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もう若くはないヒロインの「生」と「性」を体現する丸純子。順調だったリポーター業を離れた理由は?

水上賢治映画ライター
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

 突然の夫との死別からまだ立ち直れないでいる淳子と、職人気質といえば聞こえはいいが何事も生真面目すぎて融通のきかない裕司。

 いまはパートナーが不在。でも、まだ未練がないわけではない。

 もう若くはない、でも、枯れるにはまだ早い。

 もう人生の折り返し地点は過ぎている。でも、まだまだその先の人生は続く。

 いまおかしんじ監督の「あいたくて あいたくて あいたくて」は、そんな大人の男女の運命とまではいわないが、なにかの始まりを予感させるめぐり逢いを見つめている。

 メインキャストのひとり淳子を演じているのは、いまおか監督作品に欠かせない女優の丸純子。

 これはご本人に失礼に当たるかもしれないが、彼女は、ありふれた日常の中にいる中高年層のヒロインを変に若く見せない、着飾らない、あくまでも普段着で演じることができる数少ないこの年代の女優といっていい。

 淳子というヒロインを「性」と「生」を体現してみせた丸に訊く。(番外編全二回)

「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影
「あいたくて あいたくて あいたくて」の主演を務めた丸純子  筆者撮影

リポーターから女優に転じた理由

 全六回のインタビューに続く番外編では「あいたくて あいたくて あいたくて」から離れて女優・丸純子の話を。

 ここまでのキャリアを振り返りプロフィールを拝見すると、もともとリポーターとして活躍。写真集を出したのを機に女優としてのキャリアをスタートさせたとなっている。

 演じ手へとシフトしたきっかけは何だったのだろうか?

「プロフィールを順序だててみていくと、そうなるのですが、もともとわたしは役者のお仕事をしたくてこの世界に入ったんです。

 とりわけ映画に出ることへの憧れがありました。

 ただ、当時はまずタレントとして売り出して、顔が知られるようになってから俳優業にも進出みたいな方針だったんです。

 で、いったんわたしもそれに同意して、リポーターのお仕事をするようになったんです。ただ、続ける中で、なんとなく俳優のお仕事がどんどん遠のくような気がして、心がモヤモヤしてきてしまった(苦笑)。

 今ならわかるんです。まずタレント活動をしてみて、そこから俳優業にシフトしていく流れもありだな、と。

 でも当時、まだ若かったわたしは理解できなかった。『いや、わたしは役者としてのお勉強をしたい、演技を学びたい』と、とにかく役者業にどっぷり浸りたかった。少しでも早く映画の現場に入ってみたかった。

 そこで、役者主体でやっていくことを決めて、そこでまず写真集を出すことが決まって、お芝居の仕事も決まってとなっていったんです。

 だから、最初から役者としてやっていきたい人だったんです」

わたしはかなり使えないリポーターだった(笑)

 傍からみると、リポーターとして順調なキャリアを歩んでいたように映る。それを捨てるのは勇気がいったのではないだろうか?

「ありがたいことに順調にお仕事はいただけていたんです。リポーターのお仕事も楽しかった。

 ただ、役者をやりたい気持ちが強くある。なので、ふと『これは別にわたしじゃなくてもいいのではないか?』とか思ってしまうことがある。

 あと、はっきり言うと、わたしはかなり使えないリポーターだったと思います。

 俳優志望だったわけですけど、リポーターとして演じなければいけないことがうまくできなかった。

 ほんとうに当時のディレクターの方にすっごく怒られました。

 たとえば辺境にある名店を探していたとする。

 そうしたら、『あった!やっとみつかった!』みたいなリアクションを多少オーバー気味に言うことが求められる。

 そういうことがわたしはうまくできなかった。ある意味、自分の気持ちにバカ正直な人間なので、嘘がつけない。

 気持ちがほんとうにそう動かないと『あった!』とようやくみつけた感のある言葉として出てこないんです。

 それでも自分としてはうまくやっているつもりなんです。大真面目に『あった!』と言っているつもりなんですけど、周囲からするとぜんぜんリアルじゃない。

 ディレクターからも『お前はほんとうにへたくそだな』と言われて、できるまで何度も何度もやらされたこともありました。

 それでもできなくて、あるとき、その何度もやり直したVTRをVHSのビデオで渡されて『自分がどれだけ下手か見ればわかるから、これみて勉強しろ』と言われたこともありました。

 そのビデオテープはいまももっています(苦笑)。だから、リポーターとしてはかなり落ちこぼれだったんです」

「あいたくて あいたくて あいたくて」より
「あいたくて あいたくて あいたくて」より

何日間か密着取材するのは得意だったというか、性に合っていました

 ただ、得意なリポートもあったそうだ。

「半日ぐらいのロケで終わるようなリポートはダメなんですけど、たとえば海外にいって、恵まれない国の学校の子どもたちに密着取材とかあるじゃないですか。

 こういう何日間か密着取材するのは得意だったというか、性に合っていました。

 やはり数日でもいっしょに過ごすとものすごく相手に感情移入するし、入り込んじゃう。気持ちがほんとうに動かされるんですよね。

 言葉は通じないんですけど、気持ちが通じ合う瞬間があるので、ほんとうにリアルな言葉が出てくるし、その場その場でリアルな感情が生まれる。感動したら、自然と涙目になっちゃう(笑)。

 いまでも忘れられないのが、タヒチの子どもたちに会いにいったことがあったんです。

 そうしたら、最後の別れのときに、わたしたちのロケバスの後ろを、子どもたちが泣きながら走って追い掛けてきたの。

 そして、みんな『ジューン、ジューン』と叫んでいる。

 いまでも思い出すと泣けてきちゃう。

 こういうリポートの役目はもしかしたら合っていたかもしれません」

 もしかしたら、そういう自分の心がリアルに動かされる場所を求めていたのかもしれない。それが丸にとってはお芝居で、自分の心がリアルに揺り動かされるような役をリアルに演じる。そのリアルな演技が人々の心を動かす。そういうお芝居をしてみたい気持ちがずっとあったのかもしれない。

「そうかもしれません。

 自分が感じたことをそのまま出すような表現がしたかった。それがお芝居ではないかと思っていたような気がします」

(※番外編第二回に続く)

【丸純子インタビュー第一回はこちら】

【丸純子インタビュー第二回はこちら】

【丸純子インタビュー第三回はこちら】

【丸純子インタビュー第四回はこちら】

【丸純子インタビュー第五回はこちら】

【丸純子インタビュー第六回はこちら】

「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアルより
「あいたくて あいたくて あいたくて」ポスタービジュアルより

「あいたくて あいたくて あいたくて」

監督:いまおかしんじ

出演:丸 純子 浜田 学

川上なな実 柴田明良 青山フォール勝ち 山本愛香

足立 英 青木将彦 松浦祐也 川瀬陽太

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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