ウクライナ避難ペット検疫で注目【致死率100%の狂犬病】何が恐ろしいのか?
ウクライナ避難民のペットの検疫は「特例ルール※」が適用されることになりました。SNSで注目されている狂犬病。この狂犬病は何が恐ろしいのか、そしてなぜこのような長く厳しい動物検疫があるのかを見ていきましょう。
※特例ルールに関しては、こちらも参考にしてください
【狂犬病予防法】ウクライナ避難者の「愛犬を助けて」検疫期間の約54万円から、「特別ルール」とは?
人畜共通感染症で致死率100%
狂犬病は、人畜共通感染症で主にイヌ(すべてのほ乳類に感受性があり、ネコ、フェレット、アライグマ、キツネ、コウモリを含む野生動物もウイルスを保有)からヒトに感染します。
ヒトもイヌも発症すれば、有効な治療法がなくほぼ死亡する恐ろしい病気です
(ヒトの症状)
発症までの潜伏期間は、一般的には20日から3カ月(長い場合は数年に及ぶことも)で、症状は発熱、頭痛、食欲不振、筋肉痛、咬傷部位の痛みで風邪のような症状から始まります。やがて、神経症状が強くなり、錯乱、幻覚が現れます。恐水症と呼ばれる、水を飲む行為で喉に痙攣が起こるので水を避けます。最終的には、昏睡状態になり呼吸困難になぅて死亡します。通常、ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはありません。
(イヌの症状)
発症までの潜伏期間は2週間から2カ月とされていますが、最長6カ月以上という報告もあります。
ヒトと同じように発熱、食欲不振、性格が臆病になったり、おとなしい性格だったイヌがきつくなったりします。次に、神経症状が強くなり落ち着きを失い、徘徊、不眠、大きな声で吠えます(イヌには恐水症状は見られません)。この時期には目の前の物でもヒトでも何でも咬みつく行動が見られます。突然攻撃をするため、大変危険です。やがて意識が薄れ、呼吸麻痺により死亡します。発症すると死亡までの期間は10日とされていますが、平均2日程度で死亡することが多いとされています。
イヌはイヌ間で伝播し流行を持続させる動物です。
潜伏期間が長いので動物検疫で係留期間が180日
ウクライナ避難民のペットが180日もの間、係留されるのは、あまりにも長すぎるのではと注目されていました。
その理由を科学的な根拠から見ていきましょう。
上述からわかるように、狂犬病の潜伏期間が1週間ではなく、このように長いので、180日もの検疫期間が必要になるのです。
一般的にはイヌの潜伏期間は2カ月ですが、最長で180日以上もあるので、そのあたりを考慮して180日間になっています。
潜伏期間とは、簡単に説明すると病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間。いまは症状がないけれど、ひょっとしたら狂犬病にかかっているかもしれないので、潜伏期間中に係留してその間に異常がないか観察することが大切なのです。
狂犬病の抗体価があれば大丈夫なのか?
これを読んでいる人は、ウクライナ避難民のペットは抗体価を調べているので大丈夫じゃないかと思われるかもしれません。狂犬病の抗体価はあくまでもワクチンを打っているということを示すものです。
しかし、ワクチン接種前に狂犬病に感染していれば、その後ワクチンを打ってもいずれ発症してしまうのです。狂犬病の潜伏期中は、抗体に変化がありません。変化するのは、発症したときだけです。
このようなことがあるので、狂犬病の長い潜伏期間のために日本の動物検疫の書類がそろっていない場合は、180日もの長い係留期間があるシステムになり、国民の安全を守っているのです。
狂犬病ウイルスを持っているイヌに舐められただけで感染する?
もちろん狂犬病にかかった動物(統計上ヒトの狂犬病の95%以上がイヌ由来)に咬まれた部位から感染します。唾液に含まれるウイルスが侵入することを忘れてはなりません。
つまり、狂犬病にかかったイヌに口元や傷口を舐められただけで感染するのです。
日本は狂犬病清浄国なので、正しい知識を
日本でも、かつては多くのイヌが狂犬病と診断され、ヒトもイヌも狂犬病に感染し死亡していました。1950年に狂犬病予防法が制定され、イヌの登録、予防注射、野犬などの抑留が徹底されるようになり、7年という短期間で狂犬病がない国、狂犬病清浄国になりました。イヌが狂犬病の予防をすれば、ほぼヒトの狂犬病を防ぐことができるのです。
筆者は、獣医師になって狂犬病のイヌを診察したことがないので、机上の知識しかありません。つまり狂犬病を診察した医師も獣医師もほとんどいないのです。
一人一人が狂犬病に関して科学的に正しい知識を持ち、これから海外からやってくる避難民のペットの検疫をどうすればいいのかと、科学的な根拠を持って話し合うことが大切です。
1957年から日本には狂犬病はないので、狂犬病は忘れさられた死の感染症だということを覚えておきましょう。