還に当たり「一国二制度」の50年間の保障で中国と合意していた。だがそれを中国がなし崩しにしたことで亀裂は決定的なものになった。

 中欧チェコでは国内で対中「不協和音」が起きている。ゼマン政権が親中路線を推進するのに対し、国内の有力政治家が反旗を翻し、対抗手段として「台湾への接近」を試みているのだ。(参考資料:「中国は信頼できないパートナー」――大国を敵に回すチェコ議長とプラハ市長の度胸)

 そのひとり、ビストシル上院議長が6月、チェコ企業団の団長として今年8月30日~9月5日に台湾を訪問すると発表した。

 企業団はもともと19年10月の段階で、当時上院議長だったクベラ氏を団長にして今年2月の訪台を発表していた。だが中国側は「一つの中国」(中国大陸と台湾は一つの国に属するとする)原則に反するとして繰り返し中止を迫り、訪台を前にクベラ氏が急死したことでとん挫した。その妻が「夫の死は中国からの度重なる嫌がらせの結果だ」と主張したことで、対中感情が極度に悪化した。後任のビストシル氏がクベラ氏の計画を引き継いで訪台を強行することになった。

 もうひとりは首都プラハのフジプ市長。2018年11月に就任した際、プラハ―北京間に締結されていた姉妹都市協定に「一つの中国」原則順守を記す条項があることに違和感を抱いた。北京側に削除を求めたが聞き入れられず、昨年10月には協定解消に踏み切った。逆に台湾に接近し、3カ月後には台北との間で姉妹都市協定を結んだ。

 フジプ氏は「民主主義と人権を尊重する道に戻る」という公約を掲げている。「それはビロード革命(チェコスロバキア時代の1989年に共産党体制を崩壊させた民主化革命)の価値観であり、今のチェコ政府が無視しているものだ」とゼマン政権を批判している。

 上院議長の一件は現状変更に対する中国の締め付けの一例に過ぎない。プラハ市長はこのあと、いかなる圧力を受けるか不安を抱いているに違いない。中国側には「台湾」という主権にかかわる問題で譲歩するという発想はない。チェコで起きたような現象を皆無にするよう、さらなる対策を講じることだろう。

◇香港の「安全な避難先」

 一方、国安法施行により“漂流”する香港市民に「安全な避難先」を提供しようという動きが各国・地域で活発化している。

 英国は返還以前の香港居住者のうち、希望者に「英国海外市民」という旅券を発行してきた。所持者は約35万人。英本土で労働はできないが、ビザなしで6カ月滞在できる。

 国安法施行前の段階で英政府は、この旅券の保持者の滞在限度を12カ月とする▽労働も認める――などを検討すると表明し、英国での市民権取得に道筋をつけるとした。

 ジョンソン首相は「香港の人々の暮らしが脅かされている。この脅威を中国が正当化しようとするなら英国は放置できない」と強い態度で中国に向き合う決意を表明した。

 また英国は、機密情報を共有するグループ「ファイブアイズ」の構成国(英国のほか米国、豪州、カナダ、ニュージーランド)に香港市民の避難先となるよう求めた。

 これに台湾も同調する動きを見せている。

 蔡英文総統は5月下旬、香港からの移住希望者を支援する考えを表明し、立法院(議会)に「人道的な支援行動計画」の策定を求めた。移住希望者支援の窓口を開設すると、初日だけで180件超の問い合わせがあり、既に台湾移住を完了した人もいる。

 その中には民主化デモに参加した若者がいる。台湾に「避難してきた」という感情が強く、中国に抵抗するための拠点作りを念頭に置いている可能性がある。

 中国が今後、“民主化をめぐる中国との戦いの拠点”が香港から台湾に移ったとみなせば、非難の矛先を台湾に向ける恐れがある。こうした背景から、香港の民主化運動に共感する台湾人とは異なり、当局は慎重に物事を進めているようだ。

◇思考転換を促せ

 中国の対外政策に絡んだ摩擦のうち、最も深刻なものは周知の通り米国との関係である。米中関係は1979年の国交正常化以降で最悪の状態といわれる。

 中国はかつての「低賃金産業の拠点」から、いまや「先端技術の発信地」に脱皮し、国力も増大した。経済や安全保障面における米国中心の秩序に不満・不安を抱き、自らが主導する新たな世界秩序の構築を試みる。そのプロセスが米国との深刻な相互不信を引き起こし、新型コロナや香港という双方が譲れない問題も絡んで対立は決定的となった。

 中国は70年以上も続く共産党独裁に加え、最近は習近平国家主席の一強も顕著になり、対内・対外政策での判断が硬直化している。問題点を浮上させてしまえば、それが党や習主席の失政と捉えられかねない。したがって中国当局は間違いを認めるわけにはいかず、批判も受け入れられなくなった。

 南シナ海・東シナ海での紛争(参考資料:日本もターゲット――中国の「軍事力による海での膨張」に米国がようやく重い腰を上げる)やインド国境での緊張、少数民族ウイグル族に関連した長年の懸案事項に対しても、ひたすら強権的・膨張的であり、中国が主張するところの「平和的台頭」には程遠い。

 中国に関しては、新型コロナ拡大や経済成長の鈍化に伴い、国内が不安定化している――という見方もある。この難局から国内の視線をそらすため対外強硬路線に走り、その結果、諸外国との摩擦が生じる。強硬路線が自らの首を絞めているわけだ。

 中国が自由・民主主義の価値観を受け入れるという状況は現状では考えにくい。一方で中国共産党の弱体化を図り、中国を不安定化させるという方法も国際社会の利益に合致しない。現実的な選択肢として残るのは、自由・民主主義の価値観を共有する国々が結集し、中国に対して「対外強硬姿勢だけでは中国の利益にならない」という事実を悟らせ、思考の転換を促すことではないかと思う。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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