「40歳を前に恐怖感」「考える力の低下がほしかった」常用経験者に聞く、危険ドラッグの闇
中高年層の摘発が相次いでいる「危険ドラッグ」。和歌山県や石川県では国の指定を待たずに規制体制を作り始めました。なぜ中高年が手を出してしまうのか、また常用から抜けられない人と抜けられる人の違いがどこにあるのかを考えてみました。
◆考える力の低下がほしかった
「今の危険ドラッグに対する報道はなんか納得がいかないんですよね」かつて常用経験があるAさんは、首をかしげる。「そもそも最近の危険ドラッグは気持ちよくなんかない。気持ちよさを求めているんだったら、自然にやめるはず」「精神的なものは分からないけれど、常習性は言われているほどないと思う」と言います。では、常用者はなぜ気持ちが良くもならない危険ドラッグに手を出すのでしょうか。
危険ドラッグの取材をしていて感じるのは、若者はそんなに多くはないということです。最も多いのは30代後半の男性。その一人であるBさんは「40歳を前に、持っているものがなくなっていく恐怖感があった。プライドが守れなかったのかもしれない」と回想します。仕事や家族の問題など、うまくいかないことが多かったBさんは、「考える力の低下がほしかった。目の前にガッと来る現実をいなすためには、考える力を押さえないとつらい。そのための道具として(危険ドラッグは)便利だった。ストレスの逃し方が下手だったんだと思う。酒の方が体に来たし」。
◆大麻がダメだから
「大麻が合法なら良かったのに」取材中何度となく聞かれた意見でした。違法である大麻の代用品として使い始めたというんですね。しかし、アルコールは合法だからこそ際限なく飲んでしまうという意見もありました。
やはり30代のCさんは「酒を飲んでいるから許してもらえることがある。だから量が増えるし開き直れる。ハーブだと知られちゃまずいという規制がかかるからまだマシだった」と言います。脱法であっても、世間的には隠しておきたいという感情が、使いすぎにブレーキをかけていたといいます。「でも、ハーブでも逮捕される可能性があるなら、もう大麻でも同じだよね。ていうか、大麻の方が良いし」。厳しい規制が、違法薬物への手を出すきっかけを作ってしまう可能性も危惧されます。
◆家族にだけは知られたくない
以前の危険ドラッグの記事に寄せられた感想で、「家族にだけは知られたくない」というものがありました。守るものがあれば、支えてくれる人がいれば立ち直れるという意見に対する反論でした。それに対してAさんは「本当の意味でやめられない人の気持ちは分からない。自分はやばいと思った瞬間にやめなきゃと思った。自分の中に失いたくないものがあったから。それがないというか、なくしてしまったことにしてしまっている人たちが心配。自暴自棄に入り込んでしまっている。家族に相談できない人って言うのは、そういう人なんだと思う。そういう人のケアをどうすれば良いのか」。ホームレス支援団体職員のDさんは、依存は優先順位の異常や崩壊だと指摘します。家族に支援体制があれば立ち直ることはできるといいますが、一度裏切られたと感じると、薬物やギャンブルなどの依存に走ってしまうと危惧されます。
家族に言えないのは、家族との関係がうまくいっていないから、あるいはうまくいっている関係を壊したくないからだと考えられます。うまくいっていないなら、告白して助けを求めることでまた支え合えるようになる可能性もあります。うまくいっているなら、そのまま危険ドラッグを使い続けることで、決定的に壊れてしまう可能性だってあります。多くの選択肢の中から、果たしてどれが一番救われるのか、冷静に考えることも必要ですし、またそういう考えの手助けをしていくことが、ケアに繋がるのではないかと思います。
逆に危険ドラッグをやっているのではないか? と家族が先に気づいて声をかけて告白しやすくすることでも回避できる事故や事件はあると思います。社会全体でケアというと聞こえは良いですが、なかなか具体的な策は講じにくいと考えられます。どのみち家族にとっては自分事ですから、まずは身内の様子をしっかり見ること、そして国や自治体は取り締まり強化だけではなく、どういう状態の人にケアの必要があるか指針などを出し、積極的に啓蒙する必要があるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)
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