日本もターゲット――中国の「軍事力による海での膨張」に米国がようやく重い腰を上げる
国際社会が新型コロナウイルス対応に追われるタイミングを見計らうように、中国は軍事力を背景に海上での現状変更に乗り出している。危機感を覚えた米国は対中方針の一部を変更し、中国に対する制裁も辞さない姿勢を鮮明にしている。米中対立は海にも広がり、緊張感が高まっている。
◇「中国は南シナ海で完全に違法」
「中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うのを、世界は認めない」
ポンペオ米国務長官は7月13日の声明でこう明言し、南シナ海での中国との対決姿勢を鮮明にした。
オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国が南シナ海で一方的に主張する境界線「九段線」(南シナ海を取り囲むように描き、その内側すべてに中国の領有権が及ぶとするもの)を「無効である」と判断し、中国の言い分を退けた。だが中国側が「判決を認めない」「拘束力はない」と猛反発したこともあり、米国は「判決の順守を求める」にとどめ、紛争に肩入れしない「中立的な立場」を示してきた。
だが、ポンペオ氏は今回、南シナ海で中国と権益を争うフィリピンやベトナムなどの主張を正面から支持し、中国の言い分を全否定する立場を初めて明確にした。
中国側は南シナ海問題を、台湾やチベット、ウイグル問題などと同様、「核心的利益」(絶対に譲歩できないもの)と位置づけ、その権益をかけて関係国との対決も辞さない。実際、関連海域でのフィリピンやベトナムの行動が中国側によって阻止される事態が相次いでいる。
また南シナ海での人工島の建設・軍事拠点化も一方的に進め、実効支配を強化してきた。
12年に「海南省三沙市が西沙諸島、中沙諸島、南沙諸島の島々や岩礁とその海域を管轄する」と主張。今年4月には民政省発表として、三沙市に▽西沙諸島とその海域を管轄する「西沙区」▽南沙諸島には「南沙区」――の二つの行政区の新設を承認した。
加えて、中国は南シナ海ににらみをきかせるため、初の国産空母「山東」(昨年12月17日就役)を海南島三亜の海軍基地に配備。12年に旧ソ連製の船体を改修した初の空母「遼寧」を就役させており、遼寧と山東の2隻体制を取って軍事力を強化している。
いまの中国には、米国主導で築き上げてきた現在の国際秩序を破壊し、自国に有利な形に再構築したいという意図がある。これにトランプ米政権がノーを突きつけた形だ。米国としては、まずは南シナ海での中国の主張を「完全に違法」と否定し、その違法な活動に関わる中国企業などへの制裁の準備を進めたいところだ。
◇尖閣諸島と沖ノ鳥島をめぐる攻勢も
沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域(領海のすぐ外側)で今月15日、中国海警局の船4隻が航行した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは93日連続で、日本政府が尖閣諸島を国有化(2012年)して以降、最長の連続日数を更新した。うち1隻には機関砲のようなものが搭載されているという。
その前日(14日)には4隻が尖閣諸島の魚釣島の沖合で午前10時すぎから相次いで日本の領海に侵入し、2時間にわたって航行した。
尖閣周辺の領海に中国海警局の船が初めて侵入したのは08年12月。10年9月には領海内で漁船衝突事件が発生。尖閣国有化以後、領海侵入を繰り返すようになり、示威行動を常態化させた。
中国は18年7月の機構改革で海警局を、非軍事組織である中国国家海洋局から、中央軍事委員会の指揮を受ける武警の傘下に移したこともあって、19年以降は尖閣周辺での挑発行為がさらに活発化している。
尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土で、そもそも領有権問題は存在しない。だがこれを無視して船を絶えず送り込み、日本の海上保安庁との間で緊張が続いている。中国側は遠くない時期に別の形で攻勢をかけてくる恐れがある。漁船員を装った工作員らが尖閣に上陸する可能性さえも排除できない。
また、東京都小笠原村・沖ノ鳥島(日本最南端)周辺でも中国は不穏な動きを見せる。
中国の海洋調査船「大洋号」が7月9日、沖ノ鳥島の排他的経済水域(EEZ)内で、ワイヤのようなものを海中に投入しているのを海上保安庁が発見した。日本側はこの海域での科学的な調査に同意していないため、直ちに調査を中止するよう外交ルートを通じて要求した。それでも調査船は水域内にとどまり、観測機器のようなものを海中に投入するのが確認されたという。
中国は沖ノ鳥島を「国連海洋法条約上の島」ではなく「岩礁である」と主張している。この理屈から「沖ノ鳥島の存在に基づくEEZは存在しない」と強弁している。