Yahoo!ニュース

プロップ号泣。早大ラグビー、敗戦にも収穫大―夏合宿の帝京大戦

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
早大FW(手前)はスクラムで帝京大と互角に対抗。(21日・長野・菅平)=筆者撮影

 チャレンジである。大学ラグビーの夏合宿の練習試合の大一番が長野・菅平であり、覇権奪回を目指す早大が、大学王者の帝京大と対戦、28-35で逆転負けを喫した。早大の就任2年目、大田尾竜彦監督は悔しい表情にも収穫を口にした。

 「今日は全員が戦う姿勢を見せてくれました。そこがよかった。スクラムに関しては、互角以上に組めました」

 21日のサニアパーク菅平。涼しい高原の風が吹き、キックオフ時点では、雲の合間に青空も見えていた。気温が23度。グラウンド周りには数百人のラグビーファンの姿も。スポーツ専用チャンネル「J-SPORTS」が生中継したことでも、その注目ぶりがわかる。

 早大がえんじ色のジャージ、帝京大は黒色のジャージだった。どちらも他の部員のつくる花道を通って、グラウンドに入った。早大のキックオフ。敵陣深くのラックから出たボールのキックを、ロックの池本大喜が相手の死角の内側からうまく走り出して猛チャージ、そのままインゴールでボールを押さえた。先制トライ。

 6月の春季大会では、早大は帝京大に26-52で大敗していた。コンタクトエリアで後手を踏み、セットプレーでも圧倒されていた。だが、フィジカルアップに努めてきた早大はこの日、そのスクラムで互角に渡り合った。ことし、ナンバー8からフッカーに転向した佐藤健次のスクラムワークも悪くなかった。

 早大が2トライを追加した後、帝京大に3トライを返された。相手は持ち前の強いコンタクトエリアから圧力をかけてきた。どうしても、その圧力に個々のハンドリングミス、タックルミスが出る。ただ、早大は低いタックル、粘り強いディフェンスで対抗した。

 前半終了間際、帝京大から怒とうの攻めを浴びた。自陣ゴール直前、ピンチの相手ボールスクラム。帝京はスクラムトライを狙いにきた。早大はFW8人がガチッとまとまり、押し返した。ボールを出され、帝京大選手にインゴールに持ち込まれたが、早大の主将、ナンバー8相良昌彦がボール下にからだをねじ込みトライを阻んだ。21-21で折り返した。

 後半も、互角の展開がつづいた。両チームともよくファイトした。相手に挑みかかる気概だろう。「気」というか、「パッション」というか。いずれの選手も必死だった。とくにタックル、懸命のFW陣の戻りのはやさには驚かされた。勝利への執着が見えた。

 ただ、鍛え込まれたからだの大きさは帝京大が上だった。とくにバックス陣。ハンドリングスキル、判断のはやさも帝京大か。

 菅平高原の天気は変わりやすい。後半中盤から激しい雨が降りだした。28-28の同点で迎えた試合終了間際。帝京大SO高本幹也に左足で絶妙なショートパントを蹴られ、早大がその処理にもたつく間に帝京大SH李錦寿にインゴールに押さえられた。これが決勝点となった。

 シーズンに向け、両チームの力試しともいえる試合だった。昨季限りで勇退した岩出雅之監督の後を継いだ帝京大の相馬朋和新監督は、「勝って反省できることが、次につながるエネルギーになっていきます」と満足そうだった。

 「(試合テーマは)コンタクトで勝つことでした。最後までお互いによく、戦ってくれました。素晴らしかった。見ている方も秋に向けて楽しみができたんじゃないでしょうか」

 早大の大田尾監督へのライバル心は? と聞かれると、相馬新監督は「そんなあ」と言って、大きなからだを揺らして笑った。

 「私はプロップ出身ですから、スタンドオフ出身の監督に歯が立つわけがないじゃないですか」

 もちろん冗談だろう。世界一苛烈なポジションを耐え抜いた元プロップがそんなことを考えている訳がない。

 相馬新監督はスクラムのメカニズムにメチャクチャ詳しい。スクラムについて聞けば、「(早大は春から)少し変えてきましたね」と小声で漏らした。少しとは? 

 「細かい部分、いろいろと」

 例えば?

 「…。ま。止めておきましょう」

 おそらく、一番はセットアップか。組み合う前のまとまり、バインド、姿勢、高さ、足の位置などと言いたかったのではないか。

 早大に関して言えば、負けて反省することになる。より一層のフィジカルアップは必要だろうが、それだけでは帝京大を追い越せない。プレッシャー下でのハンドリングの精度、フィットネス、ゲームの組み立て、判断のスピード、セットプレーの安定、鋭いディフェンスの整備…。

 早大の大田尾監督はこうも口にした。

 「大事なのは、チームのみんなが、試合ごと、大学日本一を獲るためにふさわしいチームになれているかどうかを肌で感じることでしょう」

 月並みの言葉だけれど、早大はこの敗戦を糧にできるかどうか、だ。悔しさこそ、次へのエネルギーとなる。試合直後、早大プロップの亀山昇太郎は号泣していた。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事