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ハロウィーン渋谷大騒ぎの心理学:迷惑行為、逸脱行為はなぜ生まれるのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
2018年 ハロウィン 東京・渋谷(写真:Michael Steinebach/アフロ)

■ハロウィーン渋谷大騒ぎ:非日常、お祭り?

今年も、渋谷は大騒ぎでした。「渋谷は無法地帯と化した」「一部、暴徒化した」などと言われるほどです。

渋谷のハロウィーンに主催者はいない。それでも毎年、街は若者で埋め尽くされる。〜ここまで混雑が激しくなったのは、2014年ごろから〜トラブルや苦情が相次いだ。〜今年も〜警視庁は警察官の増員を決め、深夜から未明の警備を強化する“厳戒態勢”を敷いた。〜

出典:<ハロウィーン>非日常の出会い求めて 狂騒の街・渋谷ルポ :毎日新聞11/1

「10月31日から11月1日にかけて、混雑に紛れて痴漢やスリなどをしたとして、少年1人を含む計13人を逮捕した。痴漢やスリなどの被害相談は数百件に上るという」(混雑に紛れ痴漢やスリ、ハロウィーン被害数百件:読売新聞11/1)。

楽しいお祭りという面がある一方で、多くの人が迷惑を受け、マスコミ報道も否定的なものが多いようです。なぜこんなことが起きるのか、心理学の面から考えてみたいと思います。原因を探ることが、解決への糸口となるでしょう。

■なぜ、迷惑行為、違法、逸脱行動が起きるのか

日常を離れ、非日常を楽しむことは良いことです。それが、各地にある「祭り」です。ただ、多くの祭りには伝統と長い歴史があり、主催者がいて、ルールがあり、そして地元の人が中心に動いています。その結果、混雑があり、多少の羽目を外した行為はあるものの、限度をわきまえ、社会はそれを認めます。

ところが、渋谷のハロウィーンは違います。多くのトラブルが起きています。

■迷惑行為とは

迷惑行為は、悪意のある場合とない場合があります。渋谷のハロウィーンは、人が集まりすぎています。その結果、多くの人が迷惑に感じていますが、集まった人に悪意はありません。

しかし中には、あえて迷惑行為をする人もいます。通行の邪魔になるのに、道路上で大騒ぎをして集団で踊る人たち。平気でゴミを路上に捨てる人たち。店のトイレを勝手に使い、さらに更衣室として無断で長時間使用してしまう人たち。

人はなぜ迷惑行為をするのでしょうか、またしないのでしょうか。例えば、混雑する駅でも私たちはきちんと並んでスムーズに乗り降りします。個人である「私」としては、少しでも早く乗り込み座りたいのですが、誰かがそんなことをすれば混雑が増します。それでは、「私たち」は困ってしまいます。

このジレンマの中で、私たちはルールと秩序を守ります。渋谷で平気で迷惑行為をする人々には、ジレンマはありません。このような大騒ぎになれば、渋谷やハロウィーンのイメージが悪化すると思うのですが、そんなことを気にしなければ、ジレンマは起きません。自分の都合だけを優先してしまうのです。

■違法行為、逸脱行為はなぜ?

さらに、法に反するような悪いことをする人もいます。うっかり出来心でしてしまうのではなく、確信犯的に堂々と行なっている人々もいます。違法な改造車で乗り付けたり、自動車から体を乗り出している人もいます。

最初から、違法な悪いことを楽しむためにハロウィーンの渋谷に来ている人もいるでしょう。こうなると、「DJポリス」もあまり効果が出ません。

 <「DJポリス」に警視総監賞。その言葉に若者が従った理由を心理学的に考える

確かに祭りは、日常では許されない行為が許される場所です。裸祭りや、けんか祭りなど、全国各地にあります。ただし、いくら祭りだと言っても、どの程度なら許されるのかというコンセンサスが時間をかけて作られてきました。また参加者は、地元の人間であり、地域と祭りを愛する人々です。だからこそ、限度をわきまえます。

しかし、ただ悪ふざけをすることを目的に来た人々は、限度を超えてしまいます。

人は、集団になると、基本的に愚かになります。電車の中で大声で話したり、道路を横に広がって歩いてしまうことなどは、子供若者だけではないでしょう。さらに大きな集団になると、没個性化し、感情が伝染しやすくなり、誰かが叫ぶとみんなが叫ぶようになります(群集心理)。

また人は、顔や名前が見えない「匿名性」が高まると、違法行為、逸脱行為をしやすくなります。人がとても多いというだけで、匿名性は高まります。悪いことをする人が多すぎて、警察も手が回りません。ハロウィーンの仮装も、匿名性を高めます。事実、道路標識に登っている様子がテレビに映されても、顔が見えません。

人は、周囲の人と同じことをしようとします。歩いてはいけないはずの車道でも、みんなが歩いていれば、歩きたくなります。夜は騒いではいけないはずですが、みんなが騒いでいれば自分も騒ぎます。みんなが道路上にゴミのポイ捨てをすれば、自分もしても良いと感じます。このような「同調行動」による迷惑行動、逸脱行動が、あちこちで見られたのでしょう。

ハロウィンの夜の渋谷(写真素材 -フォトライブラリー)
ハロウィンの夜の渋谷(写真素材 -フォトライブラリー)

もちろん、悪いことは悪いことです。「道路にゴミを捨ててはいけません」です。このようなルール、マナーを、「命令的規範」と呼んでいます。法定速度は、命令的規範です。

ところが、みんなが法定速度以上で運転している、みんながゴミを道路にポイ捨てしている状態だと、それが標準だと感じて、自分も同じことをしようとしてしまう。これを「記述的規範」と呼んでいます。

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は、同調行動と記述的規範から生まれます。

さらに、普通なら非難されるようなひどい行為も、このような興奮状態にある群衆の中では、喝采を浴びることがあります。本来なら、白い目で見られるのに、讃えられる「アンチヒーロー」になってしまうのです。

私たちは、警察官がいなくても、周囲が白い目で見るだけで悪いことはしにくくなるのですが、白い目で見られず、歓声だけが聞こえるような環境では、あえて悪いことをして目立とうとする人々が出てしまうのです。

■共同体社会の崩壊、社会の拡大、そして孤独と自己中心

地方都市の若者に、楽しい思い出について聞くと、「地域の祭り」をあげる人が結構います。有名な祭りではなくても、地域の人がみんなで協力して作り上げる祭り、子供若者もおじさんおばさんと一緒に、祭りの道具を作ったり、みんなで練り歩いた経験は、楽しい思い出になっているようです。

全国どこにでもあった、このような共同体社会、一体感があり、羽目を外した祭りを楽しみ、困った時はみんなで助けあう。そんな共同体、コミュニティーは、次々と消えています。

一方、社会は拡大しています。有名な祭りには、全国、全世界から観光客が集まります。マナーを守らない観光客の問題も、大きな社会問題です。渋谷のハロウィーンも、マスコミが報道するから悪いという人もいますが、外国人などは、ユーチューブで見て渋谷に来ようと思ったと語る人もいます。

共同体は崩壊し、社会が拡大する中で、様々なトラブルが起きています。公よりも自分を中心に考える人も増えます。

現代社会ではまた、孤独が広がっています。イギリスでは、孤独対策大臣ができたほどです。日本でも、寂しい若者が増えています。明るくはしゃいでいても、実は愛されている実感がなく、拒絶されていると感じている人たちがいます。

心理学の研究によると、自分は拒絶され、孤独だと感じる人々は、将来の見通しを立てることができず、逸脱行動を起こしやすくなります。

迷惑行為、逸脱行為を平気でする人々は、「共感性」が低いこともわかっています。迷惑をかけても全く構わないと感じている人もいます。周囲に人がいること自体を、忘れてしまう人もいます。

自分の行為のために、泣いたり怒っている人がいても構わないと思う人もいるわけですが、泣いたり怒っていたりする人がいると想像できない人さえ増えています。

さらに、逸脱行為をする人々は、「自己制御力」が弱く、自己抑制ができない、つまり自分の行動にブレーキがかけられない人々です。その結果、行き過ぎた行為を働いてしまいます。

共感性や自己制御力を高めるためには、教育や躾が必要です。そして、その前提、土台となるのは、愛されている実感です。自分が大切にされているからこそ、みんなのことも大切にしようと考えられます。ただし、それだけでは不充分で、我慢すること、自己犠牲的にみんなに貢献できることを学ばなければならず、自己制御力を鍛えなければなりません。

また、自己制御力には限界があるとされています。筋肉は鍛えれば強くなりますが、休ませる必要もあるのと同じです。誰かにしっかり愛されて、受け入れられている「癒しの場所」があり、同時に鍛えてもらえる「我慢の場所」や「活躍の場所」があることで、私たちの共感性や自己制御力は成長するのです。

「子供若者を愛し、ほめて育てることが基本であり、同時に厳しさや高い目標も与えることが、自己制御力や、我慢してやり抜く力を育てます」(ほめられ続けてきた子供若者の大問題:子育ての基本:Y!ニュース有料)。

■「渋谷を愛する人々」

このような迷惑な大騒ぎで、渋谷区長は怒っています(渋谷ハロウィンで逮捕者続出、区長が怒りの声明「到底許せるものではありません」)。それでも、「渋谷を愛する人々」によって、ゴミが片付けられ、翌朝には綺麗な渋谷に戻っていることに誇りを感じ、まただからこそ、その心を踏みにじる人に怒りを表しています。

渋谷は、文化の香りがする大人のおしゃれな街でした。それが、少しずつ変質していったように感じます。以前のように高級ブランドが売れなくなったとも言われています。このハロウィーンの大騒ぎで、さらに渋谷のイメージが下がることは避けたいと思います。大騒ぎする若者の問題は、渋谷だけではなく、私たちみんなの問題です。

区長は、有料化案も出しています(渋谷区長、ハロウィーン有料制検討「騒動になっている」:朝日新聞デジタル11/1)。

この騒ぎを鎮めるためには、規制も必要でしょう。ただ、規制だけでは不十分でしょう。たとえば、以前話題になった「荒れる成人式」は、式を主催する自治体と成人の若者自身との協力によって、問題は改善されていきました(「荒れる成人式」と青年の心理:格差社会の中で私たちは新成人に何を伝えるのか)。

規制や処罰も必要ですが、渋谷と若者とハロウィーンを愛する人々によって、解決への道を探りたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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