【4輪モータースポーツ】2017年の10大ニュース(5位〜1位)琢磨インディ優勝など話題豊富な1年
Yahoo!ニュースオーサーとして選ぶ4輪モータースポーツの「2017年の10大ニュース」。前回の記事で選んだ10位から6位は以下の通り。
「【4輪モータースポーツ】2017年の10大ニュース(10位~6位)」
10位:NAKAJIMA RACING 最後の鈴鹿1000kmウイナーに
9位:アロンソがインディ500に参戦
8位:F1が大幅にスピードアップ、鈴鹿でも最速更新
7位:小林可夢偉がル・マンでポールポジション獲得
6位:レクサス、史上最年少コンビでGT500王座奪還
それでは5位から1位までをご紹介しよう。
5位:ポルシェ、WEC LMP1から撤退
6月の「ル・マン24時間レース」で19回目の優勝を飾ってから1ヶ月ちょっと。FIA 世界耐久選手権(WEC)の先行きを揺るがす「ポルシェ、今季限りでLMP1から撤退」というニュースが飛び込んできた。ル・マンのレースウィークに開催されたACO(フランス西部自動車クラブ)による記者会見では2020年以降の新規定についても発表があり、そこにポルシェの首脳陣も出席していたのだが、急転直下の撤退発表だった。
ポルシェはWECに2014年から「ポルシェ919ハイブリッド」でLMP1に参戦。2015年のル・マンではアウディ、トヨタ、ポルシェ、ニッサンの4メーカーによる華やかな最高峰クラスを耐久レースファンは楽しんだ。しかし、ヨーロッパ主導のニッサンは戦闘力不足で早々とプロジェクトが頓挫。フォルクスワーゲンの排ガス不正スキャンダルの余波を受けて、2016年限りでアウディが撤退。今季はポルシェとトヨタの一騎打ちとなっていた。
ポルシェは参戦した初年度2014年こそ1勝に留まったものの、2015年のル・マンを制して以降はWEC LMP1のトップに君臨。2015年から3年連続でマニュファクチャラーズ(自動車メーカー)のチャンピオンに輝いた。耐久王はル・マンの3年連続の優勝を含むトータル15勝をあげてWEC最高峰クラスのLMP1を去る。
撤退と共に2019年以降の電気自動車レース「フォーミュラE」への参戦を合わせて発表したポルシェ。ドイツの自動車メーカーが一気にEVにシフトした流れもあるが、根本にはLMP1のハイブリッドマシン開発があまりにコストがかかりすぎるという部分が大きい。コストがかかる割にはライバルがトヨタしかいない状況となり、ポルシェはル・マンを三連覇して先手を打った形だ。
今後もポルシェはGTクラス(LM-GTE Pro)にポルシェ911RSRで耐久レースへのワークス参戦を継続する。マニュファクチャラーの戦いとしてはフェラーリ、フォード、アストンマーチン、ポルシェ、それに加えて来季からBMWが参戦するGTクラスの方がマーケティングとしても魅力的と言える。
WECは2020年から再び最高峰クラスLMP1に自動車メーカーを呼び込むため、レギュレーションの刷新を計画している。そのため、2018年、2019年は過渡期のシーズンとし、2018年5月の開幕戦から2019年6月ル・マンまで年をまたいだ「スーパーシーズン」を設定。LMP1にはハイブリッドで参戦のトヨタの他にエンジン車のプライベーターが多数参加する予定だ。
選考理由まとめ
・ル・マン優勝から1ヶ月の撤退発表
・ポルシェ撤退によりWECのLMP1が再編
・2018-19のスーパーシーズン化へと動いた
・次なるポルシェの舞台はフォーミュラE
4位:トヨタ、WRCで初優勝
2017年のモータースポーツで真新しい動きとなったのはトヨタの世界ラリー選手権(WRC)への参戦だろう。90年代のWRC王者トミ・マキネンをチーム代表にヤリス(日本名ヴィッツ)をベースにしたWRカーでWRCに復帰した。
Mスポーツ(フォード)、ヒュンダイ、シトロエンをライバルにチャレンジャーとして挑んだトヨタ。エースのヤリ・マティ・ラトバラが開幕戦で2位になったのに続き、早くも第2戦のラリー・スウェーデンで優勝。開幕ダッシュに成功し、いきなり初年度からの好成績も期待されたが、その後はMスポーツ、ヒュンダイが多く勝利を重ねていく。そして、第9戦のラリー・フィンランドでシーズン途中から参戦したエサペッカ・ラッピが優勝し、今季は2勝をあげてマニュファクチャラーとしてはシリーズ3位で復帰初年度を終えた。
日本では知名度がまだまだであるが、トヨタのWRC参戦はラリーの本場ヨーロッパでは販売にも影響が出てきているという。フィンランドでは第2戦で初優勝の後、ヤリスの販売が前年比1.6倍になったり、今後順次デリバリーされていく「GR」ブランドの車にも予約が多く入っているとのこと。
日本国内でもテレビ番組やウェブ上のプロモーションが盛んに行われているが、その影響はまだまだ小さい。それでも日本でのWRC開催への動きは活発化しており、勝利を重ね、ワールドチャンピオンに近づくことで、再びラリーが脚光を浴びる時は来るのではないだろうか。2017年は具体的にその兆しが見えた1年だった。
選考理由まとめ
・トヨタ最大のプロジェクト、WRC復帰
・初年度ながらいきなり第2戦で優勝
・国内外でラリーへの関心が高まった
3位:バトン、来年はSUPER GTフル参戦
今年の夏は日本のファンに人気が高いF1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンが「SUPER GT」の鈴鹿1000kmレースに「MOTUL Mugen NSX-GT」でスポット参戦し、バトンフィーバーに沸いた。7月の公式合同テストから多くの観客がバトンを見に鈴鹿を訪れ、鈴鹿1000kmレースの観客動員数が大幅に増加したのもバトン効果が大きいと言えるだろう。
バトンはF1日本グランプリで再来日した時もSUPER GTにフル参戦する意思を公言。F1からは引退し、12月のホンダレーシングサンクスデー(ツインリンクもてぎ)のイベントで来季のSUPER GTフル参戦を正式に発表した。バトンがどこのチームに属し、誰とコンビを組むかは年明けの「東京オートサロン」で発表される。
スポット参戦を通じ、バトンはSUPER GTでバトルすることの魅力に取り憑かれたという。彼がしきりに語るのはF1では属するチームのマシンで勝負が決まってしまうが、SUPER GTにはピュアな戦いがあるということだ。昨年までレギュラードライバーとしてF1を戦っていたが、マクラーレン・ホンダの不振とメルセデスの独走で彼自身はすっかりF1への興味を失ってしまったのだ。ウェイトハンデにも影響されるとはいえSUPER GTはイコールコンディションに近く、その中でレーシングドライバーが果たすべき役割が大きいからだ。
SUPER GTにとってもワールドチャンピオンのバトンがフル参戦することは一大事だ。ツイッターで全世界に300万人近いフォロワーが居るバトンの参戦は特に海外に向けた影響が大きいだろう。少し頭打ち感もあった観客動員数も増加するだろう。外国人の観客も増えるのではないだろうか。
また、SUPER GTは共通パーツを使用するDTMと昨今、積極的な交流を図っている。ドイツでSUPER GTがデモ走行し、日本でDTMがデモ走行を行うなど、両団体の交流戦の開催に向けて大きく動き出している。どちらかというとDTMが歩み寄ってきたとも言える動きだが、バトンがホンダから参戦することでSUPER GTはさらなるアドバンテージを得たのかもしれない。バトンは来年、2018年のキーパーソンとなることは間違いない。
選考理由まとめ
・バトンがSUPER GTにスポット参戦。F1ファンも多く観戦した。
・ホンダからSUPER GTへの来季フル参戦を発表
・バトンのグローバルな影響力が日本と海外をつなぐ架け橋に?
2位:トロロッソ・ホンダ誕生
2017年、「マクラーレン・ホンダ」の3年に渡る活動に終止符が打たれた。ついにという言葉を付け加えるべきかもしれない。ホンダは2015年に他メーカーに1年の遅れを取る形で「パワーユニット」時代のF1に参戦。マクラーレンへの独占供給で始まり、他メーカーと同様にマクラーレン以外の複数のチームに供給するはずだった。しかし、究極にコンパクトなパワーユニットを設計して挑むも、2015年の開幕前のテストからトラブル続出でまともに走れず。名門タッグに対するファンの期待は出だしから裏切られることになった。
ホンダは2016年に体制を一新し、第3期F1活動にも携わった長谷川祐介をF1総責任者に起用。フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンが揃ってポイントを獲得する(最高位は5位)など躍進し、マクラーレン・ホンダのコンストラクターズ(車体製造社)ランキングは6位に上昇した。そして、2年間で培ったノウハウを込めた新設計のパワーユニットを投入して挑んだ2017年シーズンだったが、これまたテストから想定以上の速さを発揮できずに苦戦(最高位は6位)。コンストラクターズランキングは9位に転落した。マクラーレンの在英メディアを使ったホンダ批判報道が繰り返され、ついにマクラーレンはホンダとの決別に踏み切り、2018年からルノーのパワーユニット供給を受けることになる。
パワーユニット独占供給のフルワークス体制で挑んだ「マクラーレン」と「ホンダ」。本当のところ悪かったのはどっちだったかは今さら知る必要もない。答えは来年の成績に込められている。ホンダは来季のパートナーとしてレッドブルの若手育成チーム「トロロッソ」と手を組み、パワーユニットを独占供給する。「トロロッソ」の源流はイタリアのプライベーター「ミナルディ」にあり、マクラーレンとは全く異なる小規模チーム。ホンダにとっては自分たちの技術で小規模チームをさらに上のポジションに押し上げるというこれまで以上に難しい責務が待っている。
ドライバーは今季、ホンダと共に「スーパーフォーミュラ」で戦ったピエール・ガスリー、そして今季のWECでル・マン優勝&LMP1ワールドチャンピオンに輝いたブレンドン・ハートレーの2人。どちらも新人だ。今のところ「トロロッソ・ホンダ」に他を圧倒するアドバンテージはほとんどないと言えるが、ゼロというよりマイナスからのスタートでどこまでのパフォーマンスを見せられるか。それ次第でホンダの評価は大きく変わるはずだ。
選考理由まとめ
・マクラーレンとホンダのコラボは3年で決裂
・来季ホンダはレッドブル傘下のトロロッソにPU供給
・マクラーレンはルノーのPU供給を受ける
・ピエール・ガスリーがトロロッソのドライバーに
1位:佐藤琢磨、日本人初インディ500優勝
これに異論を唱える人は居ないだろう。5月28日、インディカー最大のレース「インディアナポリス500マイルレース(インディ500)」で日本人ドライバーとして初めて佐藤琢磨が優勝を飾った。今季、トップチームの「アンドレッティ・オートスポーツ」のシートを掴み、「インディ500」でも車のポテンシャルは最高潮。まさに波に乗って「インディ500」優勝というビッグタイトルを掴んだ1年だった。
北米が中心の「インディカー」はテレビ放送の時間が日本の深夜から朝方になることが多く、最近はインディジャパンも開催されていないため、モータースポーツファンの関心が決して高いわけではなかった。ただ、世界三大レースとして多くの人がその存在を知る「インディ500」で佐藤琢磨が優勝してからは空前絶後の「琢磨フィーバー」にモータースポーツ界が沸いた。
テレビ、新聞など多くのメディアがその偉業を報道し、久しぶりに一般レベルまでに浸透したモータースポーツニュースになった。また、佐藤琢磨の個人スポンサーであるグリコが優勝時の両手ガッツポーズ写真を大阪・道頓堀の同社の電子看板で掲示したことも話題に。佐藤の帰国時には様々な祝賀イベントが行われ、毎度のごとくその様子が報道された1年だった。その功績は国にも認められ、佐藤はモータースポーツ選手として初めて「内閣総理大臣懸賞」するなど、日本のモータースポーツの地位向上に今年最も貢献した功労者である。
Yahoo!ニュースも今年の1年を振り返るまとめ動画の中で佐藤琢磨の優勝を数多くのスポーツニュースの中からピックアップした。これは驚いたと同時に、モータースポーツに携わる人間として本当に嬉しい気持ちになるものだった。これまでYahoo!トップページにはF1関連の話題か事故のニュースくらいしかピックアップされることがなく、まだまだマイナースポーツ扱いされている感があるモータースポーツだが、佐藤琢磨のインディ500優勝はそういった意味でもいろんな壁を突破してくれた。
「Yahoo!ニュースで振り返る2017年」(動画あり)
佐藤琢磨は来季、古巣の「レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング」に移籍し、ホンダエンジンと共にインディ500の連覇を狙う。
選考理由まとめ
・日本人初のインディ500優勝は歴史的快挙
・各メディアやイベントで大きく取り上げられた
・内閣総理大臣顕彰を受賞した
・Yahoo!ニュースでも今年を象徴するニュースとして選ばれた
というわけでYahoo!ニュースオーサーとして「4輪モータースポーツ、2017年の10大ニュース」を選んでみたが、2017年はあなたはどんなニュースを今年の10選に選ぶだろうか。次回は「2輪モータースポーツ」の10大ニュースを取り上げる。