マリオと任天堂の3度目の正直がひらく、「ゲーム」キャラクターの新しい未来
いよいよ、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)に、新しいテーマパーク「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が正式オープンしました。
早速大きな注目を集めているようで、ツイッター上には早朝から新アトラクション目当てに並ぶ長蛇の列の写真が多数あがっていますし、USJというツイートの数もオープン日に爆増していることがグラフを見ても良く分かります。
ご存じの方も多いと思いますが、実はこの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のオープンは、本来は2020年夏頃の開業を予定していたのが、延期に延期を重ねた文字通りの3度目の正直の正式オープンです。
待ち望んでいたファンはもちろん、USJや任天堂の関係者の方々にとっても、感慨がひときわ大きいだろうことは想像に難くありません。
筆者は緊急事態宣言下の関東在住ですので、当然ながらまだ新アトラクションは体験できていませんが、今回のスーパー・ニンテンドー・ワールドは、ここ数年のマリオというキャラクターの進化を語る上で非常に重要な転換点と感じていますので、ご紹介したいと思います。
マリオの位置づけの進化
「マリオとは何か?」と聞かれたら、多くの方が脳裏に浮かべるのは「ゲームキャラクター」という単語でしょう。
ファミコンか、スーファミか、Wiiか、Switchか。
ドンキーコングか、スーパーマリオブラザーズか、マリオカートか。
体験したゲーム端末やゲームは、当然世代によって異なると思いますが、基本的にはマリオやルイージというキャラクターは、ゲームの画面の中に存在していて、ゲームキャラクターとしてバーチャルにプレイする存在でした。
しかし、そのマリオの位置づけは、この数年明確に変化しています。
象徴的なのは、昨年8月に発売されたレゴと任天堂のコラボによる「レゴ スーパーマリオ」でしょう。
このレゴは、通常のレゴとは異なり、レゴにモーションセンサーやサウンド効果を組み合わせることによって、デジタルのゲームキャラクターとしてのマリオの世界観をアナログの世界で楽しむことができるもの。
アナログのおもちゃとデジタルのゲームを組み合わせたハイブリッドな新しい遊びを、子どもが体験することができる非常に画期的な商品でした。
さらに任天堂は9月には「マリオカート ライブ ホームサーキット」を発売。
マリオやルイージが乗ったリアルのおもちゃが、ゲーム機のSwitchと連動することで、家の中がデジタルのマリオカートのサーキットになって遊べるという画期的な仕組みが大きな話題になり、発売後しばらく品薄が続いていたほどでした。
私も息子用と称して両方とも購入しましたが、大人ながらも、アナログとデジタルを組み合わせた新しいおもちゃの可能性にワクワクさせて頂いてます。
リアルとバーチャルのハイブリッド
そして、今回の「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は、テーマパークの中で、文字通り私たち誰もがマリオになって、ゲームの世界を体験できます。
参考:USJ「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のテクノロジーがわかる22枚の写真とテック記者が感動した3つの理由
エリア内では、「パワーアップバンド」とスマホのUSJアプリが連動し、アトラクションで遊ぶと、その結果に応じたコインやスタンプが記録され、その日の他のプレイヤーやチーム内のランキングで競える仕組みもあるそうです。
こうした取り組みは、2014年の「キャラクターIPの積極的な活用」に踏み切るという任天堂の発表を起点とした取り組みの成果のようで、おそらくは2020年のオリンピック開催とスーパーマリオブラザーズの35周年をターゲットに様々なプロジェクトが動いていたものと思われます。
残念ながらコロナ禍により、オリンピック開催もスーパー・ニンテンドー・ワールドのオープンも、延期する結果になったわけですが、ようやく任天堂とマリオによるアナログとデジタルの融合、リアルとバーチャルのハイブリッドの集大成が、ここにオープンしたと言えます。
アニメから飛び出したミッキーマウス
ここで今後注目したいのは、マリオという「ゲーム」キャラクターのこれからのさらなる飛躍です。
あえて比較対象として参考にしたいのがウォルト・ディズニーにより生み出された「ミッキーマウス」の歴史。
ミッキーマウスも、もともとは90年以上前に生まれた白黒アニメのキャラクターでした。
それが、アニメーション映画シリーズのヒットから、ディズニーランドというテーマパークの成功を通じ、いまやアメリカ文化のシンボル的キャラクターとして世界的に人気をあつめるキャラクターとなりました。
いまや、ミッキーマウスがもともとアニメのキャラクターだったことを知らない子どもも多いことでしょう。
マリオは「ゲーム」のイメージを変えられる
一方のマリオも、オリンピックの閉会式で安倍元首相がコスプレで登場したように、日本文化のシンボル的キャラクター。
スーパーマリオブラザーズは昨年35周年を迎えた人気長寿ゲームですし、レゴとのコラボや、ライブホームサーキットのように、いまやマリオのオモチャ化も進んでいます。
さらに今回のスーパー・ニンテンドー・ワールドのオープンにより、「マリオ」はいわゆる「ゲーム」キャラクターの枠から、明らかに一歩外に踏み出しているわけです。
特に日本では、論争を巻き起こした香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」に見られるように、「ゲーム」という単語を総じてネガティブにとらえたり、依存性の高い課金ゲームも、普通のゲームも、一緒くたに制限しようとする人が少なくない印象もあったりします。
私自身もゲーマーですし、様々なゲームを通じた経験が今の自分を育ててくれたと思っていますから、ゲームには良い面がたくさんあると思っていますが、マリオはさらにそんな「ゲーム」の定義を飛び出し、おもちゃやテーマパークに活動の場を広げています。
マリオは、これからの「ゲーム」キャラクターや、「ゲーム」の定義を、もっと広くポジティブに変えてくれるシンボルになってくれる可能性をもっている存在なのです。
「誰もがマリオになれる」
特に個人的に注目したいのが、マリオがミッキーマウスとはまた全く違う位置づけのキャラクターであるという点。
ミッキーマウスは「憧れ」の存在であり、ディズニーランドに「会いに行く」ディズニーのシンボル的なキャラクターですが。
マリオは、実は私たち自身が操作する分身のような存在であり、スーパー・ニンテンドー・ワールドでは「誰もがマリオになれる」という独特なポジションのキャラクターです。
アメリカの大統領が、ミッキーマウスのコスプレで土管から登場することは絶対にあり得ないと思いますが、日本の首相がマリオのコスプレで土管から登場するのは何の問題も無いわけです。
なにしろ、誰もがマリオになれて当然なので。
そういう意味で、せっかくのスーパー・ニンテンドー・ワールドのオープンという明るいニュースの日に、オリンピックに関連するスキャンダルのニュースが重なってしまったのは、なんとも残念としか言えませんが。
これからマリオと、マリオに影響を受けて育った子ども達が、日本や世界をさらに面白く楽しい場所にしてくれることを期待したいと思います。