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園芸品種の草花が野の自然を侵食する

田中淳夫森林ジャーナリスト
ムスカリ。品種は数多いが、いずれも病害虫に強く野生化しやすい。

自宅近くを散歩していると、農地と自動車道の間の土手にさまざまな花が咲いていた。青、紫、赤、黄色……鮮やかな色の花は春を感じさせる。

が、小さな青い花を観察してみると、あまりに整っていることに疑問が湧いた。野の花としては、ちょっと不自然。自然界の花は、わりと地味なものが多いと思っていたのだが……。

そこで改めて調べると、ムスカリという名だった。この花は公園の花壇などで見かけたことがある。南西アジアから地中海地方が原産で、日本には園芸種として持ち込まれたらしい。つまり外来種で、しかも園芸用に品種改良されたものなのだ。それが、野生化していたのだ。

それで見かけた草花を調べて、その名を検索してみると、結構な割合で外来種であり、人為的に持ち込まれた園芸品種であるものが多かった。

アップルミント
アップルミント

わかりやすいのはシソ科のミントだ。ペパーミント、スペアミントなど品種は多いが、ハーブとしての需要だけでなく、近年は花を愛でるために栽培されることもある。それが旺盛な繁殖力で野生化してしまったらしい。ほかにもハナトラノオ、カラミンサ、オキザリス……いかにも花壇に似合いそうな草花が野の自然に生えている。葉が青みを帯びた金属的な光沢のあるコンテリクラマゴケも外来の園芸種なのだが、結構山林で野生化しているのを見かけた。

コンテリクラマゴケ
コンテリクラマゴケ

環境に悪影響をもたらす特定外来植物として繁茂が問題になっているオオキンケイギクも、本来は花を楽しむ園芸種として日本に入ってきたという。一方で日本原産のホトトギスから園芸用に品種改良されたタイワンホトトギスなども日本で野生化しているようだ。

オオキンケイギク
オオキンケイギク

見たことのある草花だと思っていたら、目にしたのはホームセンターの花苗売り場だったかもしれないのか。

なんとなく人間が改良した園芸用の草花は、人が世話をしないとちゃんと育たない……というイメージがあり、だから野生化しにくいと思いこんでいた。しかし日本の風土に適合すると、在来種を蹴散らして繁殖するものも少なくない。

一時、世話の要らない花園づくりとして、ワイルドフラワーという呼び名で数々の外来植物が導入されたことがある。生命力が強くて放置してもよく生えるので手軽に花を楽しめるという魂胆だったが、その繁殖力を甘く見た結果、野生化が進んで各地に大繁殖してしまった。

オオキンケイギクも、今は栽培禁止なのだが、野原や農地、宅地までとどめようのないほど広がっている。

春になって、自宅の花壇に花を植えることはよくあることだが(私もやっている)、その種が庭やプランターから飛び出して野に広がるとなると、ちょっと問題だ。花が咲き終わったら、気軽に土ごと捨てる人もいるようだが、気をつけねばなるまい。種子だけでなく、根茎から増えるものも少なくないからだ。

野原に園芸品種のきれいな花が増える……などと言って安易に喜べない事態である。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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