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今年の台風の発生海域は昨年・一昨年と大きく違う 難しかった鹿児島県に上陸した台風10号の解析と予報

饒村曜気象予報士
鹿児島県に上陸寸前の台風10号の衛星画像(8月28日15時)

令和6年(2024)の台風発生数

 令和6年は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります。

 7月までは、春まで続いたエルニーニョ現象の影響で、北西太平洋の熱帯域で積乱雲が発生しにくくなり、7月までの台風発生数は平年より少ない4個(平年値7.8個)でした。

 8月以降はエルニーニョ現象の影響が小さくなるとともに、積乱雲が発生しやすい状況に変わり、台風の発生数が多くなりました。

 そして、令和6年(2024年)は12月23日15時に南シナ海で台風26号が発生し、平年の25.1個を超えました。

 台風の年間発生数はランクでは、平年並みということになります(表1)。

表1 台風の月別発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)と平年)(接近数は月がまたがる場合があり、また、上陸数は小数第2位の四捨五入の関係で月ごとの値の合計と年間は一致しない)
表1 台風の月別発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)と平年)(接近数は月がまたがる場合があり、また、上陸数は小数第2位の四捨五入の関係で月ごとの値の合計と年間は一致しない)

 また、日本への接近数は平年並の11個(平年値11.7個)でした。

 さらに、台風上陸は5号と10号の2個でした。

 ただ、台風5号は、関東の東海上から三陸沖を北上し、強まってきた太平洋高気圧によって向きを西に変えて8月12日8時30分ころに岩手県南部の大船渡市付近に上陸し、岩手県で記録的な大雨を降らせました。

 また、台風第10号は、非常に強い勢力で奄美地方、九州南部に接近し、強い勢力で8月29日8時頃、鹿児島県薩摩川内市付近に上陸しました。鹿児島県では暴風、波浪、高潮の特別警報が発表となり、西日本から東日本の太平洋側を中心に記録的な大雨となりました。

 台風の上陸数は、平年の3.0個より少なかったものの、大きな影響を与えた台風上陸数2個でした。

エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と台風

 エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域東部の海面水温が平年より0.5度以上高くなり、その状態が1年程度続く現象です。

 逆に、同じ海域で海面水温が平年より0.5度以上低い状態が続く現象はラニーニャ現象と呼ばれ、それぞれ数年おきに発生し、ともに、日本を含め世界中の異常な天候の要因となり得ると考えられています。

 昨年、令和5年(2023年)は、春まで2年半も続いていたラニーニャ現象が終わり、エルニーニョ現象となっていますが、今年、令和6年(2024年)は、そのエルニーニョ現象も終わって、どちらでもない状態となっています(図1)。

図1 太平洋赤道域東部の海面水温の平年偏差の推移(令和6年(2024年)の実況と予想)
図1 太平洋赤道域東部の海面水温の平年偏差の推移(令和6年(2024年)の実況と予想)

 エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、世界中の異常な天候の要因となるだけでなく、台風の発生数や発生海域が変わるとされています。

 気象庁ホームページでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象と台風との関係は表のようにまとめています(表2)。

表2 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)
表2 エルニーニョ現象・ラニーニャ現象発生時の台風の特徴(気象庁ホームページより)

 一昨年、令和4年(2022年)はラニーニャ現象の最中でしたが、台風の発生数はほぼ平年並みの25個で、発生位置は北東にずれて発生していました(図2)。

図2 ラニーニャ現象が発生していた令和4年(2022年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)
図2 ラニーニャ現象が発生していた令和4年(2022年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)

 このため、日本近海で発生する台風が多くなり、台風が発生するとすぐに日本に影響したということが多々ありました。

 一方、エルニーニョ現象が発生していた昨年、令和5年(2023年)は、台風発生数は17個と平年より少なく、発生位置は平年より南東にずれていました(図3)。

図3 エルニーニョ現象が発生した令和5年(2023)の台風発生海域(丸数字は台風番号、台風8号は日付変更線を越えてた北太平洋西部に入ったことによる発生)
図3 エルニーニョ現象が発生した令和5年(2023)の台風発生海域(丸数字は台風番号、台風8号は日付変更線を越えてた北太平洋西部に入ったことによる発生)

 このように、エルニーニョ現象が発生している年と、ラニーニャ現象が発生している年では、発生海域が大きく違います。

令和6年(2024年)の台風発生海域

 令和6年(2024年)の台風発生海域は、7月まではフイリピンのルソン島の東から南シナ海北部で発生し、8月と9月は日本の南海上で発生する台風が多くなっています(図4)。

図4 令和6年(2024年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)
図4 令和6年(2024年)の台風発生海域(丸数字は台風番号)

 10月以降の台風は、日本から離れた低緯度で発生していますが、もともと、晩秋から初冬の台風は、低緯度で発生します。

 今年の、晩秋から初冬の台風発生数が多いとはいえ、昨年、一昨年のような台風発生海域の偏りはなさそうです。

台風の進路予報の精度

 気象庁は、令和6年(2024)12月25日に今年の台風進路予報の精度(速報)を発表しました。

 台風進路予報の年平均誤差(平均誤差)は、1日先で72キロ、2日先で104キロ、3日先で150キロと、2日先・3日先では、発表開始以降で最も良い結果となりました(図5)。

図5 台風進路予報誤差の経年変化(令和6年(2024年)は台風25号までで、14号から25号は速報値)
図5 台風進路予報誤差の経年変化(令和6年(2024年)は台風25号までで、14号から25号は速報値)

 台風進路予報の精度はその年の台風の特徴に起因する年々の変動があるものの、長期的にみれば向上しています。

 しかし、5日先の予報精度は420キロと、10年くらい前の精度に逆戻りしています。

 これは、令和6年(2024年)は、台風第10号など予報が難しかった台風が多かったことが影響して精度が悪くなたためと考えられます。

 特に、台風10号が問題です。

令和6年(2024年)の台風10号に関する情報

 台風10号は、8月22日(木)午前3時にマリアナ諸島で発生し、日本の南を北上しました。

 8月29日(木)午前8時頃に鹿児島県薩摩川内市付近に上陸しました。

 当初、気象庁は「非常に強い勢力で上陸した(速報値)」と発表し、九州・四国を横断し、近畿から東北南部へ進むという予報でした(図6)。

図6 令和6年の台風10号の進路予報(8月29日6時の台風解析と進路予報)
図6 令和6年の台風10号の進路予報(8月29日6時の台風解析と進路予報)

 そして、9月1日正午に東海沖で熱帯低気圧に変わったと発表されました。

 しかし、後日入手したいデータ等を加え、再解析した結果、台風は「強い勢力で上陸した(確定値)」に修正され、熱帯低気圧に変わった時刻も、8月30日21時(香川県)と早められています(図7)。

図7 令和6年(2024年)の台風10号の経路図(確定値、白丸は9時の位置で黒丸は21時の位置)
図7 令和6年(2024年)の台風10号の経路図(確定値、白丸は9時の位置で黒丸は21時の位置)

 台風10号の中心気圧について、速報値と確定値の差が大きかったのは、8月29日0時から6時です(図8)。

図8 令和6年の台風10号の中心気圧の速報値と確定値
図8 令和6年の台風10号の中心気圧の速報値と確定値

 台風10号が、鹿児島県・奄美大島の東北東約80キロから、薩摩川内市付近に北上していた時です。

 台風に関する暴風・波浪・高潮の特別警報は、沖縄・奄美地方と小笠原地方では、台風の中心気圧が910ヘクトパスカル以下か最大風速が60メートル以上のときに、それ以外の地方では、930ヘクトパスカル以下、50メートル以上の時に発表されます。

 台風10号は、速報値・解析値とも、中心気圧935ヘクトパスカルが一番低い値ですので、特別警報が発表となるかどうかは、最大風速で決まります。

 解析値では、薩摩川内市付近まで最大風速を50メートルとしていましたので、鹿児島県(奄美地方を除く)で暴風・波浪・高潮の特別警報が発表となりました。

 一方、確定値では、台風10号の最大風速が28日21時から45メートルと、少し弱まっていますが、それでも、屋久島の南西約50キロに達した8月28日15時に、最大風速が50メートルですのて、台風に関する特別警報の基準に達しています。

 つまり、台風10号は上陸寸前に少し弱まりまったといっても、特別警報を発表する台風であったことには変わりがありません。

 そして、台風10号のような予報の難しい台風をどう精度良く予報するか、課題が多く残った令和6年(2024年)でした。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図2、図3、図4、表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図6、図7の出典:気象庁ホームページ。

図8の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

表1の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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