「舌まで凍った」「口から泡を出している人が」――中国「21人死亡」クロスカントリー参加者が語った恐怖
中国甘粛省で22日に開催された全行程100kmのクロスカントリー大会が突然の悪天候で気温が急降下、参加者21人が死亡するという痛ましい出来事が起きた。救助された参加者たちが中国メディアのインタビューに応じ、当時の恐怖を生々しく語っている。
◇急激な気温低下で低体温症
大会は甘粛省白銀市などの主催で、映画・テレビ番組の撮影でよく使われる風光明媚な山岳地帯「黄河石林」で開かれた。
172人が参加して午前9時にスタートした。だが昼過ぎになってコースの20~31km区間にある海抜約2000mの場所で突然、ひょう、冷たい雨、突風が発生して悪天候になった。
気温が急激に低下して参加者は低体温症に見舞われ、一部が行方不明となった。参加者から救助を求めるメッセージが届いたため、主催者側は午後2時ごろ大会を中止にして、救助隊を派遣。午後3時の段階で151人の安全を確認し、軽傷を負った5人を病院に運んだ。
地元当局は1200人態勢で行方不明者を捜索したものの、地形が複雑なうえ、夜間で気温がさらに下がって捜索は難航。その後、21人は心肺停止状態で発見され、死亡が確認された。
◇「仲間が意識もうろう」
参加者のひとり、中国の著名登山家、羅静(Luo Jing)氏が中国中央テレビ(CCTV)のインタビューに当時の様子を語っている。
「スタート前、平地では雨風はそれほど強くなかった。山を登ってしばらくすると、何人かが下り始めているのに気づいた。その時はとても不思議だった。『寒すぎる』と言うのだ。彼らはシャツとショートパンツ姿で、それ以上の防寒はしていなかった」
「だが登れば登るほど、撤退する参加者が多くなり、ふらふらしながら歩いている人もいた。参加者の中には『早く下に行くように』と声をかける人もいた。彼らは『上に行けば、口から泡を吹いている人や、地面に倒れている人がいる』と警告してくれた」
「私はまだ状態が良かったので、先に進んで様子を見ようかと思った。だが、人も少なくなり、風も強くなる。一緒にいた仲間の中には意識がもうろうとする人も出てきて、急いで降りることにした」
◇「指の感覚がなくなった」
参加者の張小濤(Zhang Xiaotao)氏は中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で次のように発信している。
「現地は全体的に暑かったため、参加者の多くは十分な装備を準備せず、半袖・短パンだった。20km地点で、雨風が非常に強くなり、痛かった。登っていくうちに雨が冷たくなって気温が急降下し、多くの参加者が棄権を選択した」
「その後もレースを続けたが、手足が硬くなり、強風にあおられて転倒を繰り返した。自分自身を制御できなくなり、意識が薄れていった。33km地点(海抜約2200m)で最後の力を振り絞って、全地球測位システム(GPS)を搭載した携帯通報端末でSOSを押し、助けを求めた。2時間ほど意識を失っていたが、幸い地元住民に救助された」
匿名の参加者は、香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)の取材に次のように答えている。
「びしょ濡れになり、かろうじて立つことができていた。サーモブランケット(耐寒性・防水性の高い毛布)で暖をとろうとしたが、風で吹き飛ばされてしまった。他のランナーのブランケットも強風でズタズタになっていた。指の感覚がなくなった。温めようと思って指を口に入れたが、何も感じない。舌まで凍ったように感じた」
◇観光戦略の一環
SCMPによると、中国では近年、マラソンや超長距離走が人気を博し、辺境の地で開催されるレースでは、豪華懸賞金が用意され、参加者を魅了している。今回の大会でも、主催者は完走者に1600元(約2万7000円)を授与するとしていた。甘粛省のほか雲南省や四川省などは観光戦略の一環と位置づけ、スポーツ大会の資金を確保している。
一方で、山岳地帯のレースは街中とは異なり、森を通ったり、荒れた斜面を登ったり、川を渡ったりしなければならず、中国の専門家は、各地点で医療救助ポイントを設置するのが容易ではないと指摘する。救護車両の現場乗り入れも難しく、多くの場合で専門のレスキュー隊員が徒歩で入って救助措置を取る必要があるという。