アメリカにも煉獄の炎が燃えさかる?今ブームとなりつつあるFIREとは?日本版「9つの炎柱」を考える。
煉獄の炎は日本だけでなく、アメリカでも燃えさかる?
日本では今、煉獄の炎が燃えさかっています。映画「鬼滅の刃 無限列車編」はこのペースでいけば、史上1位の興行収入を得る作品となることはほぼ間違いなさそうです。本作の中心人物のひとり、煉獄さん(炎柱)の紅蓮の炎が鬼を切り裂く姿に多くの人が心を奪われました。
ところが、アメリカでも「炎」つまり「FIRE」が燃えさかっているとしたらどうでしょうか。
もちろん鬼滅の刃がアメリカで大ブームという話ではありません。アメリカで燃えさかる炎は「Financial Independence and Retire Early」の略です。直訳をすれば、「経済的独立、そして早期リタイアを実現する」というところでしょうか。
もしかすると日本に逆輸入されるかもしれないこの「FIREムーブメント」について紹介しつつ、また日本では実現可能なのか考えてみたいと思います。
経済的独立を果たして、早期リタイアを実現する夢
私たちは常に何かに縛られています。仕事の責任だったり、家族を背負う責任だったり、いろんな「縛り」がありますが、その多くが「お金」という制約であることは間違いありません。
まず、毎月の生活費をまかなえなければ生きていけません。食費や日用品、家賃に公共料金など、1カ月の稼ぎの多くはあっという間に消えていきます。
趣味や娯楽のための予算もそうした支出のわずかな残りからまかなわれます。ストレス発散をしたい場合も、それをお金で解消しているといえます。
子どもが生まれれば子育ての費用がかかります。高校と大学の7年間、子どもは生意気盛りですが、支出としてはいくらあっても足りない時期が続きます。総額1000万円ともいわれます。
家を買えば住宅ローンを返し続けることになります。そうでない場合は賃貸暮らしの家賃を払い続けなければいけません。
収支のバランスが崩れるとクレジットカードの返済額などが増えて、やりくりに苦労することもあります。消費者金融やキャッシングを安易に利用した人は、金利がついて返済に追われます。
私たちは「衣・食・住」と「生きがい」を維持するためにお金を稼ぐ必要があり、そのために常に仕事に追われています。
このサイクルからなんとか脱却して経済的独立を果たすことができれば、仕事を辞めてリタイア生活を始めることもできます。
FIREムーブメントはそうした「夢」の実現に向けて取り組むものです。
アメリカではどうやって「炎柱」を作り、早期退職を実現するのか
アメリカで提唱されているFIREは基本的な方法論は、それほど難しいものではありません。簡単にいえば
- できる限り稼ぐ(高年収の仕事あるいは副業など)
- 生活コストを徹底的に抑えて、差分を貯蓄や投資に回す
- 運用収益率を高める
- リタイア後は計画的に取り崩す
といった取り組みをうまく組み合わせていくことです。
まず、仕事でしっかり稼ぎ、また副業なども可能であればチャレンジします。年収を高めるほど貯蓄額を増やすことになるからです。早期リタイアのためには「稼ぐ」ことが第1です。
次に、貯蓄や投資に回すお金を残すことを考えます。貯蓄率を高くすることはつまり稼いだ額より少なく生きるということです。そこで必要となるのは「節約」のライフスタイルになります。ただし、何でも削るというよりは、いらないものを徹底的に切り詰めるような考え方でこのテーマに挑みます。
第3にお金を増やすことを考えます。必要となってくるのは投資です。投資対象を何に設定するのか、投資収益率をどのくらい狙うのか、によって収益率は変動してきます(そしてリスクも変動します)。しかし、預金だけでお金を増やすことは難しいというのは基本的な考え方です。
もし、あなたが早期リタイアしてもいいくらいにお金が増えたら、今度は早期リタイア後の資産管理の問題が生じます。調子よく取り崩していたらお金はなくなり、慌ててアルバイトをする、というのは困るからです。
「FIRE」というキーワードで書籍検索をすれば、いくつかの本がヒットします。内容について私の見解を述べるなら、「おおむねシナリオには賛同できるが、細かいところでは私はこういう説明やアプローチは採らない」という感じです。
投資やライフプランの実用書というよりは自己啓発色が少々強めなのでその点は留意しながら読むといいでしょう。またFIRE関連書が否定しがちなライフプランや投資の基本書籍も併読するとむしろ計画にはバランスが取れると思います。
日本版FIREとして「9つの炎柱」を考えてみた
さて、日本版FIRE、すなわち炎柱になりたいと考える人に、いくつかの「翻訳」をしてみたいと思います。せっかくなので鬼滅の刃の「柱」が9人いることにちなんで9項目でポイントを整理してみましょう。
1柱.老齢期に公的年金がもらえますのでこれをどう考慮するかが「炎柱」をいくらと設定するかの分岐点です。公的年金抜きだと65歳リタイアでも夫婦で8000万円は必要です。しかし公的年金を差し引けば1500~2000万円である程度の趣味や娯楽費も出せます。ただしこれは標準的なリタイア年齢での資産目標です。
2柱.そうすると、「公的年金をもらう前の期間」をどれくらい設定するかが炎柱のカギとなります。無職無収入の期間を作るわけですから、年400万円で暮らすといっても、55歳リタイアでは4000万円がさらに必要になる勘定です。この場合「4000万円+2000万円」が55歳時点での目標値となります。
3柱.リタイアを早くすると、準備期間も短くなるので貯蓄計画はかなりハードになります。22歳から65歳まで43年かけて貯める目標を33年で貯め、かつ目標金額は大幅増ですから、年収の10%程度の貯蓄率ではまったく足りません。25%以上は目指す必要があります。これはけっこおう高いハードルです。
4柱.しばしばFIREとミニマリストのライフスタイルがセットになります。これは徹底的な節約をしなければ貯蓄を大きく増やすことができないからです。FIRE本でも基礎的な生活コストをとにかく下げ、不要なケーブルテレビ契約など冗長なコストはとにかくカットしろと書かれています。ただし生活コストを削りすぎ、無理をしすぎないようなバランス取りが必要です。
5柱.運用については日本の制度を考える必要があります。具体的にはiDeCo、つみたてNISAなどの税制優遇口座が活用できます。特にiDeCoが使える場合、上限まで入金します。所得税や住民税に引かれるはずだった20~30%相当が手元に残るので、それだけで運用益25%以上の獲得に相当するからです(初年度のみの利益ですがそれでも大きい)。
6柱.貯めたお金の投資対象としては国内外の株式に投資を行うバランス型ファンド(できれば債券投資比率は低い方がいい)に長期積立を行うといいでしょう。低コストの投資信託にすることがオススメです。
7柱.バランス型ファンドで期待できる運用利回りは平均して4%前後、3~6%くらいは期待できますが、物足りない人はリスクを取ることになります。私はオススメしませんが、レバレッジをかけてFXをしたり個別株への集中投資をすることになります。ただし投資のメンテナンスに相当のリソースを毎日費やす必要があります。
8柱.あなたがもし「完全リタイア」ではなく「セミリタイア」でよいなら実現の可能性は少し高まります。例えば年収100~200万円程度の仕事は続けつつ、フルタイム、残業月100時間のような生活からリタイアするというのなら、65歳より前の取り崩し額は一気に減ります。仮に年200万円の取り崩しになれば、55歳での準備額は2000万円(+老後の2000万円)までダウンします。
9柱.現実問題として考えると「引退前と引退後の期間にぴったり使い切る額を貯めたらFIRE」とはなかなかいきません。現実にはかなりの経済的余裕を作っておきたいところで、ここをどれくらいのバッファーとするかは難問でしょう。人によってはプラス3000万円でも安心料として納得できないかもしれません。そうすると10年早いリタイアはちょっと現実的ではありません。
あなたも「煉獄の炎」を燃やしてFIREを目指せ
「日本版FIRE」として鬼滅の刃にちなんで「炎柱」の立て方を考えてみたのですが、整理するといろいろ話はふくらんできそうです。
FIREムーブメントは「意識高い系」のテーマのように捉えられがちで、それは普通の人の参入を阻んでいる感じがします。むしろ誰でもチャレンジしてみたいテーマとして再定義が必要で、一般化、普遍化が求められているように思います。
また、結果として標準的なリタイアになったとしても、経済的豊かさはかなり確保でき、老後の安心は相当アップする効果が期待できます。つまり、引退が結果として早回らなくてもこのムーブメントにチャレンジする価値はあります。
本記事が掲載される週末は、おそらく「鬼滅の刃 無限列車編」が300億円を超えて史上1位に躍り出るタイミングではないかと思います。
あなたも、あなたなりの「炎」を燃やし、経済的独立と老後の安心を確保する方法を考えてみてはいかがでしょうか。
(参考まで)
Wikipedia FIRE ムーブメント
※FIREに明確な定義がない中で、一通り説明が行われている。ただし、執筆者(あるいは引用媒体)の考え方には少し偏りがあるようです。
lifehacker[日本版] 40歳でセミリタイア。FIREの基本と始め方とは?
※海外記事の翻訳でおおむねバランス良くFIREムーブメントをまとめています。
ThePAGE 40歳で引退!米国の若者の間で広がる「FIRE」運動 日本ではムリ?
※なぞり方としてはアメリカのエリートがこういうことやっているよくらいの興味本位の紹介ですが雰囲気をよく伝えています。
※国民が消費を控えたら経済がシュリンクするのでは、というまとめ方なのでFIREの本質的解説ではない気がしますが、日経新聞も取り上げている、と思うと興味深いところです。