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NYハロウィンパレードが渋谷の「仮装どんちゃん騒ぎ」とは根本的に違うと思うこれだけの理由

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
不動の人気「スリラー」のパフォーマンスは子どもにも人気。ハロウィンパレードにて。(写真:ロイター/アフロ)

さまざまな年齢、人種、性別が入り混じるニューヨークのハロウィンイベントとパレードは、歴としたこの街の文化である。

近年、渋谷の若者がコスプレ姿で、表面だけを真似たドンチャン騒ぎをして物議を醸しているが、それとは似て非なるもの ── 久しぶりに本場のパレードを取材して、そう思った。

ハロウィンパレードと言えば、ニューヨークの10月の風物詩である。31日、世界最大規模のパレード、New York City’s 49th Annual Village Halloween Paradeが、今年も開催された。

ただの仮装パレードと侮ることなかれ。

1974年以降、新型コロナの感染拡大でパレードを行うことができなかった年を除き、半世紀の長い歴史と伝統を誇る大イベントだ。

文化や経済面でも、市に大きな功績を残している。

公式サイトによれば、都市生活を豊かにし街や文化を保存するための非営利団体、ニューヨーク芸術協会(Municipal Arts Society of New York)より、人々の文化的な生活に大きな貢献をしたとして賞を贈られている。

また国立芸術基金(National Endowment for the Arts)、市長観光助成金(Mayor’s Tourism Grant)、マンハッタン区長観光イニシアティブ(Manhattan Borough President’s Tourism Initiative)から、多額の助成金が出ている。これはひとえに、長年にわたる芸術的功績や経済にもたらす貢献が認められたからだ。

当地は観光都市であるから、観光客誘致のためにパレードが利用されているのも事実だ。このパレードは「何十万人もの観光客、および推定9000万ドル(約133億円)の観光収入をもたらす」と公式サイトで発表されている。よってこの規模のパレードは、市が一丸となって実施する意味合いが強い。

仮装姿でキャンディをもらう子どもたち。
仮装姿でキャンディをもらう子どもたち。写真:ロイター/アフロ

そもそも収穫祭や悪霊払いに由来しているハロウィンは、アイルランド系移民がアメリカに風習をもたらしてからは、子どもが楽しめるイベントへと変化していった。よってアメリカでは、毎年ハロウィンが近くなると、街中で子どもが「トリック・オア・トリート」(菓子をもらえないとイタズラするぞ)と言いながら、菓子をもらうために練り歩く微笑ましい光景を目にする。

よって当地で半世紀にわたって開催されているパレードも、家族向けを意識して構成される。仮装、出し物、山車も子どもが喜びそうな仕掛けのものが多い。

子どもが大喜びしそうな出し物がいっぱい。
子どもが大喜びしそうな出し物がいっぱい。写真:ロイター/アフロ

(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe

(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe

今年のテーマは「フリーダム」

パレードには毎年テーマが設けられており、今年のテーマは「フリーダム」だった。

パレード参加者はただ行進しているだけではなく、見に来た人々にそれぞれの主張をする。

今年はフリーダムというテーマに沿い、以下のようなメッセージを掲げている参加者を目にした。

  • 戦争反対を唱える人
  • ウクライナの国旗を身につけている人
  • ヨーコ&ジョンの格好で愛と平和を唱えるカップル
  • 女性の権利を訴える団体
  • 自治領プエルトリコの地位向上とフリーダムを訴える団体
  • 迫る中間選挙に向け、人々に投票を促す団体
  • インフレーションに異議を唱える人
  • 家賃高騰に異議を唱える人
  • 最高裁へ意見したい人

etc...

(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe

インフレに物申すカップル。(c)Kasumi Abe
インフレに物申すカップル。(c)Kasumi Abe

中間選挙を目前に、人々に投票を促す団体。(c)Kasumi Abe
中間選挙を目前に、人々に投票を促す団体。(c)Kasumi Abe

自治領プエルトリコのフリーダムを訴える団体。(c)Kasumi Abe
自治領プエルトリコのフリーダムを訴える団体。(c)Kasumi Abe

家賃が高すぎると主張をする人。
家賃が高すぎると主張をする人。写真:REX/アフロ

仮装以上にそれぞれの主張は興味深く、パレードを見ていて飽きることはない。

このように社会問題への関心が高いことも、ハロウィンパレードの参加者の特徴の1つだが、日本のハロウィンパレードに参加した人から何か主張のようなものはあっただろうか。コスプレ姿で酒を煽って馬鹿騒ぎをしている人は、一体どのようなメッセージを社会に伝えているだろうか。

ソウルの事故を踏まえ警戒が高まった今年のパレード

パレードでは、グランドマーシャル(先頭に立つ人)の1人として、NYPD警察本部長のキーチャント・スウェル氏が参加し、行進しながら市民と触れ合う場面も見られた。

今年は直前に、韓国ソウル市の梨泰院で起きた雑踏事故により、当地でのパレードには警戒感が一層強まっていた。当然このような大規模イベントには、NYPD(ニューヨーク市警察)がその威信をかけて、全力で警備にあたる。この日も多くの観客がパレードを見に集まったが、不測の事態に備え多くの警官が配備され警備にあたっていた。おかげで今年のパレードも大きな事件や事故はなく、成功裏に終わった。

市民と会話をするNYPDのスウェル警察本部長(Police Commissioner, Keechant L. Sewell)。 (c)Kasumi Abe
市民と会話をするNYPDのスウェル警察本部長(Police Commissioner, Keechant L. Sewell)。 (c)Kasumi Abe

群衆を前に、通行人の警備にあたるNYPD。(c)Kasumi Abe
群衆を前に、通行人の警備にあたるNYPD。(c)Kasumi Abe

もちろん多種多様な人がいるから、参加者の中には仮装して酒やドラッグを楽しんでいるだけの人も存在するのは事実だ。文化的背景がわからず参加している人がいるのも否定しない。

また都市の汚点としては、残念なことに治安悪化の一途を辿るこの街ではこの日もパレード終了後の深夜、同じ地域で21歳の男性が何者かに複数回銃で撃たれるという凶悪事件も発生した。(注:当地はコロナ禍以降治安が悪化している

しかし、この歴史あるハロウィンパレードに限って言えば、主催者側にイベント開催の意図や思いがあり、渋谷で近年模倣されているコスプレパーティーやお祭り騒ぎとは、本質的に異なる。

筆者が本場ニューヨークのハロウィンパレードを見て「いい大人が仮装して恥ずかしい」と思うことがないのは、そういうわけである。

(Text and some photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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