ウクライナの原子力発電所で戦闘 チェルノブイリ事故ではスカンジナビア半島まで放射性物質飛散
チェルノブイリ原子力発電所事故
ロシア軍のウクライナ軍事侵攻で、ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大級の原子力発電所であるザポリージャ発電所で戦闘がおきました。
原子力発電所で事故がおきると、36年前のウクライナ(当時ソビエト連邦)のチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故のように、放射性物質が上空の風に運ばれ、世界をかけめぐり、地上に降下するおそれがあります。
昭和61年(1986年)4月28日にチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故では、放射性物質は、上空の強い南風にのってスカンジナビア半島まで達しています(図1)。
もし、上空の風が変わっていたら、放射性物質による被害の状況は、全く違ったものになっていました。
場合によっては、モスクワに落下していたかもしれません。
SPEEDI(スピーデイ)
原子力発電所で放射性物質の漏れが発生したときには、気象状態をもとに、いつ、どこに、どれくらいの放射性物質が到達するのかということを予測し、防災対策をとって被害を最小限にすることが試みられます。
これが「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」、通称「SPEEDI(スピーデイ)」です。
昭和55年度(1980年度)に日本原子力研究所で開発が始められ、実用化事業は昭和60年度(1985年度)と、チェルノブイリ原子力発電所事故の1年前のことです。
SPEEDIは、色々なところでPRが行われましたが、筆者も一般向けの本で、「万一のための備えであり、使わないですめば、それにこしたことはない技術です」として紹介しました(図2)。
東日本大震災と福島原子力発電所事故
「使わないですめば、それにこしたことはない」と思っていたSPEEDIでしたが、平成23年(2011年)の東日本大震災では、福島第一原子力発電所で大事故が発生し、出番がやってきました。
しかし、活用されませんでした。
外部電源の喪失などで、発電所からどのくらいの放射性物質が放出されたのかわからず、仮定した値をもとに予測するしかありませんでした。
しかも、「試算なので国民に無用な混乱を招くだけ」と判断され公開されませんでした。
このため、放射性物質の拡散方向に避難した住民が多く発生しました。
これらの反省を踏まえ、平成24年(2012年)9月6日の中央防災会議では、SPEEDIの活用を含め、防災基本計画を修正しています。
そして、SPEEDIもレベルアップしています。
原子力発電所で事故が発生しないためにも、戦闘の早期終了を切望します。
図1、図2の出典:饒村曜(平成12年(2000年))、気象のしくみ、日本実業出版社。