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【関根勤】テレビは「放電」、舞台は「充電」。今の僕があるのはカンコンキンシアターのおかげ

ボブ内藤編集者、ライター、インタビュアー
撮影/八木虎造

2024年2月、扶桑社から芸能生活50周年記念エッセイ『関根勤の嫌われない法則』を上梓した関根勤さん。

アドラー心理学を題材にしたベストセラー本『嫌われる勇気』にアンチテーゼを投げかける問題作……、というわけではなく、「関根さんを嫌いな人は芸能界にひとりもいない」との世間の評価に対して、関根さん本人が真摯に人生と向き合い、「嫌われない法則」を分析した笑いと感動の書だ。

そんな関根さんが1989年、35歳のときに自ら座長をつとめる劇団「カンコンキンシアター」を旗揚げしたエピソードについて、語ってもらおう。

ナンセンスな「裏関根」を追及した劇団活動

関根勤の3文字を音読みした劇団名でもわかる通り、「カンコンキンシアター」は座長の関根さんが演出と構成を手掛けるナンセンス軽演劇集団。ここでは関根さんは「芸能界一嫌われない男」の好感度をかなぐり捨て、エロとグロに満ちた笑いにこだわる「裏関根」の顔を披露している。

現在、チケットが予約開始30分で完売になるほどの人気公演となっているが、当初はどんなきっかけで始まったのだろう?

きっかけは、ラジオでした。ニッポン放送の『関根勤のTOKYOベストヒット』という番組のパーソナリティーをつとめていたんですが、そこのディレクターのところにあるメーカーさんから「若者向けのイベントを企画してくれないか」という話がまわってきたんです。

イベントの内容は、すべておまかせ。好きなことを何でもやっていいっていうんです。魅力的な話でしょ?

そこで僕は、有名・無名を問わず、お笑い好きな人に自分の好きなコントを披露する場にしようと考えました。主要メンバーの僕とラッキィ池田、ルー大柴のほかにはオーディションで出演者を決めて、まだ日の目を見ていない若手にチャンスを与えられればと。

実は、ちょっとした誤算があって、本番に向けた稽古合宿の最中、声をかけてくれたメーカーさんが業績悪化か何かの理由でスポンサーを降りてしまったんです。
でも、それくらいのことで盛りさがるほど、僕らのやる気はヤワなものではありませんでした。漕ぎだした船だ、自腹でやっちゃおう、って少しの迷いもなしに突っ走りしました。

第一回目の公演から、すごい手応えがありました。楽しかったですねぇ。
1回きりのお祭のつもりだったけど、「座長、来年もう1回だけ、やりませんか?」って、みんなから声があがるくらい。

ところが2回目の公演をやり終えても、「もう1回」という声が消えることがないんです。気がついたら、それが30年以上続いて今に至るというわけ。

座長である僕にとって何よりうれしいのは、「キャイ~ン」や「イワイガワ」、「ずん」など、当初は活躍の場がなくてくすぶっていた人たちが、この舞台をきっかけにスターになる糸口をつかんでくれたことです。

撮影/八木虎造
撮影/八木虎造

当初は伸び悩んだ飯尾和樹の地味過ぎる存在

「カンコンキンシアター」はテレビ関係者らのマスコミ観劇率が高く、ここで存在を知られた新人がテレビのバラエティ番組やドラマ、映画に起用されることも珍しくない。

なかでも最近は、「ずん」の飯尾和樹さんのブレイクっぷりが目覚ましい。

さまざまなバラエティ番組で引っ張りだこになっているだけでなく、本業以外でも映画『沈黙のパレード』の演技でブルーリボン賞助演男優賞を受賞し、俳優としての存在感も増している。

だから、2023年の第34回公演には、「飯尾和樹がスターに成りました」という副題をつけて、チラシも彼の似顔絵を全面展開しました。
本番でもできるだけ、彼の出番を増やしてね。

2023年4月、コロナ禍を経て4年ぶりに開催された「カンコンキンシアター34 クドい!~飯尾和樹がスターになりました~」のチラシ。
2023年4月、コロナ禍を経て4年ぶりに開催された「カンコンキンシアター34 クドい!~飯尾和樹がスターになりました~」のチラシ。

飯尾くんは確か、5~6回目の公演からのメンバーなんですけど、あまりに地味すぎる存在で、途中であきらめそうになったくらい。

稽古が始まる前の台本には、セリフがいろいろと書かれていて、稽古で余計なところを削ぎ落としていくんだけど、たいていの場合、最初にカットされるのが飯尾くんのセリフなんです。
だから、本番になると彼のセリフは、ふたことみことくらいしか残ってなくて、地味さがますます際だっていくんです。「地味さが際だつ」って、おかしな言い方ですけど。

そんな彼が40代までずっと潜伏し続けて、50代でやっとブレイクした。これほどうれしいことはないじゃないですか。

劇団を通じて身につけた「他を活かし、自を活かす」手法

関根さんにとって、「カンコンキンシアター」の舞台に立つことには、どんな意味があるのだろうか?

テレビに出るときと比較すると、カメラの前で何かを表現しているときは「放電」という感覚に近いような気がします。それに比べて、「カンコンキンシアター」の舞台に立つときは、「充電」という言葉がピッタリきます。

「自分の好きなお笑いはコレなんだ」ということを確認する場所であり、お客さんの反応を見ながら「まだコレで行けるんだ」という確信を得るために欠かせない場所。

もうひとつ、関根さんにとって大きな意味があったことは、劇団での活動を通じてチームワークの大切さに気づいたことだ。

僕が劇団を旗揚げした3~4年前、小堺くんが『小堺クンのおすましでSHOW』という舞台を始めたんです。

出演者が好き勝手に自分の好きなネタを詰め込むスタイルの僕の劇団に比べて、小堺くんの舞台はニューヨーク・ブロードウェイのミュージカルショーを参考にした、歌あり、ダンスありのオシャレなステージなんですね。そのなかで、笑いの要素も必要だからと最初のころは僕もゲストに呼ばれてコントやトークを披露していたんです。

ただ、同じ舞台でも『おすましでSHOW』の場合、僕の出番は限定的でしたから、自分が出ているところでいかにウケるか、ということしか考えていませんでした。

ところが、自分が座長をつとめる劇団の公演となると、そうはいきません。そもそもが「無名の若手のチャンスの場とする」という意図がありましたから、出演してくれるメンバーが舞台の上でいかに輝いてくれるかをつねに頭に入れて、稽古から本番まで、一緒にじっくりと見せ方を考えていきます。

その影響で、関根さんはテレビのバラエティ番組に出るときも、同じように番組全体の出来映えのようなものを考えるようになっていった。

自分のみが番組内で目立つことを考えるのではなく、ほかの出演者やスタッフに配慮できるようになったという。

例えば、若手のタレントさんや芸人さんと一緒に番組に出演するとき、僕がメインMCの人と話し込んだりしてしまうと、若手の人たちが入りにくい空気を作ってしまいますよね。そこで、タイミングを見計らって、若手たちがいちばん入りやすいところで話をスッと振るんです。

すると、若手たちのおもしろさが伝わるだけでなく、番組自体がバランスよくおもしろくなるから、視聴者は「またこの番組を観よう」と思ってくれる。
自分が目立つこと以前に、そういうことを考えられるようになったのは、劇団の座長として、出演者のおもしろい面を引き出したいと思ってやってきたことがベースになっていると思います。

要するに「オレがオレが」という境地を脱して、「他を活かし、自を活かす」という手段を僕は劇団から学んだんですね。

結局のところ、「おもしろいことを一途に追及していく努力」だけでなく、「みんなで一緒に気持ちよく仕事をする」ということも同じように重要なんですよ。
ひいてはそれが視聴者に伝わり、番組が長く続いていくことにつながるんです。

関根さんはテレビのバラエティ番組の起ちあげから参加し、いずれも長寿番組になることが多くあるが、その理由は、劇団の座長経験から培われた、関根さんのプロデューサー的な視点が評価されているからなのかもしれない。

関根さんが「芸能界一嫌われない男」になった背景には、そんな彼自身の内面的な成長が大きく影響しているのだろう。

撮影/八木虎造
撮影/八木虎造

「関根勤芸能生活50周年記念公演 カンコンキンシアター35 クドい! ~烏骨鶏のジジィ参上~」は2024年4月26日(金)~5月6日(月・祝)、銀座 博品館劇場にて開催。
「関根勤芸能生活50周年記念公演 カンコンキンシアター35 クドい! ~烏骨鶏のジジィ参上~」は2024年4月26日(金)~5月6日(月・祝)、銀座 博品館劇場にて開催。

※この記事は、かっこよく年を重ねたい人におくるWEBマガジン「キネヅカ」に公開された記事を加筆・修正したものです。是非、そちらの全長版もお楽しみください。

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編集者、ライター、インタビュアー

編集プロダクション方南ぐみを経て2009年にフリーに。1990年より30年間で1500を超える企業を取材。財界人、有名人、芸能人にも連載を通じて2000人強にインタビューしている。著書に『ビジネス界に脈々と伝わる先人の知恵 業界のセオリー』(徳間書店)、『人を集める技術!』(毎日新聞社)、『はじめての輪行』(洋泉社)などがある。また、出版社の依頼で賞金500万円の小説新人賞の選考事務局を起ちあげ、10年間運営した経験のもと、齋藤とみたか名義で『懸賞小説神髄』(洋泉社)を執筆。それをきっかけに、池袋コミュニティカレッジ「小説のコツ」の講師を2013~2023年の10年間つとめた。

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