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ウクライナの原子力発電所で戦闘 チェルノブイリ事故ではスカンジナビア半島まで放射性物質飛散

饒村曜気象予報士
露がウクライナ侵攻 原発を占拠(2021年4月資料写真)(写真:ロイター/アフロ)

チェルノブイリ原子力発電所事故

 ロシア軍のウクライナ軍事侵攻で、ウクライナ南東部にあるヨーロッパ最大級の原子力発電所であるザポリージャ発電所で戦闘がおきました。

 原子力発電所で事故がおきると、36年前のウクライナ(当時ソビエト連邦)のチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故のように、放射性物質が上空の風に運ばれ、世界をかけめぐり、地上に降下するおそれがあります。

 昭和61年(1986年)4月28日にチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故では、放射性物質は、上空の強い南風にのってスカンジナビア半島まで達しています(図1)。

図1 チェルノブイリ事故による放射性物質の拡散の様子
図1 チェルノブイリ事故による放射性物質の拡散の様子

 もし、上空の風が変わっていたら、放射性物質による被害の状況は、全く違ったものになっていました。

 場合によっては、モスクワに落下していたかもしれません。

SPEEDI(スピーデイ)

 原子力発電所で放射性物質の漏れが発生したときには、気象状態をもとに、いつ、どこに、どれくらいの放射性物質が到達するのかということを予測し、防災対策をとって被害を最小限にすることが試みられます。

 これが「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」、通称「SPEEDI(スピーデイ)」です。

 昭和55年度(1980年度)に日本原子力研究所で開発が始められ、実用化事業は昭和60年度(1985年度)と、チェルノブイリ原子力発電所事故の1年前のことです。

 SPEEDIは、色々なところでPRが行われましたが、筆者も一般向けの本で、「万一のための備えであり、使わないですめば、それにこしたことはない技術です」として紹介しました(図2)。

図2 SPEEDIシステムによる情報の流れ(平成12年(2000年)当時の流れ)
図2 SPEEDIシステムによる情報の流れ(平成12年(2000年)当時の流れ)

東日本大震災と福島原子力発電所事故

 「使わないですめば、それにこしたことはない」と思っていたSPEEDIでしたが、平成23年(2011年)の東日本大震災では、福島第一原子力発電所で大事故が発生し、出番がやってきました。

 しかし、活用されませんでした

 外部電源の喪失などで、発電所からどのくらいの放射性物質が放出されたのかわからず、仮定した値をもとに予測するしかありませんでした。

 しかも、「試算なので国民に無用な混乱を招くだけ」と判断され公開されませんでした。

 このため、放射性物質の拡散方向に避難した住民が多く発生しました。

 これらの反省を踏まえ、平成24年(2012年)9月6日の中央防災会議では、SPEEDIの活用を含め、防災基本計画を修正しています。

 そして、SPEEDIもレベルアップしています。

 原子力発電所で事故が発生しないためにも、戦闘の早期終了を切望します。

図1、図2の出典:饒村曜(平成12年(2000年))、気象のしくみ、日本実業出版社。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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