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ル・マン優勝、引退、そして衝撃的なクラッシュも! 2018年 4輪レース10大トピックス(2)

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ル・マン24時間レースで優勝したトヨタ8号車(写真:田村翔/アフロスポーツ)

2018年のモータースポーツシーンを彩った話題をまとめる年末企画。第2弾も4輪モータースポーツ編。10個のニューストピックスを取り上げ、いよいよ5位から1位までをご紹介。

5位:山本尚貴が国内二冠を達成!

国内モータースポーツ界にMVPがあるとしたら、2018年のMVPは間違いなく山本尚貴(やまもと・なおき)だろう。国内トップフォーミュラの「スーパーフォーミュラ」と屈指のワークス対決の舞台「SUPER GT/GT500」の両方でチャンピオンを獲得するという偉業を成し遂げた山本は今や「日本一速い男」である。

スーパーフォーミュラで2度目の王者となった山本尚貴【写真:本田技研工業】
スーパーフォーミュラで2度目の王者となった山本尚貴【写真:本田技研工業】

特筆すべきはやはり「スーパーフォーミュラ」の最終戦の走りだった。ランキング首位のニック・キャシディ(KONDO RACING/トヨタ)を得意の鈴鹿で山本尚貴(TEAM無限/ホンダ)は凌駕し、見事に逆転チャンピオンを獲得。優勝した方がチャンピオンという分かりやすい構図のレース展開に観客が総立ちになった。レース終盤、ペースで勝るキャシディは他車のコースアウトで出たグラベルに乗ってしまい一時的なペースダウンを強いられたものの、逃げ切った山本、最後まで諦めずに山本に迫ったキャシディ。2人共にチャンピオンの価値がある名勝負だった。しかし、今季の山本は鈴鹿以外のサーキットでも優勝を飾るなど、今や真のチャンピオンになったと言える。

動画:最終戦・鈴鹿の模様(スーパーフォーミュラ公式YouTubeチャンネル)

そして翌週の「SUPER GT」でも歓喜に酔いしれることなくプッシュするレースを続け、GT500クラスでもジェンソン・バトンと共にチャンピオンを獲得。同じ年に国内トップカテゴリーを両方制するケースは近年では稀で、山本は2018年からポイント対象に加わったSUPER GTも制したことにより、F1参戦に必要なスーパーライセンス発給条件を満たした。年齢的にF1デビューは厳しいかもしれないが、ぜひ彼にスポット参戦のチャンスが巡ってくることを祈りたい。

4位:衝撃的なクラッシュから生還

2018年のF3マカオGPで長年のモータースポーツファンであっても身の毛がよだつ大クラッシュが発生した。マカオ市街地コースの名物となっている90度の直角カーブ「リスボアコーナー」への進入で、17歳の女性レーシングドライバー、ソフィア・フローシュがドライブするマシンが宙を舞い、コーナー付近にあるフォトグラファースタンドに激突。凄まじい衝撃だったが、彼女は幸運にもフォトグラファー用の隙間があったおかげで頭部の激突を免れ、一命を取り留めた。

動画:クラッシュの様子を語るフォトグラファー(South China Morning Post公式YouTube)

また、クラッシュの巻き添えになった日本人F3ドライバーの坪井翔(つぼい・しょう)もフローシュのマシンのタイヤがヘルメット付近をかすめていったことで彼自身も命に別状はなかった。フォトグラファーとオフィシャルも怪我を負ったものの、誰も命を落とさなかったのは奇跡に近い壮絶なクラッシュだった。ソフィア・フローシュは脊椎を骨折する大怪我を負ったものの、手術後に復帰を目指すというメッセージを発信している。

大事故から生還したソフィア・フローシュ【写真:Macau Grand Prix】
大事故から生還したソフィア・フローシュ【写真:Macau Grand Prix】

この衝撃的なシーンは後日、国内のテレビニュースでも取り上げられたが、SNSでは「結果は取り上げずに、メディアはクラッシュばかり報道する」というファンの怒りの声が多く上がっていた。

3位:レッドブル・ホンダが誕生

2019年、ついに「レッドブル」と「ホンダ」がF1でタッグを組むことになった。すでにジュニアチーム「トロロッソ」へのパワーユニット供給が始まっていただけに既定路線と捉える向きも少なくなかったが、6月の発表は国内F1ファンにポジティブなニュースとして受け入れられた。

今季、「トロロッソ・ホンダ」はピエール・ガスリーが第2戦・バーレーンGPで4位入賞を果たしたものの、入賞(10位以内)はブレンドン・ハートレーと合わせても僅かに8回。トロロッソはシャシーに問題を抱え、テクニカルディレクターのジェームス・キーが7月に離脱。コンストラクターズランキングは10チーム中9位と低迷した。

2018年、トロロッソに積まれたホンダのパワーユニット【写真:本田技研工業】
2018年、トロロッソに積まれたホンダのパワーユニット【写真:本田技研工業】

来季は「レッドブル・ホンダ」「トロロッソ・ホンダ」とホンダは4台にパワーユニットを供給する。「レッドブル・ホンダ」にはマックス・フェルスタッペンピエール・ガスリーが加わる布陣となり、車体性能でアドバンテージを持つ「レッドブル」とのコンビネーションには大いに期待がもてる。

しかしながら、その実力は2月のテストが始まってみないと分からない。ルノーのパワーユニットで2018年に4勝をマークした「レッドブル」がそれを上回る勝利を重ねられるのか、それとも準備の1年に終始するのか。その結果は今後の国内でのF1人気の未来を大いに左右するといっても過言ではないだろう。来季、「レッドブル・ホンダ」が日本のモータースポーツ界にさらなる関心を呼んでくれることを祈ろう。

活躍が期待されるピエール・ガスリー【写真:本田技研工業】
活躍が期待されるピエール・ガスリー【写真:本田技研工業】

【関連リンク】

Red Bull RacingへのF1パワーユニット供給に合意(ホンダプレスリリース)

2位:アロンソがF1を引退

2005年、2006年のF1ワールドチャンピオンで国内でもファンが多いフェルナンド・アロンソがF1から静かに引退した。近年のアロンソはマクラーレンに所属し、3度目のタイトル獲得に期待をかけてキャリアの舵を切ったが、マクラーレン・ホンダのパートナーシップは不発に終わり、ルノーのパワーユニットに変更した今季もシーズン開幕からの5戦連続入賞があったものの厳しいシーズンを強いられた。

アロンソは「世界三大レース」の優勝=トリプルクラウン達成にレースキャリアのベクトルを転換し、2018年はトヨタからWEC(世界耐久選手権)に参戦。6月には「ル・マン24時間レース」で優勝を果たした。これでアロンソはF1モナコGPに続いて二冠達成。あと残すはアメリカのインディ500のみとなった。

F1日本GPでサイン会に登場したアロンソ(中央)【写真:MOBILITYLAND】
F1日本GPでサイン会に登場したアロンソ(中央)【写真:MOBILITYLAND】

F1で300戦以上を戦ってきたアロンソはどれだけマシンに恵まれなくても、その実力でカバーする野生的で人間臭いF1ドライバーだった。近年こういうタイプのドライバーが減っているF1で彼の引退を惜しむ声は多い。その証拠にいまだに彼がF1に戻ってくる可能性を示唆するニュースが報じられている。ロズベルグ、バトンの引退に続き、F1ワールドチャンピオンがまたも去ったF1は彼のような存在が今必要なのかもしれない。

アロンソは2019年、WEC(世界耐久選手権)に継続参戦し、ル・マン24時間レースの連覇を狙う。また、1月のデイトナ24時間では小林可夢偉らと組み、総合優勝を狙う。

1位:トヨタが悲願のル・マン優勝!

2018年はポジティブな話題が多かった4輪レース界。最大の話題はやはりトヨタの「ル・マン24時間レース」優勝だ。これまで最高位2位止まりで、不運なトラブルで優勝を逃してきたトヨタにとっては20回目の挑戦での悲願達成となった。

ル・マンで優勝したトヨタ【写真:FIA WEC】
ル・マンで優勝したトヨタ【写真:FIA WEC】

しかしながら、今季のWEC(世界耐久選手権)はライバルのポルシェ、アウディが去り、ワークス参戦するのはトヨタだけ。FIA(国際自動車連盟)とACO(フランス西部自動車クラブ)は総合優勝を争うLMP1クラスにプライベーターの参戦を促し、優遇措置を取ったものの、プライベーターたちの実力とワークス体制を維持するトヨタの差は歴然。プライベーターたちはレースでも序盤から自滅し、WECのレースでもル・マンでも全くトヨタの脅威にはならなかった。

勝って当たり前という見方が多い中、トヨタはル・マン制覇に向けてありとあらゆるトラブルシューティングのシミュレーションを実施。ル・マンのレース中も小林可夢偉が給油ピットインのタイミングを忘れるというヒューマンエラーが発生。しかし、リミッターでスロー走行するモードに切り替えて走行し、何とかピットにたどり着くことに成功。ガス欠によるリタイアを免れ、無事に1-2フィニッシュを果たした。

実質的なライバル不在の中、トヨタの挑戦に関しては賛否両論があるのは事実だ。しかし、WECは2020年以降、最高峰クラスのマシンを「ハイパーカー」と位置付け、プロトタイプカーとGTカーの要素を兼ね備えた新クラスの設立を計画中。レギュレーションの過渡期にある中で、次の時代でリードするためにはライバル不在だから辞めるのではなく、続けること、そこに居ることが何より大切と言える。ヨーロッパが中心のモータースポーツ界でそのテーブルの中心に居た日本のメーカーはあまり例がない。国内メーカーが本当の意味で海外でイニシアティブを持てるようになるためにも継続して参戦することは前向きに捉えるべきことだろう。

【関連リンク】

TOYOTA GAZOO Racing

2018年は話題豊富な1年となった4輪モータースポーツ界。「レッドブル・ホンダ」「トヨタのWRC、WEC」「日産のフォーミュラE」など日本メーカーに夜ワールドワイドな活動が目立ちそうな2019年が今から楽しみだ。

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モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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