「振り子式」特急車両381系 特急「やくも」での42年に及ぶ定期運行に終止符
6月15日、伯備線経由で岡山と出雲市を結ぶ特急「やくも」で使用されてきた特急型車両381系が、昭和57(1982)年7月1日以来42年間に渡る定期運行を終えた。381系は国鉄時代に製造された特急型電車としては最後まで定期運行が残っていた形式で、鉄道ファンからの注目を集めていた。
381系は日本初の車体傾斜式(自然振り子式)特急型車両として昭和48(1973)年に登場。振り子式車両とは、車両がカーブを通過する際に車体を傾けることであまり減速することなく通過できるようにした車両のことで、その登場によってカーブが多い路線においても高速走行により所要時間の短縮が可能となった。最初に導入されたのは中央本線経由で名古屋と長野を結ぶ特急「しなの」で、それまでのディーゼル特急よりも所要時間を約40分短縮して名古屋~長野間を3時間20分で結んだ。
381系は「しなの」では20年以上に渡って活躍。JR東海発足後の昭和63(1988)年3月6日には前面展望を売りにした「パノラマグリーン車」も登場した。平成6(1994)年12月1日には後継の383系「ワイドビューしなの」が登場したことで定期運行からは引退したものの、振り子式は383系にも受け継がれている。JR東海の381系はその後も臨時輸送に用いられていたものの、平成20(2008)年5月に全廃。クハ381‐1とクロ381‐11がリニア・鉄道館に保存されていたが、特殊な車体構造が祟っての老朽化により、クロ381‐11は令和元(2019)年6月7日に展示を終了し、その後解体された。
「しなの」に続いて381系が導入されたのは天王寺と新宮を結ぶ紀勢本線の特急「くろしお」で、昭和53(1978)年9月15日から運行を開始した。京阪神からリゾート地・南紀白浜への旅行客を中心に利用され、後には運行区間を京都・新大阪~新宮間に拡大。通勤客を輸送する「はんわライナー」「やまとじライナー」といったホームライナー列車にも用いられた。
平成元(1989)年にはJR西日本でも「パノラマグリーン車」が登場し、連結した列車は「スーパーくろしお」として運行されていた。早々と置き換えられた「しなの」とは対照的にリニューアルを行って30年以上に渡って運行を続けたものの、287系・289系への置き換えにより平成27(2015)年10月30日をもって「くろしお」からは撤退した。
ホームライナーに用いられた日根野所属の381系は、より古い183系800番台を置き換えるための「つなぎ」として平成23(2011)年3月12日から北近畿地区においても運行を開始した。福知山線経由で新大阪と城崎温泉を結ぶ特急「こうのとり」に用いられ、その活躍は287系が揃うまでの2か月余りに過ぎなかったものの、平成24(2012)年6月1日には「くろしお」から転用された別の編成によって「こうのとり」での運用が復活した。後に京都と城崎温泉を結ぶ「きのさき」、京都と天橋立を結ぶ「はしだて」にも投入されて、183系を完全に置き換えている。しかし、こちらも289系までの「つなぎ」で、平成27(2015)年10月30日に引退した。
今回引退した特急「やくも」に381系が導入されたのは昭和57(1982)年7月1日のことで、381系の新製投入はこれが最後となった。電化・381系の投入により「やくも」の岡山~出雲市間の所要時間は平均3時間39分から平均3時間20分へと約20分の短縮を実現している。平成6(1994)年12月3日にはパノラマグリーン車連結の「スーパーやくも」も登場した。
「やくも」用の381系はその後も伯備路の主力として活躍、座席等を改善したアコモ改善車も登場し、通称「緑やくも」と呼ばれる塗色を纏っていた。平成19(2007)年4月3日にはリニューアル車「ゆったりやくも」が登場、ピンク色の塗色で伯備路に彩りを添えている。その後、リニューアルは「スーパーやくも」車も含めた他の車両にも波及し、全列車が「ゆったりやくも」編成で運行されるようになった。
このように幾度もの改造を経て、42年に渡って活躍してきた「やくも」用の381系だったが、さすがに寄る年波には勝てず、後継の273系に置き換えられることとなった。273系は381系よりも乗り心地を改善した「車上型振り子装置」を導入した車両で、今年4月6日から営業運転を開始している。
273系の導入により順次引退し、この度定期運行からの撤退を迎えた381系。その最後を彩るかのように、特急「やくも」運行開始50周年の令和4(2022)年3月から、国鉄時代の塗装を復刻した編成が運転されていた。令和5(2023)年2月には「スーパーやくも」、11月には「緑やくも」編成も登場。381系の引退を控えた伯備線沿線には鉄道ファンが集まり、ちょっとしたお祭り騒ぎとなった。
定期運行を終えた381系は今後は臨時列車等に使用される予定で、完全引退はまだ少し先になる見込みである。記念すべき車両ということで、京都鉄道博物館での展示も期待したいところだ。
ちなみに、国鉄型特急「電車」は381系の引退をもって定期運行を終了したが、「気動車」ではまだ現役で、JR四国「剣山」・JR九州「九州横断特急」などでキハ185系が細々と現役を続けている。また、臨時列車用としては特急「踊り子」などで活躍した185系電車がまだ残存しており、こちらもいつまで残るのか気になるところだ。