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鳥が鳴くと人が死ぬ『鎌倉殿の13人』 実朝襲撃を見守るのは誰になるのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

ドラマ冒頭でよく鳥が鳴く『鎌倉殿の13人』

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』ではよく鳥が鳴いている。

昔の鎌倉が現前しているかのようだ。

鎌倉の御所だけではなく、京都御所でも鳥が啼いていた。

このあたりの細かい再現が、ドラマの心地よさのもとにあるのだろう。

時政は最後に息子にウグイスの鳴き声を教えた

鳥の鳴き声に関して、もっとも印象的なシーンは、38話「時を継ぐ者」の北条時政(坂東彌十郎)・義時(小栗旬)父子の会話だろう。

義時は鎌倉殿への謀反を企んだ父時政を鎌倉から追放する。

最後に二人は対面する。

これが父と子として、生涯最後の会話になるだろうと義時がいったあと、時政はとつぜん、外から聞こえるチャッチャッチャという鳥の声に触れる。

「あの声、何の鳥かわかるか…………」

戸惑う義時。

構わず時政は続ける。

「ウグイスだよ……」

「ウグイス?」

「ホーホケキョだとおもってんだな、ちがうんだよ(……)ありゃウグイスなんだよ、間違いない………(ウグイスの鳴き声が聞こえる)……なあ」

これがこのドラマでの時政と義時、最後の会話である。

印象深い。

今生の別れのおり、ウグイスの普段の鳴き声について父は教える。

息子は黙って聞いている。

いろんなことを象徴しているシーンであった。

『鎌倉殿の13人』はセリフから始まらない

『鎌倉殿の13人』では、いろんな自然な音が流れている。じつによく流れている。

鳥の鳴き声はもちろん、虫の声、風の音、雷鳴、鐘の音、馬のいななき。

いろんな音が、セリフのあいまあいまにさりげなく入っている。

あまり目立っていない。いつも自然に流れている。

印象深いのは、ドラマの冒頭の音だ。

このドラマは一度たりともセリフから始まったことがない。

(読経から始まったことが2回あるが、読経はセリフではない。ほぼ音楽である)

何かの音から入る。

ときに何かを切り裂くような音であり、不気味な効果音であり、静かな音楽から入ることもある。

鳥の声から始まるとよくないことが起こる

なかで印象に残るのは、鳥の声である。

鳥が一声鳴いて、ドラマが始まる。

ざっくりした印象でいえば、冒頭、鳥の鳴く声から始まると、あまりよくないことが起こる、とおもってしまう。

先週11月20日、「審判の日」とタイトルされた44話では、冒頭、何も鳴かなかった。

一瞬、無音だった。

ちょっと珍しい。

一拍あけて、鈴の音が聞こえた。

無音で始まったのはかなり特異なことである。

ドラマも終盤にさしかかったことが実感された。

実朝はまだ殺されないと悟った瞬間

無音で始まったその瞬間、今回では実朝は殺されないのだ、と悟った。あまり脈絡はない。ただの感覚である。

でも『鎌倉殿の13人』の最初の音だけに注目して第1話から全部見直したので、なんとなく気配がわかってくる。

冒頭、何の音もしなかったから、たぶん誰も死なない。

そう感じられた。

実際それが当たっていたかどうかはあまり問題ではなく、冒頭の一音が、そういうことを想像させる力を宿しているのだ。

力の入ったドラマが作られていることに感銘するばかりである。

45話の実朝襲撃を見守るのは誰か、操るのは誰になるのか。

鳥の声が別の視点から何かを見つけ出しそうである。

鳥の声から始まったのは全部で13回

8時になると「大河ドラマ」という文字が出る。

そのあとまず鳥の声から入った回をふりかえってみる。

13回あった。

8話、11話、13話、17話、18話、19話、21話、22話、32話、35話、38話、40話、43話。

44話中13回である。

多い。

ただ、鳥が鳴くと必ず不吉、というわけではない。

でもまあ、これだけたくさんの人が死ぬから、鳥の声で始まり、大事な人がいなくなる回というのは多い。

鳥が鳴いて、八重(新垣結衣)は死んだ

11話「許されざる嘘」では、脅すような鳥の声から始まり、物語は義時と八重(新垣結衣)の結婚の話が進んでいくが、終盤に八重の父、伊東祐親(浅野和之)がその息子とともに殺された。

17話「助命と宿命」ではウグイスの鳴き声の京都御所のシーンから始まる。そのあと源義高(市川染五郎)が殺され、その関連で一条頼時(前原滉)と藤内光澄(長尾卓磨)も殺される。悲惨な回である。

18話「壇ノ浦で舞った男」は甲高い鳥の声から入り、壇ノ浦で平家一族が次々と入水、二位尼に抱きかかえられ安徳帝も「波の下の都」へと向かう。

21話の「仏の眼差し」は、悲しげな高い鳥の声から始まり、夕景のなか、北条義時が亡き義経(菅田将暉)のことをおもいだしている。そして、最後になって八重が川で流されて死ぬ。

32話は「災いの種」では切り裂くような鳥の声から始まり、頼家の子の一幡が殺され、仁田忠常(ティモンディ高岸)が自害する。

鳥の鳴き声から始まると、人の死を目撃することが多かった。

ケモノの声から始まっても不吉

鳥ではなく獣(ケモノ)の声のときもある。

23話「狩りと獲物」は、頼朝のおこなった富士の巻狩りの回で、冒頭、「イノシシの鳴き声」から始まった。これは字幕放送の字幕で「イノシシの鳴き声」と確認できる。

曾我兄弟の仇討の回であり、このドラマでは曽我十郎、五郎の兄弟(田邊和也、田中俊介)の目的は頼朝暗殺であり、間違えて工藤祐経(坪倉由幸)を殺した、とされている。

兄は仁田忠常に斬られ、弟は斬首となった。

41話「義盛、お前に罪はない」、この回は「馬のいななき」から始まっている(字幕はただ「いななき」とだけ入っていた)。

和田一族が合戦の用意をしているところであった。

和田義盛(横田栄司)をはじめとして、和田一族は殲滅せらるる。

ケモノの声もまた、『鎌倉殿の13人』では悲しい声に聞こえてくる。

セミの声から始まると平穏

セミの声で始まったこともあった。

それは34話「理想の結婚」と、37話「オンベレブンビンバ」である。

でも、こちらはさほど重要人物は死んでいない。

虫の声は生物というよりは自然のなかのひとつととらえられているのだろう。

風の音などと同じ扱いなのだ。

そのへんも何だかおもしろい。

あらゆる自然の音もまた、『鎌倉殿の13人』では効果的に使われている。

つまり「自然に見えているが、恣意的」というふうに捉えることができる。

義時はあらゆることを操るようになる

北条義時の政治姿勢のようである。

このドラマの主人公北条義時は、いまやダークサイドの帝王のような存在で、すべてのことを目立たないところから動かしている。

義時は多くのことを陰から操っている。

自然をさりげなく動かすくらいは手もないこと、そういうことを暗示しているようにも見えてきた。

やがて朝廷から治天の君まで、義時は操ろうとしている。

そして、それを批判的に描いてない。

この大河ドラマが痛快なのは、そういう視点にあるのだろう。

恐ろしい男を見据えた大河ドラマになってきた。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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