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暴徒化するハロウィン。アメリカでは伝統と収穫を祝う(経済効果もある)素朴で楽しい祭りなのですが・・・

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
仮装した子どもが菓子をもらいに近所をまわるかわいらしい光景。(写真:アフロ)

東京・渋谷を中心に、年々ハロウィンのイベントが暴徒化している。

今年は10月27日、28日の週末にかけて仮装した人々が中心街に大挙して押し寄せ、盗撮や痴漢、窃盗などに加え、「軽トラを横転させた」「ラーメン屋の券売機を壊した」など、思わず肩をすくめるようなニュースが報じられた。

抑圧された社会の鬱憤晴らしなのか?

精神的に未熟で大人になりきれていない人が、仮装で(もしくは仮装せずともこの日を利用し)別の人格を手に入れ気持ちが大きくなり、アルコールの力も借りて「バカ騒ぎをする日」ではない。

そもそもハロウィンとは何か、背景や目的を知らないから、異様な騒ぎになっているのではないだろうか。

騒動は一部の心ない人によるものだと信じたい。日本のほかの地区では、商店街などが地域活性化の一環として、子ども向けにハロウィンパレードや菓子の配布などをしていると聞けば、ほっと安心する。

ハロウィンの起源

収穫の祝いと悪霊払い

ハロウィンの起源は、現在のグレートブリテン王国や北フランスあたりにケルト人が住んでいた時代に遡る。

毎年11月1日はケルト人の新年にあたり、その日を境に長く暗い冬が始まる。

10月31日の大晦日(Eve)は、夏の収穫を祝って食料を蓄え、厳しい冬季に備える日だった。また、死者の魂が現世に蘇る日として、かがり火の周りを踊るなど、新年の3日間は祭司のドルイド僧らによるケルトの祭礼「サウィン祭」も行われていた。人々は動物の皮や頭をコスチュームとして身に付けパレード。これが最初のハロウィン・パレードと言われている。

また現代ハロウィンにはほかの起源もある。グレートブリテンを含むヨーロッパ各地に新キリスト教が広がった835年ごろ、ローマカトリック教会は聖人と殉教者のために、11月1日を諸聖人の日(All Saint’s Day, Hallowman, All Hallows' Dayとも呼ばれる)として祝った。古くからの風習「サウィン祭」、そして古代ローマ人がグレートブリテンへの侵入時に祭礼や風習も持ち込んだ「ポモノの日」(Pomono Day)も風習として引き継いでいこうと、前夜(10月31日、ハロウ・イブ=Hallow’s Eve)に死者を弔い精霊を祭った。

Hallow’s Eveは後にHallowe’en、そしてHalloweenと呼ばれるように。

アメリカでは、ヨーロッパからの移民が18世紀後半以降にこれらの風習を持ち込んだのが「現代ハロウィン」のはじまりだ。今も親から子に大切に受け継がれている。

古代ケルトの収穫祭や悪霊払いに由来し、10月に入るとカボチャの中身をくり抜いたジャク・オー・ランタン(照明)を鬼火に見立てて玄関に飾ったり、家の外装を大仕掛けなお化け屋敷のようにデコレーションしたりと、街はハロウィン一色になる。

お化けのデコレーションを施した家は、大人にも子どもにも大人気(文末に映像あり)。(c)Kasumi Abe
お化けのデコレーションを施した家は、大人にも子どもにも大人気(文末に映像あり)。(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe
(c)Kasumi Abe

お化けや魔女に仮装した子どもたちは「トリック・オア・トリート」(菓子をもらえないとイタズラするよ)と言いながら近所を練り歩き、菓子を集める。その姿はとても愛らしい(1番上の写真)。

アパートが多いニューヨークでは、同じビル内で菓子を用意している家がどこかわかるように情報が事前に共有されていたり、地区ごとに決められた場所に菓子をもらいに行ったりする。

学校や警察署でも、近所の子ども向けにハロウィン関連の地域イベントが行われる。教師や警察官がこの日ばかりはお化けに変装し菓子を配る姿は、なんとも微笑ましいものだ。

世界最大規模。200万人が集まるNYのパレード

ニューヨークでは1974年以降、大規模なハロウィンパレードが行われていて、毎年恒例のイベントになっている。約6万人が仮装してパレードに参加し、200万人の人混みであふれる。

なかなか希望通りの仮装の衣装や小道具が見つからないという理由などで衣装を手作りしている人も多い。

凝ったデザインアイデアを見ると、この人はこの日のために1年費やしてきたのでは?と思うほどで、アメリカ人の仮装にかける気合いとパレードへの情熱に毎年感心することしきり。

おんぶされた赤ちゃんの仮装。(c)Kasumi Abe
おんぶされた赤ちゃんの仮装。(c)Kasumi Abe

まるで春節の龍舞のように、大掛かりな仕掛けをして団体芸を披露し人々の目を楽しませるグループもいたりして、ここまでくると「エンターテインメントショー」の範疇である。

手などがきちんと動く凝った仕掛けの巨大人形。(c)Kasumi Abe
手などがきちんと動く凝った仕掛けの巨大人形。(c)Kasumi Abe

ハロウィン前後は人々が仮装し、パーティーをしたりバーに飲みに行ったりする。このような日は酔っ払いはどこでもいる。またティーンがセクシー過ぎる仮装で羽目を外し、頭を抱える親も実際はいる。しかし暴徒化している人、泥酔し悪事を働いている人は見たことがない(そもそもアメリカでは、よい大人が泥酔=恥ずかしいことと捉えられている)。

なぜ渋谷がカオス化? なぜ異常な酔っ払いが多いのか?

渋谷のハロウィン騒動の映像を見て、3点気づいたことがある。

(1)

当地でも大型イベント時、警官の動員数は渋谷と同様に多いが、日本の警官のように笛やメガホンを使わなくとも秩序が守られている(そしてここがポイントなのだが、NYの警官1人ひとりはそんなにピリピリしたムードではなく、どちらかというとパレードを一緒に楽しむぐらいリラックスしている)。

一つは、スクランブル交差点がよくないのではないだろうか。

ニューヨークの車道は一方通行が多いのだが、これは車を流すため。このアイデアと同じように、イベント日はスクランブル交差点も含む歩道にゲートを並べて、一定の流れを作ると、混雑が少しは緩和されるはず。

(2)

アメリカの警察の圧倒的な効力が関係している。警察の命令は絶対と捉えられている。

警察がホールドアップを要求したらそれに従わないと、下手したら撃たれかねない。日本でたまに見かける、警察に歯向かうようななめた態度は命にも関わる。(警視庁の『見せる警備』なんて甘い戦略のようにしか聞こえません)

(3)

渋谷の歩道に無数に置かれたアルコール缶や瓶を見て思った。

ニューヨークでは屋外飲酒が禁止されているので、お酒を飲もうと思ったら店に入る必要がある。

その辺の店で買った安い酒を道端で煽って騒ぐ、なんてことはできない。

(Update Oct 31 2018, 12:29am)

ハロウィンが暴徒化している理由として、以上のことも関連するのではないかと思った。

一方ニューヨークのハロウィン。「United(皆が一緒になる)ために仮装して参加した」という参加者もいるほど。

何はともあれ百聞は一見に如かず。機会があればニューヨークのパレードを一度は見てほしい。

45回目となる今年のパレードは10月31日(水)午後7時から、マンハッタンのグリニッチビレッジ地区でスタートする。(今年のパレード詳細

ハロウィンパレードで見かけた流血の人々。(c)Kasumi Abe
ハロウィンパレードで見かけた流血の人々。(c)Kasumi Abe

転載元:公式ウェブサイト

ハロウィンの経済効果は?

ペットも仮装する時代

ハロウィンの歴史が浅い日本と比べて、本場アメリカではハロウィンは大切な国民的イベントである。消費活動にも少なからず影響を与えている。いくつか経済効果を紹介しよう。

全米小売業協会(National Retail Federation)が今年の9月に6,961人を対象に行なった年次調査によると、アメリカでは今年のハロウィンシーズンに90億ドル(1兆112億4000万円相当)の経済効果が見込まれている。

全米小売業協会のCEO、マシュー・シェイ氏は、「経済は良好で消費者信頼感指数も高い。今年は皆がハロウィンにお金を使う準備ができているようだ」と語った。

消費額は2005年以降伸び続けており、昨年の91億ドルから減少したものの、同協会が調査を開始した14年間で昨年に次ぐ2番目に高い数値だった。また1人がハロウィンのために使う平均価格は86.79ドル(9,750円相当)と、過去最高額を記録(購入するものは、多い順に菓子、デコレーション、仮装コスチューム、グリーティングカード)。

仮装コスチュームは、近年ペット商品が人気のようだ(カボチャ、ホットドッグ、ミツバチの衣装など)。昨年は調査参加者の16%がペットにも仮装をさせたいと答え、今年は20%に増えた。

消費者動向のデータ会社プロスパー・インサイツ社のエグゼクティブ・バイスプレジデント、フィル・リスト氏も「今年のもっとも大きなトレンドの一つは、ペットコスチューム」とコメントしている。

「今年は3,130万人の人々がペットも仮装し、その多くは25-34歳のミレニアル世代だ」

衣装のアイデアをどこから?の問いに対して、35%の人々がオンライン検索、29%が実店舗、19%が友人や家族に相談、19%がPinterest、16%がFacebook、16%がポップカルチャー、15%が YouTubeを参考にするだろうと回答した。

小売業はアメリカの国内総生産(GDP)の5.9%を占め、卸売や製造業とも関わってくる。ハロウィンシーズンの消費が昨年に続き今年も最高水準レベルに達しているという調査結果は、これからさらに本格化する年末商戦(感謝祭、ブラックフライデー、クリスマス)の消費動向を掴む、一つの大きな指標と考えてよいだろう。

(おまけ:ブルックリンの一般住宅のデコレーションと道ゆく人々の反応。素朴なこちらのハロウィンの雰囲気が伝わるでしょうか)

(Text, photos, and video by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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