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常用経験者に聞く、なぜ脱法ハーブに頼るのか?

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

脱法ハーブ(脱法ドラッグ)による事故が相次いでいます。これを受けて、今月10日には東京都と厚生労働省などは都内にある脱法ドラッグ販売店に一斉立ち入りを行い、規制の有無にかかわらず販売自粛求める警告をしました。また11日には日本郵便に対し、ゆうパックなどで脱法ドラッグの販売が行われないよう早急な対策を要請する方針を発表しました。なぜ今になって脱法ハーブによる事件が相次いでいるのか、また経験者は脱法ハーブについてどう考えているのかインタビューしました。

◆「脱法ハーブ」というネーミング

「脱法ドラッグ」と呼ぶか「脱法ハーブ」と呼ぶかで印象はだいぶ変わってしまいます。(以下、今回取材に応じてくださった皆さんの表現である「脱法ハーブ」に統一させて戴きます。)「脱法という言葉は危険な感じがカッコイイし、ハーブの印象は身体によさそう、オシャレだし」と話してくれたのは、かつて付き合っていた男性に勧められて脱法ハーブを吸ったことがあるというAさん。しかし、Aさんは二度と吸いたいとは思わないと言います。「吸ってから一分くらいでどんどん目の前が暗くなってきて、気持ち悪くて起き上がっていることができず、床にへばりついていました。心臓の音が体中に反響していて、全身でこれが毒か、と感じました」今回、脱法ハーブ経験者に複数取材させて戴いたのですが、常用していたのは男性ばかりで、女性は経験はあっても常用するケースは少ないようです。

◆新製品がもっとも危険

かつて脱法ハーブを常用していたというBさんは「脱法ハーブは、新製品に飛びつくのが一番危ない」といいます。長く売られているものは、吸った人がそれだけ多くいるわけで、「人体実験が終わっているから安心」だが、出たばかりのものは今までとは少し違う成分に変えて法の網の目をくぐっているわけで、それはどんな危険があるか未知の存在だと言います。しかし、それだけに「スリルがあるし、根性試しにやりたがるヤツもいる」とも。規制がかかっている、つまり違法のものの方が安全性が高い可能性があるという矛盾した状態になってしまっているわけです。

◆なぜ脱法ハーブに頼るのか

かつて脱法ハーブの急性中毒で町中で倒れ警察に保護されたことがあるというCさんは、脱法ハーブの常用者が減らないことについて、警察やマスコミにも問題があったと話します。交番で意識が戻ったCさんは警官に理由を聞かれ脱法ハーブだと伝えると、持ち物を調べもせずに「吸いすぎないようにね」「気をつけて帰ってね」と言われただけだったといいます。「アレじゃあ一度補導されたら安心してしまう。なんだ平気じゃないかって」。また、厚生労働省が脱法ドラッグ使用経験者は約40万人に上るという推計を発表したことに対しても「今まで怖くて手を出してなかったヤツも、そんなにみんなやってるんだったらやってみようという気にさせるのではないか」と危惧します。

Cさんは、精神的に不安定な人が脱法ハーブに逃げるのは仕方がない部分もあるといいます。「自分は精神的な不安定を薬と酒で上げたり下げたりを調整していたけれど、仕事中などは酒だと匂いでばれてしまう。病院で薬を出してもらえないときや足りないときなど、一度脱法ハーブでコントロールできた感覚を知ってしまうと、またやってしまう」。また病院での対応にも問題が多いと指摘します。「吸わないことが出来るか、と聞かれ“分からない”と言うと看てもらえないことが多い。分からないから、助けて欲しいから病院に行き、覚悟を決めて正直に話しているのに突き放されるのは相当辛い」また、「大麻とコカインはアメリカで治療例があるが、脱法ハーブは分からないと言われた。そんなことを言われたら余計不安でハーブを吸ってしまう。常用者を追い込むだけだ」。

◆常用しているなら、身内には知らせた方が良い

「躁鬱が激しい人が使ったときに危険だなと思うのは、吸った状態で起こした行動に対して、原因を言えないまま自己嫌悪に陥るしかできず孤独になってしまうこと。上がるためとか逃げるために更に吸ってしまう。知っててくれるとストッパーになるから、身内には知らせた方が良い」とCさんは訴えます。

脱法ハーブ問題の原因を、本人の問題だけでなく、社会全体の責任として捉える必要があるのはもちろんですが、誰かの、何かのせいにするのではなく、当事者や関係者が個々に前向きに関わっていけるような雰囲気作りとそのための理解の機会が必要なのではないかと感じます。そのためには、どうしたら苦しみ孤独に陥る人たちを少しでも減らせる可能性があるのか、という具体的な視点と実践を、警察や病院での対応方針の精査改善や、官民それぞれの居場所作り、教育現場での授業に食い込んだ知識の共有や話し合いの場作りなど、もっと切実に政治が主導する必要があるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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