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「荒れる成人式」と青年の心理:格差社会の中で私たちは新成人に何を伝えるのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■今年も「荒れる成人式」?

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「荒れる成人式」が大きく報道され始めたのは、2001年ごろからでしょう。

成人式 新成人大暴れ !? の 心理(2001):心理学総合案内こころの散歩道

この年とその後の数年間、ずいぶん報道され、そして各地の成人式で、新成人自身が企画に参加するなど、様々な工夫がされ始めました。今年も様々な報道があります。

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新成人の企画参加は、すでに定番の方法ですから、それだけではあまり記事にならないようです。

■なぜ荒れる成人式があるのか:市長の話なんか聞けない

単に綺麗な格好がしたかったり、昔の友達に会いたいだけなのに、市長の堅苦しい挨拶を聞かされるのは我慢できない。市長の挨拶は礼儀正しく聴くべきだといった規範意識はない。という新成人もいるでしょう。

昔であれば、父親、校長、市長などの「権威」には従う規範があったでしょうが、現在では「フレンドリー」が標準かもしれません。相手の社会的地位が高くても、フレンドリーに接してくれななければ満足できない青年も一部にはいるでしょう。

■なぜ荒れる成人式があるのか:目立ちたい、盛り上げたい

目立ちたい、自分なりに盛り上げたいと感じる人もいるでしょう。昔であれば、市長の挨拶を妨害するのは、市長の権威権力への反発だったと思いますが、そのような社会的な意味で騒ぐ新成人はほぼいないと思います。

実際に追い出されたり、捕まったりした新成人の言い分は、「目立ちたかった」「盛り上げようと思った」といった単純な理由がほとんどです。ポリシーを持って市の行事を妨害した人なら、捕まっても自説を述べるでしょうが、現代の荒れる新成人たちは、あっさりと反省して謝罪したりします。

「目立ちたい、盛り上げたい」といっても、喜んでいるのはほんの数人の仲間だけです。世間が怒るだけではなく、会場にいる新成人たちも、少しも喜んでいません。

中学1年生なら、授業中にふざけたり、授業妨害したりする生徒が「英雄」になることもあるでしょう。それでも、中学3年にもなると、周囲は白け始め、そうすると授業に参加できない生徒は孤立感を深めて、さらに不適応行動を見せることもあります。

荒れている高校に入ると、また授業妨害が生徒たちからは歓迎されることもあるようですが、やはり3年生になると現実的に考えられる生徒も増えて、授業妨害は歓迎されなくなります。

■格差社会の中で

経済格差、学力格差、いろいろ言われますが、最も恐ろしいのは、「希望格差」だと思います。

ある昔の成人式で、成人代表として登壇した青年は、当時の国鉄の保線員でした。最終列車が通った後の真夜中の線路で、彼はツルハシを振るいます。決してスポットライトを浴びるような仕事ではありません。

しかし彼は、「僕が鉄道の安全を守っています」と誇らしげに語り、大きな拍手が温かく彼を包んでいました。

どのような進路であれ、自信を持って希望に満ちて進んでいる人は、幸せです。けれども豊かになった現代社会で、希望を失っている若者たちが続々と生まれています。何か特別に目立つ格好良いことでなければだめなのだと、思い込む人もいます。

もう子どもではない。誰も大目には見てくれない。でも、秩序を乱す彼らにとっては、成人式はむしろ最後の晴れ舞台なのかもしれません。自分の存在感を示し、影響力を与え、注目してもらえる大舞台なのかもしれません。

本当は、そんな変なことをしなくても認めてもらえるし、地道な努力はきっと報われると、新成人たちに言える社会にしていく必要があるのではないでしょうか。

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上で紹介したビンで殴ったとされる事件は、酒が絡んだ事件でした。このニュースには、下記のオーサーコメントをしました。

酒は犯罪の発生率を高めます。様々な研究によると、傷害事件や殺人事件の数十パーセントに酒が絡んでいます。

成人式は、本来酒を飲んで行く場所ではないでしょう。しかし、「荒れる成人式」のニュースにしばしば酒が登場します。

秩序を乱した新成人に聞くと、単純に「盛り上げようと思った」と語る人もいます。中学までは同じ立場だったのに、20歳になって順調に人生を歩んでいる人もいれば、人に自慢できることがない人もいます。

成人式は、もう一度平等に扱ってもらえる場です。その中で、もう一度目立ちたい、ウケたい思いが、過激な行動を生むこともあるでしょう。

もう大人ですから、迷惑行為や違法行為を周囲が笑って許すこともなく、説教だけで済むこともないことを、知らなくてはならないのですが。そしてそれぞれが、人生の目的をつかんで自信を持って成人式に出席できれば良いのですが。

碓井真史2016/1/11 12:03

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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